ソシャゲにハマる理由を行動経済学から探りデザインに活かそう
今回も前回の記事に引き続き行動経済学を通したデザインに関する記事です。UIよりはUXデザイン色が強めです。
ソーシャルゲームを行動経済学という観点から評価し、実際に私たちのデザイン業務にどう活かせるかを具体的な例を用いて紹介します。
ソーシャルゲームの定義
本来の意味はSNSで提供されるオンラインゲームを指す言葉ですが、今回の記事ではiOSやAndroidで提供されている無料ゲームも対象としています。
なぜ無料なのか
売上げの8割は全顧客の2割が生み出しているというパレートの法則が有名ですが、ソシャゲのようなフリーミアムモデルでは5%のユーザーが課金をすればビジネスが成り立つとされています。
なおDropboxの課金ユーザーの割合は2019年5月時点で2.64%であり、実際は2〜5%の割合が一番多いという調査もあります。
始めるきっかけは他人の影響
ソシャゲは昔ほどフレンド機能による恩恵はないですが、周りの友達やTwitterなどがきっかけで始める事が多いですよね。
人は集団の意見や選択を正しいと判断するバンドワゴン効果というバイアスがあり、周りと同じ行動を取る傾向があります。
バンドワゴン効果を利用したデザインとしては、商品の人気ランキングや利用者数の公開、お客様の意見などがあります。
コープ共済では顧客満足度1位を大々的に押し出し信頼度の向上に繋げています。
また運営や広告による直接的な意見よりも第三者の意見を信じるウィンザー効果により、Twitterなどで見る面白いという意見を真実として受け取りやすくなります。
デザインに活かす方法としては商品やサービスの好きな点をユーザーにSNS投稿して貰いましょう。見た人への影響はもちろん、投稿したユーザー自身もコミットメントと一貫性のバイアスによって投稿前よりも好きになります。
キリンビールでは乾杯したい事や飲みたくなるシーンをSNS投稿するプレゼントキャンペーンを行い、応募者自ら飲みたくなる衝動を掻き立てる施策を行いました。
チュートリアルを最高の体験に
チュートリアルではそのゲームで最も爽快感を得られるアクションや美麗な演出を体験できる事が殆どです。
例えばRPGでは地球滅亡の危機を前に突如現れたラスボスと伝説の勇者たちのバトルからスタートし、わくわくしながらガチャを引いて終了します。
人は過去の経験をピークと終わり方のみでしか評価できません。それ以外の出来事や感情は記憶からなくなるわけではありませんが比較の対象にはなりません。
ピーク・エンドの法則を理解し、ユーザーの記憶にどう残すかをコントロールしましょう。すばらしい体験をまず提供し、ユーザーを虜にするのです。
課金対象の価値を引き上げる
日本のソシャゲの象徴であるガチャはレアリティが存在し、出現確率に差を設けて希少性の原理を利用する事でユーザーにその価値を印象付けています。
数量や期間に制限をかける事で本来よりも高い価値を生み出す事ができます。ただし本来価値のないものをそのように扱うと信頼を失うため乱用は避けるべきです。
楽天モバイルでは300万人限定で1年間無料キャンペーンを行い、新規契約者の獲得を促しました。
最高レアリティのガチャ確率はゲームによっては1%を超えないものも多く、確率を数倍に上げても簡単には獲得できません。
ですが人は内容は同じでも「今だけ0.5%が1.5%」ではなく「今だけ確率3倍」だと当たりやすいと感じます。表現方法によって大きく受け止め方が変わる現象をフレーミング効果と呼びます。
Appleでは「iPhone史上最高にパワフル」というキャッチフレーズでユーザーの感情に訴えかけました。ユーザーにとってスマホ史上何番目かは知る必要がありません。
1つキャラを手に入れると同じシリーズを集めたくなるディドロ効果を期待し、新キャラ追加時には同じ建て付けのキャラを数体追加するのが一般的です。
IKEAでは家具をレイアウトして見せる事で、まとめて欲しくなる展示方法を採用しています。
ユーザーは保有効果により、手に入れたキャラを所有していなかった時よりも価値の高いキャラだと認識します。
またユーザー自身がキャラを強化して成長に関わる事でIKEA効果が生まれ、さらに価値が高まります。
キューピーのつぶしておいしいたまごのサラダは、購入者自身がたまごを潰して完成することでできたてのおいしさを印象付けています。
普段ゲームをしない人もプレイする理由
ポケモンGOやドラクエウォークのような位置ゲーは、普段はあまりゲームをしない人たちや幅広い年齢層にも人気です。
これまでゲームに対して良い印象を抱いていなかった人たちも健康的・地域活性化など、正当化してプレイできるジャンルです。
このように言い訳になり得る逃げ道があると認知的不協和の解消が発生し、躊躇していた人が受け入れやすい状況を作り出す事ができます。
甘いものを食べるのは罪悪感が伴います。森永では対象のチョコを1つ買うごとに1円が寄付されるキャンペーンを2009年から定期的に行い、気持ちよく購入する理由を提供しています。
イベントを通した自己表現
ソシャゲでは時間やアイテムを消費して報酬を得るイベントを定期開催します。
ゲームによってはその期間プライベートを全て注ぎ込む必要があり、イベントの最中は辛く感じることも多いはずです。
しかしピーク・エンドの法則によりそういった感情は達成感や報酬を得た喜びで上書きされ、評価の対象には含まれません。
また人は常に自分自身を他者に表現したい自己表現というバイアスがあり、イベントを達成した後にTwitterなどで周知し自己表現の1つとして使われています。
周りのユーザーはこうした投稿を見る事で「時間やお金を費やしているのは自分だけじゃない」というバンドワゴン効果による安心感も生み出しています。
なおスタミナ制のゲームも多く、スタミナを満タンのまま放置するのは勿体ないと損失回避が働きプレイをしたくなります。
ZOZOタウンでは1000円オフセールではなく、1000円オフのクーポンを配布し、使わなければ勿体ないという感情を引き出しています。
まとめ
このようにソシャゲにはユーザーがハマる仕掛けが数多く存在します。
そして金銭的・精神的・時間的投資をした後にゲームをやめることはそれまでの投資をすべて損失確定する事に繋がるため、ゲームの引退は非常に困難になります。
このようなコンコルド効果に限らずこうした認知バイアスは理解したとしても乗り越える事は容易ではありません。
人を惹きつけて離さないデザインはどのような業種であっても求められる事が多く、どのようにして人がハマるのかを理解する事で様々なデザインに活かすことができるでしょう。
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