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父の"物持ち"~時代に置いていかれないために~

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 本稿では、私が最近驚いたことを書きたいと思う。
なんの役に立たない話かもしれないが、少々お付き合い願いたい。

 今回お話するのは、父についてだ。
私の父は、今年で65歳。 ぽっこりお腹。 見た目は、狸そのもの。
自営業を営んでいたのだが、引退。最近では高齢者の御多分に漏れず、「年金受給を何歳からにするか」と悩みつつ、地区の自治会活動に精を出すといった生活をしている。

 そんな父の特徴を聞かれれば、”物持ち”が良いと答えるだろう。
腕時計は、父が34歳で結婚したときに母から結納返しとしてもらったものを今も使っているし、子供の頃から読書が好きなこともあり、父の本棚は古書店の様相を呈している。

 ここまで聞くと良いように聞こえるかもしれないが、私は父の”物持ち”が嫌いだった。
この”物持ち”は、洋服や下着類にも適用されるからだ。 外を出歩くときに着るのは、いつも襟元がヨレヨレで色落ちしたオレンジ色のポロシャツ。 靴も何年も前に買った謎の黒いスニーカー。 靴下には大きな穴が空いているものを履き続けている。

 この恰好で授業参観にも来ていた。 来るだけならまだしも、私に向かって大きく手を振るのである。 今でも人生でこれほど恥ずかしいと思ったことはない。

 時は流れ、私も大人になり、最近実家で久しぶりに両親と会う機会があった。
私は18歳まで実家に住んでいたが、それも10年以上前になる。 私が上京後、実家は両親2人が生活しやすいように模様替えされており、私が受験勉強を頑張った思い出の子ども部屋は、現在父の書斎になっている。

 そんな父の書斎に最近初めて入る機会があった。 案の定、書斎の中には、大量の本が乱雑に積まれている。父は第二次世界大戦が 特に好きなこともあり、関連書籍が目に付く。 太平洋戦争の真珠湾攻撃が起こった年である「1941」をスマホのロックパスワードにしていた時期もあったくらいだ。

 父の書斎を探索を続けていると、見たことのない机があることに気が付いた。 木製で見るからに年季が入った机だ。 木の質感剥き出しで、引き出しを触ろうにも木のささくれが指に刺さりそうで心配になる。

机の表面には、世界地図がカラーで印刷されていた。 恐らく父が学生時代に使っていた学習机なのだろう。
よく見てみるとその地図には「ソビエト連邦」と書かれていた。
父の"物持ち"の良さに驚くと同時に、ソ連崩壊後に生まれた私は、初めて見る世界地図を食い入るように見てしまった。



 ロシアがウクライナに侵攻を始めてもうすぐ3か月が経つ。
両国は、共にキエフ公国だった歴史もあり、ソ連時代は兄弟のような関係性であった。 ソ連崩壊後関係は薄れたが、メディアによると「未だにソ連時代を懐かしみ、兄弟国としての意識を強く持つ人も多い」そうだ。

 私は「隣国で人的・文化的交流があるとはいえ、30年以上も前のことを未だに懐かしむのか」と少々理解しきれなかった。

しかし、父の机を見て腑に落ちた気がした。

父は「ソビエト連邦」の文字を毎日机で眼にしている。父にとって「ソビエト連邦」は、過去ではない。眼前にある現在なのだ。

ソ連の時代を生きた人々にとって、「ソビエト連邦」は風化せず、モノや思い出を通して現在も人々の心の中に生き続けているのだろう。
父の机は、崩壊前のソ連を知る人の中にしか存在しない「生きたソ連」を「死んだソ連」しか知らない私に地図という形で可視化させたのだ。

一般的に「過去が心に生き続ける」というのは、良い表現として使われることが多い。
しかし、「過度に過去が心に生き続ける」ことは、過去に囚われ、時間や進歩が止まってしまうとも言えるのではないだろうか。
そう考えると、葬式という「意味のない儀式」が現代まで続いているのは「遺族を”愛する人”という過去から解放する」という意味合いがあるからではないかと感じる。

 産業革命以降、様々なテクノロジーが発達し続け、世界は目まぐるしく変化し続けている。
しかし、人間は本能的に「変化しないこと」を望むと言われる。
人間の本質は、歴史が教えてくれる。蒸気機関車が現れたときのイギリスでは「蒸気機関車に乗ると振動で脳に支障をきたす」という説が唱えられ、支持されたこともあったそうだ。

 「テクノロジーをいち早く導入し、柔軟に変化したものが勝つ。」
これも織田信長が銃の大量生産に取り組んだことによって、天下取りに大きく近づいたという歴史が教えてくれる。

 時代が高速で流れていく現代社会を生き抜くために、日常生活の中から意識的に新しいものに触れ、変化に臆しないようにする習慣を身につけていくべきなのかもしれない。

 保守的な私は今日の昼食として、行きつけのラーメン屋が最近考案した新メニューを食べるところから始めようと思う。

 そんなことを考えさせてくれた父の”物持ち”に感謝したい。


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