【読書メモ】プロダクトマネジメントのすべて
元GoogleでNHK番組『プロフェッショナル』にも出演したことのある及川卓也さん、米系スタートアップ・大企業で豊富なProduct Manager経験をもつ曽根原春樹さん、ミクシィ・LINEを経てProduct Managerとして活躍する小城久美子さんの共著。
普段はデジタルマーケティング領域の仕事がメインですが、プロダクト(サービス)は関わりの深い領域で社内でも連携が多いことからこの本に興味を持ちました。
今回はこの本を読んで興味深いと思った点をまとめてみたいと思います。
1.プロダクトの成功を生み出す3つの要素
①ビジョン、②ユーザー価値、③事業収益。
「プロダクトによってどんな世界をつくりたいのか」をチームの目標として意識することでプロダクトの成功に近づく。
プロダクトはユーザーに価値があると感じてもらい、使い続けてもらうことが重要。プロダクトをつくるときに、プロダクトマネージャーはまず価値を提案するユーザーを定義する。
プロダクトマネジメントが定着し、成果を出している組織はプロダクト志向がある。プロダクトマネージャーだけでなく、エンジニアやマーケター、営業などプロダクトに関わるメンバー全員がプロダクトの価値を理解し、プロダクトの成功であるビジョンの達成、ユーザー価値と事業収益の向上に邁進する。
2.PMFとは
PMF(プロダクト・マーケット・フィット)とは強力な価値仮説を見つけることである。価値仮説とは、なぜユーザーや顧客があなたのプロダクトを使うのかを説明しうる重要な仮説のことである。
3.PMの仕事に必要な3つの領域
プロダクトマネージャーの仕事に必要な領域はビジネス、 UX、テクノロジーの 3つ。
ビジネスはプロダクトが市場でユーザーを獲得し、収益を上げることができるかを判断する領域。
UXはユーザーが本当に求めているものを発見し、使われる形で提供するための領域。
テクノロジーはその実現可能性を判断する領域。
4.PMとPMMの役割は?
PM(プロダクトマネージャー)はプロダクトを成功させることに責任を持つ。プロダクトに関係する意思決定を実施し、プロダクトチームを率いる。
PMM(プロダクトマーケティングマネージャー)はプロダクトのビジョンを実現することができるユーザーを探し、プロダクトをそのユーザーに届ける(※)。
スタートアップではプロダクトマネージャーがPMMを兼任することもあるが、組織が大きくなると独立したPMMの必要性が増してくる。
PMMは一般的にマーケティング部門の中に存在し、プロダクトマネージャーと対等な関係である。
マーケティング戦略を組み立てるときにプロダクトマネージャーとPMMが協同し、PMMが他のマーケティング部門のメンバーと議論をしてGTM(go-to-market strategy、企業が新製品を投入する際に計画するアクションプラン)の際の制約条件や考慮すべき点などを盛り込む。
PMMはマーケットや競合分析を手がけ、PMFを見つける部分を助けたり、プロダクト施策を考察したりする。
PMはしかるべきユーザー向けによいプロダクトをつくって棚に置くのが仕事であり、 PMMはしかるべきユーザーにそのプロダクトを棚から取ってもらうよう仕掛けるのが仕事である。
信頼、情熱、共感、論理の 4つの手段を武器にしつつ、同じ目標に向かう仲間として動く。
※職種について補足
Coral Capitalの記事を参照するとPMMは「プロダクトを売る」専門家とのこと。
また下記図もPMとPMMの違いが分かりやすく表現されています。
5.プロダクトの仮説の連鎖を可視化する4階層
上から順にプロダクトの Core、 Why、 What、 Howから構成される。
階層の上にあるものが、その下の階層の前提条件となり、上の階層に変更があった場合にはその下の階層は再検討が必要となる。
6.プロダクトのwhy/whatを検討するための方法論
プロダクトのWhyを検討するための方法論。
①「誰」を「どんな状態にしたいか」
・MVP
・バリュー・プロポジションキャンバス
・プロダクトのペインとゲイン
・ユーザーインタビュー
②なぜ自社がするのか
・PEST分析
・ファイブフォース分析
・SWOT分析、クロスSWOT分析
・STP分析
プロダクトのWhatを検討するための方法論。
・ペルソナ
・メンタルモデルダイアグラム
・カスタマージャーニーマップ
・ビジネスモデルキャンバス
・ロードマップ
・指標(KPIとNorth Star Metric)
7.NSM(ノーススターメトリクス)とは何か?
