企業再生メモランダム・第80回 おわりに

まず、全80回にも及ぶ「企業再生メモランダム」をお読みいただいたことに感謝いたします。

本連載はフィクションですが、私のターンアラウンドマネージャーとしての実体験に基づいて記載しているため、読者の方によっては、リアルに感じるような描写もあるかもしれません。

本連載は、2020年に突如発生した新型コロナウイルス感染症問題によって、今後、多くの企業が苦境に立たされ、企業再生が求められるであろうと考え、自分のターンアラウンドマネージャーとしての知見を社会に役立てたいと思い、文章を書くことが苦手な私(ただ、書くのだけは早い。)ですが、一念発起して約1ヶ月で記載したものです。

そのため、無料コンテンツですので、ぜひともシェアいただいて、広くいろいろな人に読んでもらいたいと考えています。

「企業再生メモランダム」では、赤字会社である対象会社の企業再生を通じて作成されてきた約5年間のメモを通じて、企業再生の現場(リアル)、人の弱さ、人と組織が変わることの難しさ、そして、マネージャーからリーダーへと成長する一人のターンアラウンドマネージャーの姿を描いていきました。

どこの赤字会社も似たようなものだと思いますが、赤字会社の多くでは、他責が横行し、社内政治が横行し、酷い場合では、対象会社のようにハラスメントまで起きてしまう場合があります。

会社が赤字というだけで、人は自信をなくし、「組織の論理」は緩くなり、利己的な人・政治的な人であふれかえります。いかに人は弱いかを感じずにはいられません。

「人は性善なれど弱し」。この考えが、本連載を通じた人間観になっています。

企業再生とは、ただ単に経営成績を黒字化するだけではなく、本質的には組織と人の再生であり、一度、楽を覚えてしまったスタッフたちが「普通のサラリーマン」に戻り、赤字会社が「普通の会社」になることがゴールです。

一度感覚が狂ってしまった人にとっては、頭では理解しているものの、世間一般の「普通」が辛く苦痛であることなどは、企業再生ならではの視点ではないかと思います。

企業再生で難しいのは、ケイパビリティの獲得です。このケイパビリティは一朝一夕で獲得できるものではありません。一度自信をなくしたスタッフと向き合って、自信を取り戻して、マネジメントサイクル(PDACサイクル)をまわしながら、今一度、組織として出来ることを増やしていかなければなりません。

このケイパビリティの獲得ができなければ、合理的に正しい経営戦略は実行できません。

VUCA(Volatility(変動)、Uncertainty(不確実)、Complexity(複雑)、Ambiguity(曖昧)の頭文字をつなぎ合わせた造語)時代になっても、一部の頭の良い人だけで作成した経営戦略だけでは変化に対応することはできないと思います。

経営戦略、マーケティングやファイナンスなどマネジメント・スキルが大事であることは否定はしませんが、最終的には、人と組織と向き合わなければ、大きな目標を達成することはできないのです。

また、本連載では、連載当初から、一人の人間がマネージャーからリーダーへと成長していく姿を伝えたいと考えました。

これこそまさに私の体験に基づくものなのですが、マネージャーからリーダーへと、人や組織、世の中に対する見方を転換することによって、多くの人に影響力を及ぼすことができるばかりか、周囲の人をより幸せにすることができるようになったと考えています。

若い時分は、一生懸命に取り組めば取り組むほど、どうしても視野が狭く、視座が低くなりがちですが、本連載を読むことよって、若手経営者や、これから世のため人のために何かしたいと考える人が、真のリーダーになるために、何か気づきを得るきっかけになってくれればと考えています。

リーダーシップについてさらに興味を持った人には、ぜひとも別連載の「リーダーと考える経営の現場」「リーダーシップ往復書簡」も一読いただければと存じます。

本連載は、初期は、企業再生への取り組み方、経費削減、管理会計、マーケティングやオペレーションなどマネジメント・スキルについて言及しています。こちらについては、知っているか、知らないかの単なる知識の問題ですので、読者の皆さんの大半の方々は、すんなりと深い理解ができるものと思います。

