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#165農業関係のデータベースを楽しむ

 著者は下手の横好きで、いろいろな分野の研究、執筆を行っています。それも学芸員が「雑芸員」と言われるゆえんでもあるのですが、担当したテーマでの展示やレファレンスに対応をすることで、必要に応じてさまざまな分野について調査、研究をすることになります。短期間でその分野について調査をして成果を挙げることが求められるため、如何に様々なツールにアクセスできるかが勝負になると言えるでしょう。今回はそのような少し専門外の分野について調査をした際のお話です。

 以前に、「#011Important study achievements_008 ”Kawachi Momen, history and document"」で紹介した図録の文章や、自治体史の編纂担当をしていた時に、農業関係の調査、執筆を担当したことがあります。「#011Important study achievements_008 ”Kawachi Momen, history and document"」では、大阪府における明治前期から大正時代にかけての木綿の作付け面積を調査することで、どのようにして在来の木綿産業が衰退していったのかということを明らかにしました。
 その際などに活用したのが、農業関係のデータベースです。これらのデータベースをみることで、当時の状況が判り、結構楽しめます。

 まず最初に紹介するのが、農林水産研究に関する国内の論文、情報が探すことが出来るデータベース「アグリナレッジ」です。

https://agriknowledge.affrc.go.jp/

 こちらで試みに「木綿」というキーワードで検索をしてみると、三五件のヒットがあります(二〇二四年五月五日現在の検索結果による)。農林水産関係の研究に関するものがヒットするので、化学関係の論文の他に、木綿栽培に関係する機織り機や、木綿を使用した脚絆や前掛けなどの民具が出てきます。論文については、インターネット上で公開されているものについてはそのリンク先を表示してあり、民具についてはその写真が出てきます。

 次に紹介するのは、国立国会図書館デジタルコレクションです。こちらは国立国会図書館の所蔵資料のうち、インターネット上で公開している資料について自由に閲覧出来ます。試みに「大阪府統計書」と検索してみると、一三五四件もヒットします(二〇二四年五月五日現在の検索結果による)。直接「大阪府統計書」そのものでないものもヒットしていますが、「大阪府統計書」の明治一五年以降のものが閲覧出来ます。筆者の木綿の作付け反別についても、こちらの資料をから統計を取って作成しました。

 続いて紹介するのは、「農業センサス」です。農業センサスは、農業生産などについて五年ごとに行う統計調査で、農山漁村の変化を明らかにする基礎資料になるものです。試みに、以前著者が、明治期の大阪府のうち、現在の寝屋川市にあたる地域において梨の生産に挑んで成功したということが記載された史料を見たことがあるので、現在の大阪府のなしの生産について見てましょう。

 二〇二〇年の農業センサスによると、大阪府寝屋川市域における日本梨、西洋梨ともに、栽培軒数、栽培面積ともに「-」や「×」になっています。凡例によると、「-」は調査を実施したものの生産がないものを表しており、「×」は個人や法人の秘密を保持するために統計を公表しないもの、となっています。後者は公表しないとはいえ、実際には生産がなされていないと見て差し支えないでしょう。つまり、明治期には梨が盛んに生産されていたけれども、どこかの段階でほとんど生産されなくなった、ということが読み取れます。大阪府全体についても、累年統計からみると、昭和五〇(一九七五)年の一八七軒、三四ヘクタールであったものが、二〇二〇年の統計では一七軒、三ヘクタールとなっており、現在でも減少の一途を辿っいることが確認出来ます。このように統計を取っている時期、地域についての比較が容易に出来る点で、非常に便利な統計資料といえるでしょう。

 また、講義や授業などで使用できる資料として総務省統計局の各種統計があります。こちらは「キッズすたっと」という、子どもでも調べ物学習で活用しやすいように、教科書に出てくる言葉で各地の統計情報などが調べることが出来るようになっているなど、さまざまなデータを活用しやすいような形で提供されています。

 以上のように、最近では様々な形でインターネット上から容易に農業関係の資料が入手出来るようになっています。何かの機会があった時には思い出していただいて、活用されると良いのではないかと思います。

いただいたサポートは、史料調査、資料の収集に充てて、論文執筆などの形で出来るだけ皆さんへ還元していきたいと思っております。どうぞよろしくお願いいたします。