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干支の漢字「子」をモチーフに2020年年賀状をデザインした思考プロセス。 我的设计新年的贺卡思考的过程特色今年十二生肖的汉子「子」。

昨年はnoteで備忘及び共有という目的で適宜思考を記録していく習慣をつけたのだが、はじめての投稿は年始に書いた下記の年賀状がテーマのものだった。

自分は毎年年賀状をデザインしているのだが(決して職業としてのデザイナーでは無いが)今回もその思考プロセスをまとめておきたいと思う。今年の年末に来年の年賀状をデザインする際に、整理しておくことで自身にとっての参考にもなるし、デザインを気に入って下さった方々の中にも完成版に至るプロセスに興味を持って頂けた方もいらっしゃったので、その参考にもなればと思い記録しておきたいと思う。

昨年一度まとめてはいるが、ステップとしては全く同じ流れを踏んでいるので、昨年のまとめた文面を借りつつ、適宜要素を今年度版でアップデートしてみる。
※海外の友人に年賀状を送っていたりするので見てくれるかはわからないが英語/中国語(片言)で要点のみ追記しておきたいと思う。

本エントリーの内容(昨年とほぼ同じ)
The content of this post / 这个博客文章的内容

I. 背景:デザイナーでもない自分がなぜ年賀状のデザインを始めたのか
   Background/ why a person like a non professional designer started         designing the new year's Japanese greeting card. 
   背景:为什么我,不是创业的设计师,开始了设计日本的新年贺卡

II. コンセプト:デザインをどの様な方針で行ったのか
     Concept : What was the main direction that I followed in terms of       designing? 
     我设计的时候有什么样的设计的概念?

III. 今年のデザイン:どんなプロセスでデザインをしたのか(写真多め)
     This year's design : What was the overall process of designing? 
   今年贺卡的设计:通过怎么样的过程我设计了贺卡 

IV. 総括:改めてなんで年賀状をデザインするのか+今年このnoteをまとめてみての気づき
    Summary : so why do I design afterall? Things I've realized while          designing. 
    总结:我到底为什么设计?设计的时候我意识到了的事物

I. 背景:デザイナーでもない自分がなぜ年賀状のデザインを始めたのか 
Background/ why, a person not a professional designer started designing the new year's Japanese greeting card. 
背景:为什么我,不是创业的设计师,开始了设计日本的新年贺卡

始まりは大学3年の時。ヨーロッパを一月ほど単身バックパックして、色んな国々の人たちと知り合った。帰国後、旅先で助けてくれた、話しかけてくれたお礼に何か日本的なものを送りたいなと思ったことがそもそもの始まり。ただ、ただ年賀状を送るだけではつまらないなと思い、せっかくなので何かもっと日本的にできないかと、記憶が定かではないがとりあえず筆を使って書いてみようと思い立った。(振り返れば、筆自体は日本に根ざしている訳ではないが。まあ雰囲気である。)正確には使ったのは筆ペン。習字に関しては小学校時代に「止め」「払い」を授業で習ったくらいの素人だが、若さと勢いだけはあったのか、とにかく送りたいという気持ちで取り掛かった。

II. コンセプト:デザインをどの様な方針で行ったか
Concept : What was the main direction that I followed in terms of designing?
我设计的时候有什么样的设计的概念?

※「コンセプト」という言葉は非常に抽象度が高く解釈の幅が広い魔物的なワードなので避けるべきかもしれないが、自分としては「ベクトル=方針、方向性」という意味でここでは捉えている。

とりあえず筆ペンを使い、当時2011年の干支の「うさぎ(卯)」を書いてみよう、と思って色々書いてみた所、下記の様な、なんとなくうさぎっぽい形に着地したので採用したのを朧げに記憶している。

スクリーンショット 2020-01-03 5.18.44

ここでの取り組みは今改めて振り返ると、後付け的ではあるが、「独自性」と「普遍性」の掛け合わせと捉えられるのではと思っている。どういうことかというと、
・欧米の人から見た「独自性」=ここで言う東洋の「漢字」(筆感)

