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おとうと
「ねえお姉ちゃん、プロテインを買ってくんない?」
夜、弟がわたしの部屋に訪ねてきて言った。
わたしには6歳年の離れた弟がいる。
大学4年生である。
弟とは仲がいい。
今日も、弟の頼みでクレジットカードしか使えないネットショップでプロテインを買ってあげた。(代金は現金でちゃんと弟からもらった)
最近、恋人に指摘されてようやく気がついたが、わたしの弟はシスコンだし、わたし自身はブラコンだ。
わたしの近しい人は、よくわたしから弟の話を聞かされていると思う。
無意識に弟の話をしてしまっているので。
かなりやばい。
弟が、というより年下の人間は基本かわいいとおもっている。
弟とわたしは、性格が真逆で、顔が似ていない。
どのくらい性格が真逆かと言うと、弟は友達が多く、顔が広いクラスのお調子者だ。
部活も中高大とずっと運動部で、いまはアメフトでランニングバックをやっている。(高校の頃にアイシールド21を勧めたらそのまんまハマってはじめた。)
対してわたしは、文化系で根暗な姉だ。
わたしは大学院時代、平日に、弟の忘れ物を高校まで届けたことがある。
その時のわたしの出で立ちは、休みだったので(勝手に休みにしただけだけど)ノーメイク、眼鏡、ボサボサの髪(当時は髪が短かった)、Tシャツ、短パンだった。
弟に校門まで出てきてもらい、忘れ物を手渡したとき、弟の友達も一緒にいた。
わたしが去ったあと、弟は友達から
「お互い色々あるよな。俺の兄ちゃんもさ、引きこもりなんだ.....」
と、間違った親近感を湧かれた上に、重めのカミングアウトを受けたらしい。
しかも、その子はわたしのことを、弟の年の離れた弟だと思ったらしい。ぜんぶちがう。
顔がどれだけにてないかと言うと、弟とふたりでマイナンバーカードを区役所に貰いに行ったとき、区役所のお兄さんは少し迷って、わたしのことを「奥様」と呼び弟のことを「旦那様」と呼んだ。
苗字が同じ2人の人間の関係が、兄弟であるという選択肢は選ばれなかった。
帰り道、弟が「ぼくとお姉ちゃん、顔似てないよね.......」と改めて言った。
でもわたしと弟は、母と父それぞれに似ているところがあるので、多分ちゃんとした兄弟のはずだ。
そんな弟とむかしから仲が良かったのかと言われると、そうでもなかったと思う。
弟が赤ちゃんの頃の記憶がある。
母のお腹が大きかったこと、
家にきたときのこと、
ベチョベチョのウンチをしていたこと、
初めて立ったときのこと、
覚えている。
弟が幼稚園児の頃は、何を言ってもわからない弟を理解出来ず、叩いたりつねったりした記憶もある。
友達とあそぶわたしにくっついてきてしまう弟も、目障りだった気がする。
わたしからの卑劣な仕打ちをうけながらも、弟はずっとわたしに懐いてくれている。
わたしには汚い言葉遣いはしないし、何故かやさしい。
酔っ払って家のトイレで倒れていた時は、死ぬほど心配してくれた。
弟は、小学校3年生くらいのときの
「お母さん、ありがとう」をテーマとした作文に、「お母さん、お姉ちゃんを産んでくれてありがとう」と書いたくらい、弟はわたしのことが大切だ。
ドン引きである。
弟が成長してからは、わたしも次第に弟を大切にするようになった。
なぜこんなに仲良くなったのかを考えてみると、お笑いの趣味が合うからだと思う。
ふたりとも、天竺鼠が好きだ。
あとロバートのお水クッキングで死ぬほど笑うことができる。
弟から紹介されたお笑い芸人はだいたい面白いので、たすかる。
弟の大学受験では、願書のネット提出はすべてわたしがやったし、最近では就活のエントリーシートの作成に尽力するなどした。
アメフトのために体を鍛える弟は、今日もわたしが誕生日プレゼントにあげた腹筋がプルプルするマシーンを腹に貼ってニコニコしている。
「プロテイン買えてよかったよ〜」
わたしと弟は、仲がいい。
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