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#017身近な史跡、文化財の楽しみ方(2)

 前回は身近な神社仏閣で見つけた絵馬の話をしましたが。個人的に三国志に親しんだ方なので、こういうものを見るとわくわくしてきます。今回は石造物について見てみましょう。

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 上の写真は神社でよく見かける灯篭です。特に何の変哲もない、それほど古くもない灯篭です。この灯篭の基礎(台座)部分を見てみますと文字が刻まれてあるのが見えるかと思います。

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 拡大した写真がこちらです。「皇紀二千六百年記念」と彫られています。「皇紀二千六百年」は昭和15年(1940)にあたります。皇紀とは、現在ではあまり聞きなれない言葉かもしれませんが、初代天皇の神武天皇の即位した年を元年として年を数える数え方で、昭和15年が神武天皇の即位から2600年目に当たることを表しています。昭和15年ということで、それほど古い物ではないため、あまり顧みられることもないかと思いますが、皇紀二千六百年記念事業は全国で大々的に行われた事業でもあり、各地でこのような灯篭を見ることも多いかと思います。

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 次にこちらは狛犬の写真を掲げました。これも特段古い物でもありませんし、形状に特徴があるものでもありません。一般的に狛犬と呼ばれるものは、2つで一対になっており、厳密には、右に設置されるものが「獅子」と呼ばれ、口を開いた「阿形」の姿をしています。反対の左側に設置されるものが「狛犬」と呼ばれ、口を閉じた「吽形」の姿をしています。こちらも台座部分に文字が刻まれています。下に拡大した写真を掲げます。

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 こちらには「大典」と刻まれています。反対側のもう一つの方も見てみましょう。

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 こちらの吽形のものには「記念」の文字が刻まれています。つまり一対で「大典」「記念」。大典とは、最近は聞きなれないかと思いますが、盛大な儀式のことを指す言葉で、概ねこの言葉が出てきた時には「天皇の即位」を指すことが多いです。この台座の裏側を見てみましょう。

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 金属の柵で少し見づらいですが、「昭和三年二月」と刻まれています。昭和3年(1928)11月には昭和天皇が即位の礼を行っていますので、つまり昭和天皇の即位を記念して設置された狛犬だということが判ります。昭和天皇の即位の礼の際には、世間は盛大な慶祝ムードに包まれ、各地でお祝いが行われたということですので、全国各地にこのような記念の石造物が残されていることと思います。

 文化財の価値を判断する際には、概ね希少性や歴史的価値、あるいは芸術的価値に重きを置いていると言え、どうしても古い物の残存状況は少なくなるため、おのずと古い物の評価が高くなります。歴史的価値という面に注目したとしても、近年に文化財指定をされているものでも、概して50年は経過していないと文化財としての価値を付与しない傾向にあるかと思います。そのため、新しい時代の物は古い時代より多く残りやすいため、なかなか評価の対象にはなり辛いという面が否めません。ましてや、昭和戦前期のものについては、戦争の暗い印象も伴って評価はし辛いでしょう。それが故に折角残っていても顧みられない、あるいは大事にされずに破却されてしまうということも日々起こっていると思われます。

 いかがでしたでしょうか?普段あまり顧みられることのない、石造物とそこに刻まれている文字ですが、見てみるといろいろなことが判ってきます。お近くの神社などでもこういう割合新しい物が残されていることがあるかと思います。是非機会があれば、こういう石造物に刻まれている文字に注目して、地域の歴史について考えて見るのも面白いのではないでしょうか。

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