・世界の誰もが理解し得る「普遍性」=ここでいう「動物」の掛け合わせ、という感じである。

この考え方は「日本」という固性の強いプロダクトや資産を多く有する国にとっては重要な考え方だと勝手に思っている。例えばで言えば(既に例が古いかもだが)、「ベイビーメタル」。「少女アイドル」という日本のニッチなマーケットを「ハードロック」という全世界にファンが存在するジャンルに掛け合わせたことで世界的に裾野を広げた。「独自性」という軸(=言うなればコンパスの針)を中心に据えつつ、どう外側のリーチ(=コンパスの外の円書く方の針)を広げていくか。そんなイメージが想起される。
結果的に、このデザインを海外の友人達がとても気に入ってくれたのもあり、翌年、さらに翌年と同様のコンセプトで続けてみた。

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※一昨年の「戌」については干支の漢字が困難だったため「犬」にて実施。
当時から既に早くも9年が経過したのだが、一貫して「干支の動物」と「漢字(筆ペン)」の掛け合わせでここまでやってきた。そんな中数種類が溜まった頃から「なんとか12種類の干支をこのコンセプトでやりきってみたい」「きっとやりきった時の全干支デザインを眺めるのは言い知れぬ達成感につながるはず」という自我が芽生えてしまった。いずれにおいても年末のみ、数日間の内に取り掛かり終えるという意識のもとに取り組んでいる。

III. 今年のデザイン:どういったプロセスでデザインをしたのか(写真多め)
This year's design : What was the overall process of designing? 
今年贺卡的设计:通过怎么样的过程我设计了贺卡 

前置きの駄文が長くなってしまったが、完成までの思考プロセスとそれに付随して変化したデザインの変遷を簡単に。

❶対象物(漢字)を見る・調べる
Look at/research the meaning and the context of the object, which is the chinese character (子年or鼠年 meaning the year of mouse)
看、查了对象(汉子)


今年の干支「子/鼠」という漢字を見たり、成り立ちや、意味を調べる。
あくまで基礎情報としてのインプットだが、書いているうちに思いもよらずインスピレーションのヒントになることも。

これらによると、
・十二支の動物自体は後付の意味が強い。(元々は日付を記録するものに使われていた)
・子という漢字は本来「孳」という字で、種子の中に新しい生命がきざし始める状態を指す(そもそも十二支は植物の循環の様子を表しています。)
などの情報を知るに至った。(結果的に本論とあまり関係はない)

❷対象物(動物)を見る・調べる
Look at/research the meaning and the context of the object, which is the animal (=mouse)
看差了对象(十二生肖的动物)


文字通り、「ねずみ」の写真を見る。とにかく色々見る。

スクリーンショット 2020-01-03 5.23.05

なんとなくではあるが、「耳が大きい」「目がくりっとしている」「しっぽが長い」などが特徴的な印象を得た。

❸干支の漢字(=「子/鼠」)をとりあえず宛てもなく書いてみる。
Randomly try to write the Chinese characters of zodiacal animals (「子/鼠」)
试试写那个十二生肖的汉子没有固定的规则

見栄えを気にせず、とにかく自由に色んな方向に遊び感覚で書いてみる。この時はどう”ねずみ”に見えるかはそこまで意識しない。また、ねずみという漢字は「子年」の「子」もあるし、「鼠」の漢字で行くのもありかなと思い、両方でまずはトライしている。(始めるときは特にどのように最終着地するかは答えは見えていないのだが、過去9年間やってきて毎回なんとなく満足行く答えにたどり着けているので今年もなんとかなるだろうと思っている所がある)そして書いているとなんとなく「耳」「口」「しっぽ」あたりを目立たせていくと「ねずみ」っぽくなる感覚を得る。