中盤以降は、リーダーがどのように考えるのか、リーダーとしての「あり方」、組織と人を変えるにはどのようにすれば良いかなどリーダーシップ・スキルに関することを記載しています。

こちらについては、人によっては、頭で理解できたとしても、すぐに腹落ちしない記述もあったかもしれません。そういった読者の方は、少し時間を置いて、改めて読みなおしてもらうと、ある日、ストンと腹落ちする日が来ると思います。

また、途中で紹介したマネジメント・スキルに関する本、組織やリーダーシップに関する本は、どの本も素晴らしい本ばかりでした。改めて以下に掲出しておきますので、ご興味ある方はお読みいただくことをオススメします。

人との出会いと同じくらい、本との出会いは貴重なものです。今の私があるのも、これらの本との出会いのおかげです。目の前のことに悩む経営者の方は、忙しいとは思いますが、ぜひとも時間を作って読書をしてみるのも、探している答えへの近道かもしれません。

1.グロービスの本(MBAシリーズなど)
2.ジョン・P・コッターの著書
3.デール・カーネギーの著書
4.冨山和彦「会社は頭から腐る―あなたの会社のよりよい未来のために『再生の修羅場からの提言』」
5.ロバート・K・グリーンリーフ「サーバント・リーダーシップ」
6.ロバート・E・クイン「ディープ・チェンジ」
7.リチャード・ステンゲル「信念に生きる―ネルソン・マンデラの行動哲学」
8.ラルフ・ウォルドー・エマソン「自己信頼」
9.ジョン・W・ガードナー「自己革新」
10.アダム・グラント「GIVE & TAKE 「与える人」こそ成功する時代」
11.ハロルド・ジェニーン「プロフェッショナルマネジャー」
12.ジョセフ・ジャウォースキー「シンクロニシティ 未来をつくるリーダーシップ」
13.ピーター・センゲ 、オットー・シャーマー 、ジョセフ・ジャウォースキー、野中郁次郎、高遠裕子「出現する未来」
14.ANN McGEE-COOPER、GARY LOOPER、DUANE TRMMELL「BEING the Change」

私は企業再生は素晴らしい仕事だと考えています。人間の嫌な部分やドロドロした部分など弱い部分を目にすることも否定はしませんが、こういった普通の人たちが、もう一度、前を向いて、お客様のため会社のため、世のため人のためと、視野が広がって視座が高まって、一緒に努力できるようになっていく現場に立ち会えるのです。

特に世代の違いがあるのかもしれませんが、アラフォーである私の世代よりも年下の皆さんは、いわゆる高度経済成長を経験していません。そのため、組織全体が一つになる一体感とともに、会社が急激に良くなっていく瞬間は感動を覚えるのではないかと思います。

最後に、本連載でも記載をしましたが、改めて、今までの企業再生の過程で共に苦労をしてきた仲間たちに対して、特に厚く御礼申し上げます。皆さんのおかげで、本連載を書くことができ、後進の経営者やリーダーに役立つ文章を書くことができたと確信しています。

結果として、企業再生の過程で、立場の問題もあって、行き違ってしまった沢山の人々、そして、社内政治や裁判など様々な苦労にも感謝しています。今の私があるのは、これらの人々や経験のおかげです。今後、私が世のため人のために尽くすことを通じて、恩返しができればと考えています。

私の家族や株式会社スーツのスタッフの皆さん、スーツ社のクライアント企業の皆さん、沢山の友人・知人の皆さん、本連載の編集及び校閲で力を貸してくれた社会保険労務士の森由美栄先生、そして、本連載に最後までお付き合いいただいた読者の皆さんには心から感謝申し上げます。



本連載は事実を元にしたフィクションです。

株式会社スーツ 代表取締役 小松 裕介
 2013年3月に、新卒で入社したソーシャル・エコロジー・プロジェクト株式会社(現社名:伊豆シャボテンリゾート株式会社、JASDAQ上場企業)の代表取締役社長に就任。同社グループを7年ぶりの黒字化に導く。2014年12月に株式会社スーツ設立と同時に代表取締役に就任。2016年4月より総務省地域力創造アドバイザー及び内閣官房地域活性化伝道師。2019年6月より国土交通省PPPサポーター。

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