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#114江戸時代の旅のおみやげ

 旅行に行くと、旅先の食事やお土産を購入することが楽しみの一つにあるかと思います。著者も旅先での食事やその地方の銘菓は、旅の楽しみの大半を占めています。今回はそんな旅の楽しみの一つ、おみやげについてお話ししたいと思います。
 近世には、一般の民衆はなかなか遠出は出来なかったようですが、その生涯のうちにする数少ない旅行に、一度は伊勢参りに行くという人が多かったようです。伊勢参りのみやげと言えば現在でも代表的なものとして「赤福」が挙げられるでしょう。赤福は公式HPによると、創業宝永四年(一七〇七)ということですので、三〇〇年以上前から長きにわたり伊勢の門前の名物として売られてきたようです。著者も以前に江戸時代の伊勢参りのルートのうち、京都からのルートと大阪からのルートの二つのルートでドライブをして訪ねたことがあります。現在も幹線道路の脇に昔の街道の名残が残されていて、なかなか興味深かったです。

 伊勢参りの京都からのルートの際に、中山道で関(三重県亀山市)にいつも立ち寄りますが、この宿場町もなかなか趣があります。繰り返し伊勢参りをしていた時に、その関の宿場町では決まって「関の戸」という和菓子を購入していました。「関の戸」は寛永年間以来の関の銘菓で、深川屋陸奥大掾という店で販売されています。

 著者は旅先では、ついついその土地の食べ物をおみやげとして購入して帰りますが、人によっては旅の記念になるような、のちのちに残る品物を購入することもあるでしょう。先日史料調査をしていると、京都の本願寺へお参りに行った際のみやげものがそのまま史料の中に出てきました。下の写真がそれにあたります。

包紙に「西本願寺大門様」との記載がある、携帯できる掛け軸様のもの(著者撮影)

 大きさは長さ15cmほどで布製で、掛け軸のようにして刺繍してあります。著者はあまりこのようなものは詳しくないのですが、今まで見たことがなかったので非常に興味深く思いました。包紙には「西本願寺大門様」との記載があり、おそらく購入した人物の墨書と思われます。この小さな掛け軸様のものは、縫い取りにより門主の姿を描いており、門主の姿を描いた携帯出来る小さな掛け軸といったところです。時期は判然としませんが、本山にせっかくお参りしたのだから、ということで、門主の姿を記したおみやげを購入するということが、この当時の人々には行われていたようです。
 近世以降、移動の制限はあるものの、生涯に一度くらいの頻度ではありますが、伊勢参りなどを楽しむ機会が一般人にも発生してきます。そのことにより、街道沿いの宿場町や神社仏閣、名所旧跡などではその土地土地の名物が生まれて来ます。その場所に滞在する、あるいは通過する際に名物などを記念に購入する機会が持たれ、各地へ伝播して、評判が評判を呼び、新たな購入客が訪れることになります。
 旅日記などの史料にどのようなみやげものが出てくるのかなども見てみることも面白いかもしれません。これからは折に触れてご紹介する機会を作っていければと思います。



https://www.maff.go.jp/j/keikaku/syokubunka/k_ryouri/


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