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ちなみに去年もまとめるうちに気がついたのだが、この特徴点を探すという作業は、全行程の中でおそらく圧倒的に重要だと思われる。AIの議論でよく登場するパターン認識にも通じる話だと思うが、やはり、僕らが、他人を他人と区別できるのは、その人ならではの特徴(鼻でも口でも目でもなんでもいいが、様は「差別性」)があるからである。

同様にして当たり前だが、「ねずみ」として認識してもらうには、「ねずみらしさ」を尖らせることが不可欠である。

言わずもがな、差別性をどう磨くかは、マーケティング(認知され好きになってもらう活動)においてもエンタメ(例えばキャラクター作り)においても重要さは変わらぬと考える。

ちなみに筆ペンは、パイロットの「小筆 軟筆 直液式」を愛用している。何年か前に色々なペンを試したのだが、最もこの筆が書きやすいと感じた。


❹ 対象の動物の特徴(ねずみの耳口尾)を意識して漢字(「子/鼠」)を書いてみる
Try to write down the chinese character of the zodiacal animal paying attention to the characteristics of the animal (in this case, such as mouse's ear/mouth/tail)
一边注意十二生肖动物的特点(ex. 鼠的耳朵/口/尾巴)一边写动物的汉子

色々筆ペンを遊ばせてみた結果、なんとなく上述のように「耳」「(尖った)口」「尾」を目立たせていくとねずみっぽくなる感覚を得た。

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一見、「鼠」の方が容易にねずみらしく見せることはできそうな気がしたのだが、何度か書き続けていく上で、画数が多くかなりごちゃつく(筆ペンの太さがどうしてもそこと同居しない)感じがしていた。むしろどう着地するかはまだ手探りではあったが、なんとなく「子」の方に時間を傾けた方が良い答えが見いだせるのではないかという直感があったので、ある程度書き続けていると、「子」の上の部分が書き味によって「余白を含めてみると」「耳」「目」「口」のあるねずみっぽく見えることに気がついた(下の紙の左側から右側にかけて書いている試作)ので、なんとなくいけそうな感覚を得た所で初日は筆を置くことにした。※同時に「尾」を表現するのは「子」の最後の一画を左右に横切りその上で降下させる形を当初考えていたのだが、上記の気付きと同時に、「子」の二画目で右から左にはらう形で表現できそうなことに気がついた。

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❺「型」を意識して、ひたすら精度を上げる。
Once finding out the shape that can make the Chinese character look like the animal, with this in mind, sophisticate the design.
一边注意看起来像着那个动物汉子的形式一边精致那个设计

なんとなく全体の方向性が見えたので、あとはひたすら、自分が理想の着地点と想定する書き味が出るように何度も書いてみる。理想としたのは、漢字の「子」の余韻を残しつつ、「ねずみ」っぽく見えること、である。
ここでも書いていると、どの様に処理しようか考えていた最後の一画は、ねずみのちょこんと飛び出ている「手」にしてしまうとよりねずみとわかりやすいと気がついた。

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同様の方向性で引き続き書き続ける。

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この写真である程度フィニッシュまで近い感じはしていたのだが、なにかが足りない感じがしてならなかった。(なんとなくちょっとおばけっぽいというか、ちょっと龍っぽい印象があるというか。)

そこで改めてねずみのイラストを見たりして、再度特徴を洗い出しする作業に戻ってみたりと往復作業を繰り返した。同じようなタイミングで、友人がインスタで(ねずみキャラらしい)ピカチュウの写真をあげていて、総合して、実はねずみらしさを形作っているのは「ちょこんと描かれている手足(+ぷっくらしたお腹)」なのではないかと気がついた。

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その上で、「手」とセットになる「足」が現状ないことに気が付き、どうしようかと思案した。結果的には、やりすぎ感は多少はあるのだが、左にながしていた「尾」をしまう工程に「足」を付け足してみると、なんかいい感じになることに気がついた。(この気付きを得る、自己完結では有るがひらめきの瞬間がなんとも快感なのだ)

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❻「型」を意識して、ひたすら精度を上げる。(微修正)
With the ideal shape in mind, keep polishing the design. 
一边注意那个动物汉子的形式一边继续精致那个设计

