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#170墓や石碑の管轄について(一)

 これまでにいくつかの話で石碑についての話題を書いてきましたが、今回墓や石碑の管轄についての話を記したいと思います。

 著者は墓や石碑についての研究をしていますが、どのように史料を探してきたか、というと、これまで紹介してきた、墓碑や記念碑などについての史料は、偶然にして地域に残る古文書から発見したものも多くあります。あるいは、墓や石碑の現場に行って写真を撮影する、ということも行って情報収集もしています。しかし、実は一定のルールがあり、探しどころが何処か、というポイントがあります。

 というのも、墓や石碑は警察によって管轄されています。そのため、警察関係の史料から墓や石碑に関する史料を探し出すということが出来るようになっています。
 近代の警察の職務、役割の中に「衛生警察」というものがあります。聞きなれない言葉かと思いますが、行政の衛生業務の中に、危険な病気の予防や根絶を行うことによって一般民衆の危険を取り除くという、医療に関する事柄があります。その病気などの関連の衛生行政の一部を警察が担当することを業務を「衛生警察」といいます。現在では厚生労働省が担当する業務に当たりますが、戦後の昭和二二年(一九四七)の保健所法の制定まで警察の業務として行われていました。
 そこでなぜ墓と衛生が関係するかとの疑問が湧くことかと思います。もともと日本では、一般的に江戸時代は死者を墓地に土葬で埋葬していました。それと関連して、幕末以降、コレラやペストなどの伝染病が伝来して、時として流行しました。以前に「#056病気はどうやって感染するのか?-あるいは、昔の人は現代人より愚かなのか」で、明治前期のコレラに対する対応について紹介しましたが、当時の人々は現在のようにウィルスについての知見がまだないため、空気感染や接触感染ということについて、何となく肌身で感じているだけという状態でした。そのため、墓地に埋葬する遺体からも、病気が感染するかもしれないという考えから、警察によって墓地も衛生警察の仕事の一部として管轄されていました。

 その墓地を管轄するための法令が、明治一七年(一八八四)に「墓地及ヒ埋葬取締規則」として制定されています。下記にその全文を掲載します。

墓地及ヒ埋葬取締規則
 第一条、墓地及ヒ火葬場ハ管轄庁ヨリ許可シタル区域ニ限ルモノトス
 第二条、凡ソ墓地及ヒ火葬場ハ総テ所轄警察署ノ取締ヲ受クヘキモノトス
 第三条、凡ソ死体ハ区長若クハ戸長承認ノ照ヲ得ルニ非サレハ埋葬又ハ火葬スルコトヲ得ス
  但改葬セント欲スル者ハ警視総監、府知事(東京府ヲ除ク)県令ノ許可ヲ受ク可シ
 第四条、死体ハ死後二十四時間ヲ経過スルニ非サレハ埋葬又ハ火葬ヲ為スコトヲ得ス
   但別段ノ規則アルモノハ此限ニアラス
 第五条、墓地若クハ火葬場管理者ハ区長若クハ戸長ノ承認証ヲ得タル者ニ非サレハ埋葬又ハ火葬ヲ為サシムヘカラス
 第六条、葬儀行フハ必ス墓地若クハ火葬場又ハ寺堂ニ於テスヘシ
 第七条、葬儀ヲ行ハントスル者は死亡者ノ住所、姓名、年齢、職業、身分并ニ死亡ノ原因等ヲ詳記シ、其葬儀執行ノ日時、場所ヲ所轄警察署ニ届出ヘシ
   但式ヲ用ヰテ葬ルコトヲ許サルヽしたいヲ埋葬又ハ火葬スルモ本条ノ例ニ循フヘシ
 第八条、凡ソ墓地ノ内外ヲ問ハス碑表ヲ建設シ履歴伝賛ヲ彫鐫セントスル者ハ所轄警察署ノ許可ヲ受クヘシ
 第九条、此規則ニ違背スルモノハ違警罪ノ刑ニ処スヘシ
 第十条、此規則ヲ施行スル方法細則及ヒ埋葬、火葬ノ健康風俗ニ関スル取締ハ警視総監、府知事(東京府ヲ除ク)県令ニ於テ便宜取設ケ内務卿ニ届出ツヘシ

国立公文書館所蔵「公文録・明治十七年・第四十三巻・明治十七年十月・内務省(第一)」から

 今回はここまでにしまして、次回も引き続き、この法令の内容から、どのように警察が墓や記念碑を管轄していたのかについて触れたいと思います。


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Nobuyasu Shigeoka
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