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企業再生メモランダム・第2回 改革案骨子 前編

「企業再生メモランダム」では、私が、20代の時に、複数の会社の企業再生に従事する過程で作成したメモを題材として、様々なテーマについて記載していきます。

メモの1枚目は10年前に作成した「改革案骨子」と題したメモです。

メモの背景

当時、世の中は、2008年9月に発生したリーマン・ショックによる金融不安が実体経済に波及し、不景気の真っ只中にありました。

私は、速やかに企業再生をしなければ事業継続がままならない、とある会社に、株主サイドからポーンと送り込まれて企業再生に従事したばかりでした。

今回のメモは、このような状況下で、対象会社の幹部社員との打ち合わせのために作成した資料になります。「日産リバイバルプラン」を参考に作成し、分かりやすい内容を目指しました。

ここで、私が企業再生をすることになった対象会社について、簡単にご紹介します。

対象会社は、とある地方にあって、その地方では有名な老舗の大企業でした。しかし、私が派遣された当時、対象会社は大きな赤字で、資金繰りにも窮している状態でした。そして、その事実は、信じられないことに、当時の代表取締役社長によって隠蔽されていました。後日判明したのですが、その社長は、一般スタッフに対しては、あたかも株主が資金を吸い上げているから対象会社が資金不足に陥っていると虚偽の情報まで喧伝していました。

社長は、地元の財界活動と自身のブランディングに活発で、残念ながら、私が派遣された時点では、既に経営そのものにも興味がないような状況でした。

その社長は、今まさに沈みかけているこの赤字企業において、何をやっていいか分からないためか、結果として、地元の財界活動と自身のブランディングに現実逃避していたのです。

特にその社長が熱心だったのが「おもてなし」でした。社内では、信じられないことに、経済合理性を無視した「おもてなし」までもが奨励されていました。

この「おもてなし」が社長自身のブランディングにも繋がっていたためか、一般スタッフの生活が脅かされるレベルまで、対象企業の資金が費消され続けていたのです。

このような経営が続いた結果、対象企業の価値判断においては、「お客様のため」や「売上・利益の拡大のため」が良し悪しの価値基準となっておらず、幹部社員の好き・嫌いや社内政治が蔓延していました。特に生え抜きの幹部社員と社長との軋轢は酷く、会社を二分するような状況でした。

この異常な状況が長期化していたため、多くのスタッフはいわゆる「ヒラメ社員」のようになってしまっていました。「ヒラメ社員」とは、ヒラメには上に目が付いていることから、上司の顔色ばかり見ている社員、上司のご機嫌取りばかりしている社員のことを揶揄した表現です。

対象会社の多くのスタッフは、経営陣など会社の上層部のご機嫌を取ることを優先し、極めて受動的で、「お客様のため」や「売上・利益の拡大のため」という仕事・ビジネスの本質が忘れられているような状況でした。

株主サイドから送り込まれた私や株主チームが一番問題視したのは、経営陣の社内政治ではなく、この一般スタッフのやる気のなさ、企業文化でした。

経営陣の社内政治は、いざとなれば、株主権を行使し、役員の選任・解任をすることで終わらせることができます。しかし、やる気のない一般スタッフ全員に対して、人事権を行使するわけにはいきません。

厳しい例え話を言うならば、長年の経営のゴタゴタから、多くのスタッフは「脳死」のような状態で、自分の頭で考えることをやめてしまって、まさにリーダーシップが欠如している状態だったのです。

このような状態は、多くの企業再生で同じ場面に遭遇するのですが、経営陣がまともではない場合、一般スタッフは「楽ちん」なのです。

もちろん、ごく当たり前の一般企業の「組織の論理」よりも自身の好き・嫌いなどを優先させる上層部に対して、おべっかを使ったり媚びを売ったりは、それはそれで大変かもしれません。

とはいえ、やはりお客様へのサービス・クオリティと経済合理性の狭間で苦労をするなど、真っ当な努力を求められず、真っ当に仕事に向き合うことを求められないことは「楽ちん」なのです。

このような状況を打破して、どのように対象会社を「普通の会社」にし、一般スタッフの皆さんを「普通のサラリーマン」に生まれ変わらせるかが、企業再生のポイントでした。

次回、後半で「改革案骨子」を記載したいと思います。



本連載は事実を元にしたフィクションです。

株式会社スーツ 代表取締役 小松 裕介
 2013年3月に、新卒で入社したソーシャル・エコロジー・プロジェクト株式会社(現社名:伊豆シャボテンリゾート株式会社、JASDAQ上場企業)の代表取締役社長に就任。同社グループを7年ぶりの黒字化に導く。2014年12月に株式会社スーツ設立と同時に代表取締役に就任。2016年4月より総務省地域力創造アドバイザー及び内閣官房地域活性化伝道師。2019年6月より国土交通省PPPサポーター。

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