完全に全体の型が定まったので、あとは各個別のパーツがよく見えるように微修正しながら書き続ける。

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❼ Photoshopにて組み合わせ・微修正
Make minor adjustments using photoshop to combine the best looking parts. 
用photoshop结合最好看的部分

最後は、いくつか書いた中で、ベストな見た目かなと思える筆致のあるパーツをPhotoshopで組み合わせ。※本格的な書道ではないので、一筆書きには別段こだわっていない。(書道の精神からしたら反則なのであろうことは承知しており、なのでこれは自分の解釈としては書道ではないのかなと。)というよりもなかなかベストなパーツを一筆で書き上げる技巧もないため、フォトショで最良だと思うパーツを組み合わせている。あくまでトータルでの見た目を優先。
以下、完成版。

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個人的には、「余白」を使うことで動物の全体感を表現するという今までと少し異なる手法で終える事ができたのもあり、去年と同じく割と上手くいった方ではないかと勝手に自己満足している。デザインだけに関してはおそらく計2日、総合で7−8時間位かと思われる。(かかった時間もだいたい去年と同じだった)かつ、去年の亥を含めてだが、この二年は個人的に安定して満足できる形に落ち着いたと思っており、その要因はやはり自分の思考のプロセスをこのような形で言語化し、STEPを分解した事が大きかったのではないかと思う。明文化されていれば、自分がいまどのフェイズにいて、迷った・困った時、どのように対処すればよいかある程度拠り所とすることができ、直面する課題の解決策を探す糸口にはなるのだなと改めて感じた。そして世の中にはそうして明文化されていない形式知がきっと五万と溢れていて、そうした所を言語化、仕組み化することでより大きな価値を発揮できることもあるのではないかと感じた次第だ。(もちろん明文化されていない感性の世界があるからこそお金が動いている領域があることも事実であるはずだ)

ちなみにだが、ずっと一人で進めていると必ず思考が客観性を失ってくるので、1日おいて改めて俯瞰する様にしてみたり、友人や同僚の意見を聞くなどしている。今回は完全に周りの意見を取り入れずとなったので、一度筆を走らせ他の作業をしてから、再度取り組むなど、改めて俯瞰する工程を意識的に取り入れてみたりした。客観性を維持しつつ進めることは何においても非常に重要なプロセスだと思う。

総括:改めて年賀状をデザインする意味とは
Summary : so why do I design afterall? Things I've realized while designing. 
总结:我到底为什么设计?设计的时候我意识到了的事物

これは自分にとってだが、やはりこの年末限定の創作活動は自分にとって欠かせない習慣のようなものとなってきた。

正直最初はどういった形でデザインが着地するかは全く見えていないのだが、何かしら色々な方向に書いてみる中で、対象の動物へと似せる形が徐々に見えてくる(自分の中でのブレークスルーが起こる瞬間。今回でいうと、ねずみらしく見せるコツは実は(大前提目耳口がありつつの「手足+ぷくっとふくれたお腹」なのだという気付き)が最も楽しかったりする

年賀状自体は、昨今デジタル・SNSの進展もあり、若い人を中心に年々書く人も減ってきている様に思う。全くそれを自分は悪いとも思わないし不可避な流れだと思う。

極論言えば、年賀状をわざわざ書くという行為も、人間の根本的な生命活動においては無意味である。別にやらなくても生きてくことに支障はない。
ただ、やはり、自分はこの年末、この1年自分を支えてくれた・関わってくれた人たちの顔を思い浮かべつつ、言葉を紡ぐ時間がなんだかんだ好きなのである。(少なくとも今は。)そうしたやり取りの中で、自分で生み出したデザインがちょっとでも喜んでもらったり、会話の種になってもらうことには大した技巧でなくとも嬉しく思うのである。

きっとまた来年以降も、苦悩しながらも楽しみつつ、やり遂げるのであろう。残りあと2年は。





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