見出し画像

#154飲食物の名前の起源

 先日、ふと、「フェリシテ・ド・ラムネー」という言葉が頭をよぎりました。何だか気になって、少し記憶をたどっていると、どうやら高校時代の現代国語で習った文章であったような気がしました。インターネットで「フェリシテ・ド・ラムネー」と検索すると、下記のリンクにあたりました。

 坂口安吾「ラムネ氏のこと」という作品で、高校の現代国語の授業で読んだものだったようです。青空文庫で無料で読めるので、久しぶりに読んでみたところ、坂口安吾が小林秀雄らと三好達治の家で食事をしている時の雑談から、清涼飲料水のラムネの瓶のビー玉を入れることを発明したのが「フェリシテ・ド・ラムネー氏」という人物であると三好達治が話している描写が出てきました。後日、坂口安吾が三好達治の言った内容を調べてみたけれども、どうやら違うようだということが判るのですが、坂口安吾はこれが正しいか正しくないかよりも、有名、無名に関わらずその事物を作った人がおり、その織りなす歴史の結果が現在の事物だ、ということを書かれています。当時授業で読んだはずなのですが、「フェリシテ・ド・ラムネー」という言葉以外は記憶に残っていませんでした。
 ラムネの語源としては、一般社団法人全国清涼飲料連合会によると、「レモネード」が日本語として訛ったもの、としています。

 ハヤシライスも語源の話で良く出てくる食べ物です。ハヤシライスは牛肉と玉ねぎなどを炒めてデミグラスソースで煮たものをご飯にかけて食べる食べ物であることはよく知られています。ハヤシライスの語源としては、ハッシュドビーフから日本語訛りしたもの、丸善の創業者である早矢仕有的説、上野精養軒の林氏説、その他の林氏説などいくつかあります。カレーやハヤシライスのルーを製造している大手製造業のS&B食品のHPにもそれらの説を踏まえて紹介しており、正確なところは判らないとしています。

 大手書店の丸善では、HPで、ハヤシライスは早矢仕有的が名付けたとされる、として紹介し、早矢仕有的の誕生日である九月八日を「ハヤシライスの日」とし、早矢仕有的は西洋人の友人をもてなす際に肉と野菜のごった煮を提供していたようで、「早矢仕有的の作ったライス」からハヤシライスとなったという逸話を紹介しています。そのような関係もあって、屋上のレストランでハヤシライスを提供したり、現在ではレトルトのハヤシライスも販売しているとのことです。

 このように食べ物の名前の由来について、いつ、誰が作って何故この名前になったか、ということが明確になっていない場合が一般的に多いのではないかと思います。ステーキのサーロインやエッグタルトのメイド・オブ・オナーのように、イギリスのヘンリー8世が命名したという逸話が伝わるものや、あるいはフランソワ・ヴァテールが考案したクレーム・シャンティイなどは、どちらかといえば稀な例になるでしょう。その差は庶民の生活に密着したものか、高貴な生まれのものの親しむものかの違いであるかと想像されます。このあたりは歴史的事象や事件などと同じで、一般庶民の身体髪膚に即した記録というのは残りにくく、民俗学的な調査などによってしか、なかなか明らかにはしにくい事象なのでしょうね。


いただいたサポートは、史料調査、資料の収集に充てて、論文執筆などの形で出来るだけ皆さんへ還元していきたいと思っております。どうぞよろしくお願いいたします。