見出し画像

企業再生メモランダム・第19回 組織の論理について

「企業再生メモランダム」では、私が、20代の時に、複数の会社の企業再生に従事する過程で作成したメモを題材として、様々なテーマについて記載していきます。

メモの14枚目は9年前に作成した「組織の論理について」と題したメモです。

グロービス経営大学院のホームページによれば「組織とは、ある特定の目的を達成するために公式に規定された集団の集まり。」とあります。

著名な経営学者のバーナードによれば、組織成立には3要件があり、具体的には「共通の目標」、「協働の意欲」、「コミュニケーション」が掲げられています。

赤字会社の多くは、経営成績が赤字に転落していく過程で、組織に必要とされるこの3要件が不足してしまうのです。

メモの背景

映画や小説で描かれるのは、「組織の論理」が強すぎて、組織が硬直化して、世の中に対応できなくなった官僚的な組織に挑む個人といった構図が多いでしょうか。

私が見てきた企業再生の世界の組織は、この映画や小説の世界から一歩先に行った世界です。

組織の共通の目標が何か分からなくなり、協働の意欲も減退して、スタッフ同士のコミュニケーションも乏しくなっています。もはや、やる気ある個人が挑むような組織はなく、組織そのものが崩壊しかかっているイメージです。

一般的に、組織の「共通の目標」は、経営理念、ブランドスローガンやビジョンなどで語られることが多いわけです。

しかし、多くの赤字会社の場合、創業時などに策定された素晴らしい経営理念などは一様にあるものの、形骸化が進んで、スタッフ全員が知ってはいるけど、誰もそれを本気になって実現させようとは考えていない状態です。

そもそも組織の成り立ちは、「共通の目標」を達成するために組織が出来ていったはずなのに、今や、ただ漫然と組織があり、組織に所属しているスタッフがいるだけであり、自分たちが実現したい「共通の目標」が何なのかさえ分からなくなってしまうのです。

「協働の意欲」とは、会社で一緒に働くうえで、それぞれが会社の役に立ちたいという想いのことです。

会社では多くのスタッフがそれぞれの役割を担って働いています。そのスタッフそれぞれが、会社という組織に対して役に立ちたいという気持ちを持っていれば、より強い組織ができることは想像できるでしょう。

「協働の意欲」のためには、前述の組織の「共通の目標」が大事になることは言うまでもありません。そして、もう一つ、「協働の意欲」は、会社に対して貢献をすることで、各スタッフがしっかりとリターンを得ることができるという信頼が大事になります。

赤字会社では、形骸化した「共通の目標」の中、スタッフが頑張って「共通の目標」に向かって努力して、会社に貢献したとしても、リターンが得られない場合があります。

赤字会社に社内政治が蔓延っている場合、その会社を牛耳っている多くは、「共通の目標」が分からなくなっている幹部社員ですから、会社に対する貢献が正しく評価されないのです。

最後に「コミュニケーション」ですが、「共通の目標」も形骸化してない、「協働の意欲」も乏しい中で、「コミュニケーション」が活発でないのは言うまでもありません。

対象会社は赤字会社です。企業再生の当初は、「共通の目標」が形骸化し、「協働の意欲」も減退し、それこそ「コミュニケーション」も乏しい状態でした。

メモ「組織の論理について」の中身

1.会社とスタッフの原則論

会社は、スタッフの生活のため、利益を拡大していかなければなりません。会社が継続発展することにより、スタッフの人生は安定します。そのため、会社という運命共同体に所属するスタッフ一人ひとりは、自分のためにも、自己の利益よりも会社の利益を優先させなければなりません。これは会社に所属するスタッフの責務です。

2.現状の問題点

対象会社の問題点は「組織の論理」が弱いことです。

対象会社は労働組合が強かった歴史的背景もあり、会社の利益よりも自己の利益(当時は労働者の利益と名前を変えて主張していました。)を優先させる人が多くいました。また、残念ながら、一部の幹部社員の中には、会社を悪用して、自分の利益を追求するような人もいました。

「組織の論理」を根付かせるためには、全スタッフは「組織の論理」に基づいて行動していかねばなりません。

3.社員と会社の関係

会社は、利益を創出するために、必要な仕事をスタッフで役割分担をし、部署や役職など組織を作っています。そのため会社では、スタッフは会社が求めている役割を果たすことが仕事であり、自分が好きなことを行うことが仕事ではありません。逆に言うと、例え自分がやりたくないことであっても、会社が求めている役割を果たすためには、仕事として全うしなければなりません。

⇒ 自分の好き嫌いで仕事をしていませんか?
⇒ 会社が求めている役割(=自分の仕事)とは何でしょうか?

4.上司と部下の関係

会社は、利益を創出するために、必要な仕事をスタッフで役割分担をし、部署や役職など組織を作っています。その中で、上司と部下という役割分担があります。通常、会社が期待している役割では、上司は管理職として部下の管理監督をし、部下は現場の仕事を担っています。会社が求めている役割(=仕事)を全うしている社員が褒められるべき社員であって、決して上司だからという理由だけで偉いわけではありません。

⇒ 上司というだけで「楽」をしていませんか?威張っていませんか?
⇒ 上司にもかかわらず、相変わらず部下と同じ仕事をしていませんか?
⇒ 会社が求めている役割(=自分の仕事)とは何でしょうか?

5.会社と外部組織との関係

会社は自社の利益確保が優先事項です。

取引先など外部組織に関しては、利益を創出する観点では協業関係にありますが、利益を分配する観点では対立関係にあります。

後者に関してはつまり、短期的な観点では、当社の利益が大きくなれば、取引先など外部組織の利益は減るのです。

また、本来は、当社の運営に役立たない外部組織との接触は不必要です。それは有名な著名人であれ、地元組織であれ関係がありません。

特に地元に関しては、ないがしろにする必要はありませんが、例え社外に自分が所属する地元コミュニティがあったとしても、会社を犠牲にして、地元を優先して意思決定することはありえません。

⇒ 自社の利益確保を優先事項で仕事をしていますか?
⇒ 地元だから・・・、有力者だから・・・という理由で、社外の付き合いをしていませんか?
⇒ 社外の地元コミュニティのしがらみで、仕事をしていませんか?



本連載は事実を元にしたフィクションです。

株式会社スーツ 代表取締役 小松 裕介

 2013年3月に、新卒で入社したソーシャル・エコロジー・プロジェクト株式会社(現社名:伊豆シャボテンリゾート株式会社、JASDAQ上場企業)の代表取締役社長に就任。同社グループを7年ぶりの黒字化に導く。2014年12月に株式会社スーツ設立と同時に代表取締役に就任。2016年4月より総務省地域力創造アドバイザー及び内閣官房地域活性化伝道師。2019年6月より国土交通省PPPサポーター。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?