雨に濡れた横浜で
※過激な表現がありますので、ご注意ください。
夕暮れ時、横浜はいつ来ても心が騒めく。
桜木町の駅を降りて改札を抜けるとみなとみらいの景色が目に飛びこんでくる。雨が近いのだろうか、不穏な影を帯びた雲の流れが夕暮れの空を一層怪しく包んでいく。
ホテルに着くと、高い位置で結われていた髪を解く。襟元で揺れる髪がほのかに香る。ベッド脇に置かれているチョコレートの箱に手を伸ばした。
細い指で包みを開けようとすると、別の手が動作を遮った。私のではない。
そして同時に肩まで手をかけられ、振り返ると男が私の目をじっと捉えた。
構わず手を振りほどいて、棒状のオランジェットのショコラを口に含んだ。
男の喉元が微かに上下に動いたのを見逃さなかった。二本目を口に入れたとき、男が先端を口に含んだ。お互いの唇が触れる。
ー今日はどんな話を聞かせてくれるの?
男の瞳は澄んでいた。
ー珍しい、私の話を聞きたがるなんて。
ー俺たちの時間は限られてる。わずかな時間の中で、君のことをもっと知って留めておきたい。
男は私の頸に顔をうずめる。
ー良い香り。ずっと、こうしたかった。
男はそういうとそのままベッドへ私を巻き込んで倒れ込んだ。
口の中には、ほろ苦くて甘いオランジとショコラの香りが残っていた。
この男と、何度絡み合っただろう。
いつもはゆっくり丁寧に愛してくれるのが、今日は幾分か違った。
いつも惜しくて、離れ難い、限られたひとときが、
わずか一夜を共に明かすためにお互いの身ぐるみを一枚ずつ剥がしていく。
私はこの男との口づけが好きだ。
唇と唇が触れているだけなのに、頭から足の指先まで痺れが襲う。
手足の指先は特に格別だった。
そんな私の様子に呼応するように、男は私の胸元に唇を這わせ、敏感な部分をゆっくりと口に含んだ。同時に、長くて形の良い指が私の中を弄っていく。
自分を我慢できない。
今すぐ解放したい。
男の頭から背中まで愛おしく撫でると、男は気持ちよさそうにうめき声を漏らす。
目が合うと、男の恍惚とした表情が私をさらに昂らせる。
この男を、もっと良くしてあげたい。
私は男の胸に手を置いて、体勢を変えて男の上に覆い被さる。
ーあなたを味わいたいの。いい?
男は切なげな表情を浮かべて、目で懇願してきた。丁寧に全身に唇をあててから、彼のものに到達していく。
ゆっくりと、上へ下へ、口を移動させるたびに彼の口から吐息が漏れる、体が敏感に反応する。舌で弄ぶと更に身体をのけぞらせた。
ーだめ。まだいきたくない。
今度は男が反逆する。私の顎に手を添えるとすぐに唇と唇を重ねてきた。
そのまま反対の手で腰を抱き寄せ、足と足を絡ませた。
私の指を男の口元にもっていくと、愛おしそうに官能的な表情で一本ずつ指先を舐め上げていく。
我慢できない。
自分から男のものを迎えにいった。
男が声を漏らす。彼の熱いものが私の中でゆっくりと満たされるのを感じた。
腰の動きを止められない。
この男の全てを支配したかった。そして私も、同じく支配されたかった。
男が私の腰を掴んで動きを制止させる。
ーすぐいくのが、もったいない。ゆっくり味わいたいから動かないで、禁止。
お互いのシグネチャであるそれぞれの香水の香りが、汗の塩気と交わって独特の芳香を二人の間に漂わせる。その香りを感じとると、さらに燃え上がっていった。
互いを埋め合い、無を一層満たしていく。
切ない咆哮を上げながら、二人は同時に落ちていった。
気がつくと、男の腕の中に包まれていた。しばらく寝ていたようだ。男の腕をさすりながら、その温もりと先程の二人の営みを反芻した。時間が経ってから、男の腕をゆっくり払い、ベッドから降りて窓際に立つ。
ホテルのハーバービューから横浜の港を一望する。雨が降ってきたようだ。
雨とはいえ、その美しさに思わず息を呑んでしまった。眼下には山下公園。いつも下から見上げていたホテルに自分たちがいる。
暫くその景色に見惚れたあと、いつのまにか男も目を覚ましていたようで、ベッドから起き上がると私の背後に近づいてきた。
優しい仕草で手を伸ばし私の頬を撫でる。しばらくして後ろから再び彼の腕の中におさまった。
抱かれれば抱かれるほど愛しい想いと共に切ない気持ちが募っていく。
二人の心を知るのは、雨に濡れた横浜だけだった。
その日の夜はまた涙を流した。
愛せば愛すほど、幸せと同時に痛みを感じる。
漆黒の闇の中、時間をかけてお互いを愛撫しあい、私は優しく彼の頭を撫でる。
彼が後ろから切なく抱きしめると、そのままゆっくり私の中に入ってきた。少しでも腰を動かすと彼が気持ちよさからか身震いしている。
吐息が漏れるたびに、私の中も反応し彼をさらに刺激していく。
共に過ごせる時間の終焉が目前だったからか、私は彼にいってほしかったけれどまだ我慢してほしいという。
彼も優しく耳元で「愛してる」「俺も、いきたいけどまだいきたくない。我慢するので精一杯」と囁いた。
どうにかなってしまいそう。
しばらくすると、身体から不思議な感覚が湧き上がり、自分でもコントロールが効かなくなっていた。
「だめ、なにが起きてるかわからない、いきそう、、!」
私がいくと同時に
「ああ、俺もいく、、いく!」
切なさを抱きしめて、官能と快楽の渦に2人は呑まれていった。
別れの時間が近づいてきて、涙が堰をきって溢れ出てきた。
みると男も目が紅く、じんわりと涙を溜めている。
まぶたと目尻に優しくキスをした。塩辛い涙の味。
私と彼は力強く抱きしめあった。
この瞬間を一生記憶にとどめておけるように。
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