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歯を食いしばる人(ショートショート)

こんにちは、彗星です。ここ1ヶ月投稿できない状況が続いて、焦っていました。
でも相変わらず1つの月様は綺麗でした。
ショートショートを投稿します。2つ、同じ題名でやってみようかなと思ったので比べてみてください。


ドラゴンとその人は戦っている。ここは戦闘の場。1つの油断も許されない。
その人は歯を食いしばった。痛いのを我慢しているのである。だが食いしばるとますます違和感を感じる。本当はそれに構っている時間はない。あと少しでこの魔法は解ける。
重さを感じることもなく剣を握ったその時、その人は呟いた。
「なぜこんなに歯が痛むんだろう。ここは夢の中なのに」
朝起きるとその人は一目散に歯医者へ向かったのであった。



電話をとる時、いつも私は歯を食いしばっている。
ここはクレーム対応所。この大手会社に毎日何百何千とくるクレームに私と私の仲間達は地道に対応をしていた。
ただ、一つ普通のクレームと違うのが、電話の内容とそのクレーマーさん。なぜかここの会社のクレーマーは同じ人ばかりで、いつも私たちを追い詰めようとしている。
さて、今私は電話をとった。もしかしてまたあのお客さん…?とげんなりしながら「もしもし」と声をかける。
相手は上品そうなお婆さんの声。この声からは予想もつかないようなクレームや、クレームだけではなく私自身をも追い詰めてきた本人だ。
「もしもし。ねえあなたは知ってる?あなたの会社のあの製品の性能をもっと上げなさい。私が私のお店のお客さんを集めるのが難しくなってしまうじゃない。」
びっくりして食いしばっていた歯が飛んでいくかと思った。
「しかも使ってみたのだけど、何ですかあれ!髪まで吸い込まれてもうどうしようもないわ。これも全部あなたのせいよ。」
「はい。いつも申し訳なく思っております…」
「いつも!?あなたは努力というものを知らないのですか?せめて会社に働きかけなさい!私はあなたに話しているの。」
いつもは商品のクレームだけなのに、今日は私のことの話の方が多い。
「あのね、私は毎日歯をくいしばっているのよ。不況に耐えて耐えて、私の会社をもっと大きくするために。あなたも今そうしているんじゃないの?」
「…はい、そうですね」
そしてお婆さんの顔は見えなかったがふふっと笑ったような声が聞こえて、こう彼女は言った。
「私の会社に働きかけなさい。あなたと私は同じ会社に働く仲間なのだから。」