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企業再生メモランダム・第22回 株式会社とは何か

「企業再生メモランダム」では、私が、20代の時に、複数の会社の企業再生に従事する過程で作成したメモを題材として、様々なテーマについて記載していきます。

メモの16枚目は9年前に作成した「株式会社とは何か」と題したメモです。

この仕事にターンアラウンドマネージャーとして従事している時に、人事コンサルタントの友人から、どのような社員教育をしているのか教えて欲しいと言われたことがありました。

しかし、毎日このような「新社会人の基礎」のような話をしていることが、正直なところ、少し恥ずかしくて言えなかったのを覚えています。

今となっては、私も企業再生という仕事の本質を理解できていなかったと反省しています。

赤字会社の多くは、マーケティング戦略であったりオペレーション戦略であったり、カタカナの専門用語を使ったような小難しい論点で、赤字に陥ったのではないのです。

「企業再生メモランダム・第2回 改革案骨子 前編」で記載をしたとおり、会社やスタッフが、「お客様のため」や「売上・利益の拡大のため」という仕事・ビジネスの本質が分からなくなってしまったから赤字に陥ってしまったのです。

企業再生の要諦は、どのように「普通の会社」にし、「普通のサラリーマン」に生まれ変わらせるかだと思います。

メモの背景

赤字会社には、私利私欲に走って社内政治をする人、社内政治の合間を縫ってサボろうとする小狡い人、思考を停止してとにかく上司の言うことに盲目的に従う人、そして、組織のことなど我関せずで自分の専門性を追求する人など様々な人がいます。

しかし、企業再生の仕事をしていると、このような赤字会社でも、ごくたまに、苦境の中、心折れることなく、仕事と向き合い、周囲の人と向き合い、自分と向き合って努力できる本当のリーダーたちに出会います。

彼らは、自分のことしか考えていない経営陣を粘り強く説得したり、言い訳ばかりして真面目に仕事と向き合わない部下を諭したり、ボーナスが増えるわけでもないし、正しく人事評価を受けるわけでもない中で、自分を律して、しっかりと周囲の信頼を勝ち得て、仕事と向き合っています。

特に赤字会社の末期の状態では、こういった人たちの善意によって、かろうじて会社が運営できていることが多いように思います。

彼らは、積極的に社内政治をしないため、組織上の地位は高くない場合が多いのですが、社内において、事実上のリーダーとして認識されています。

面白いことに、本当に困ったことがあったら、社内政治をしている幹部社員でさえも彼らを頼るしかないのです。

対象会社にも、このような素晴らしいリーダーが何人もいました。私は、今も彼ら・彼女らのことを、心から尊敬しています。

こういった人たちが、しっかりとした地位ある役職に就ける会社が良い会社なのだと思います。

対象会社は、企業再生を開始して1年を経過してもなお、「株式会社とは何か」について改めて語らなければならないほど、「組織の論理」が弱く、ぐちゃぐちゃな状況でした。

IT戦略や財務戦略のようなテクニカルな話ではなく、これはケイパビリティや企業文化の問題であり、決して一朝一夕では問題解決しないのです。

メモ「株式会社とは何か」の中身

1. 株式会社の起源

16世紀から17世紀の大航海時代、ヨーロッパでは、共同資本により、貿易や植民地経営のための大規模な企業が設立されるようになりました。もっとも、初期の貿易会社は、航海の都度出資を募り、航海が終わる度に配当・清算を行い、終了する事業でした。

1602年に設立されたオランダ東インド会社は、継続的な資本を持った最初の株式会社であるとされています。

株式会社は、小口の資本(資金)を社会全体から広範に集めることが可能であると同時に、リスク分散の仕組みでもありました。

2.株式会社は誰のものか?

株式会社に関わる人たちは、① 株主、② 経営者、③ スタッフ、④ お客様、⑤ 取引先、⑥ 地域社会が挙げられます。

株式会社の運営は、代表的な例では、① 株主総会(株主の意見が反映される)、② 取締役会(経営者の意見が反映される)によって運営されます。

「株式会社は誰のものか?」と言われれば、法律的には株主のものでしょう。しかし、経営者がいなければ・・・、スタッフがいなければ・・・、お客様がいなければ・・・などと考えていくと違う見方もできるはずです。

これをステークホルダー(利害関係人)論と言います。

3.利益をあげる

前述のように答えが出ない「株式会社は誰のものか?」という議論を解決する方法があります。とんちみたいな答えですが、それは議論をしないということです。

現実社会における「株式会社は誰のものか?」という議論は、事業活動を通じて利益をあげた後の分配、すなわち、利益分配における論点です。

事業の利益を、株主が多く取得するのか、経営者が多く取得するのか、スタッフが多く取得するのか・・・利益分配のパイ(分母)が少なくなればなるほど、分配ができなくなっていきます。

この議論をしないためには、全ての関係者が満足する必要があります。

そのためには、まず株式会社が潤沢な利益をあげなければなりません。そこが全てのスタートです。



本連載は事実を元にしたフィクションです。

株式会社スーツ 代表取締役 小松 裕介

 2013年3月に、新卒で入社したソーシャル・エコロジー・プロジェクト株式会社(現社名:伊豆シャボテンリゾート株式会社、JASDAQ上場企業)の代表取締役社長に就任。同社グループを7年ぶりの黒字化に導く。2014年12月に株式会社スーツ設立と同時に代表取締役に就任。2016年4月より総務省地域力創造アドバイザー及び内閣官房地域活性化伝道師。2019年6月より国土交通省PPPサポーター。

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