North Starは「北極星」を意味し、米国では「人々を迷うことなく同じ方向へと導くための光り輝く目標」を意味する。
North Star Metricは最終的に達成したい指標であり、ユーザーが享受する便益、収益性、技術的なチャレンジ度合いなどの視点からもっとも費用対効果が高そうなものを見つけ出す。それこそプロダクトとして優先度が高い。
NSMは「プロダクトのコアとなる価値がユーザーに届いているかを知る、単一の指標」と定義できる。いい換えれば事業が長期的に成長しているかどうかを図る、経営・プロダクト両面で重要な指標となる。すでに多くのシリコンバレー企業で導入されている。
よい NSMとして大事なポイントは以下の 5つである。
① NSMの改善がユーザー体験の向上とリンクしている。
②ユーザーがプロダクトにどのくらい定着しているかを示す。
③ NSMを目指すことで x軸に時間、 y軸に収益や成長目標を取ったグラフが長期的には右上方向に進む。
④収益に結びつくための先行指標である。
⑤組織内で理解してもらいやすい。
具体例として、ビデオ会議 SaaSプロダクトの Zoomが取り上げられている。Zoomは 2021年の会計年度では売上高 1800億円の収益を KGIに掲げており、そのための NSMとして「 Zoomで主催された 1週間あたりのミーティングの数」を置いている。
8.優れたチームに共通することは?
Googleのプロジェクトアリストテレスとよばれる 2012年に立ち上がったプロジェクトでは、115のエンジニアリングチームと65の営業チームを対象として優れたチームに共通する条件を調査。その結果、優れたチームには次のような共通点があることが判明。
①心理的安全性
②信頼性
③構造と明瞭さ(期待される仕事とOKRを用いた目標設定)
④意味合い(仕事の目的)
⑤インパクト(成果の影響度)
心理的安全性が先行して市民権を得ている印象だか、②〜⑤もセットで押さえたい。
9.同じ目標に向かう為のマネジメント手法/振り返り方法
・OKR
目標(Objectives)と主要結果(Key Results)の頭文字であるOとKRから名づけられた手法で、目標(O)とは「達成するもの」、主要結果(KR)は目標(O)の達成状況を監視するための基準を意味する。
目標は組織が達成すべき重要なものとし、具体的かつ組織のメンバーの行動を促すものである。主要結果は達成度を測る計測可能なものでなければならず、可能な限り定量的なものとする。
・KPT/YWT
日本国内での代表的なふりかえりの手法として KPTがある。
KPTは Keep、 Problem、 Tryの頭文字をとった言葉で、「このまま継続すること(Keep)」「課題(Problem)」「解決策(Try)」について各々が付箋に書き出して発表し合う手法。
他にも、 YWTとよばれる「やったこと(Yattakoto)」「わかったこと(Wakattakoto)」「次にやること(Tsuginiyarukoto)」を書き出す手法もある。
・PREP法
結論(Point)から話し始め、次にその理由(Reason)を述べ、続い事例(Example)を紹介したあと、最後に再度結論(Point)でまとめる。
10.気をつけたいサンクコストバイアス
サンクコストとは、事業や行為に投下した資金・労力のうち、事業や行為の撤退・縮小・中止をしても戻って来ない資金や労力のことを指す。サンクコストバイアスとは、投資に対する効果が見えなくても、それまでに投資した分をもったいないと思ってしまい終わらすことができず、新しいチャンスを逃してしまう考えにとらわれること。
11.プロダクトマネージャーと人材モデル(I型、 T型、 π型)
ビジネスパーソンがスキルを獲得していく様子は、欧文の字形にあてはめられて語られることが多い。
I型とは特定の分野に非常に精通したプロフェッショナルもしくは専門職であることを示している。
T型とは 1つの専門性をもちつつ隣接分野に対する一定の造詣がある状態を指す。これらの発展型は π型となり、 T型にさらにもう 1つの専門性が付加されることを表している。
どれも企業において必要な人材であり、それぞれの型に求められるものは違う。
12.知識のアップデート方法
SNSを使う(たとえばツイッター)。
業界のリーディングカンパニー、キーマン、VCをフォローする。マーケティング・リサーチファームのレポートを読む。
craft. coを使う(US系スタートアップ企業の場合) 。SPEEDAや業界新聞や業界特化サイトを読む。公開企業であれば財務諸表を読み、同業他社と比較する・他の業界を学ぶ。
13.プロダクトにおける重要指標/モデル
・継続率
業界に関わらず重要な指標がユーザー継続率(User retention)。ユーザーがプロダクトに定着している状態を示す。
・離脱率
離脱率(Churn rate)は継続率と表裏一体の重要な指標で、これら双方に目を配るほうがよい。
離脱率は目に見えないところが原因となって上がることも多い。プロダクトの見た目の美しさや使いやすさは継続率改善には効いてくる。
しかし起動するたびのローディング時間で長く待たされたり、重要な機能が壊れていたりするとユーザーは離れてしまう。
UI上の表面的なバグだからといって対応を後回しにしていたものがプロダクトの総合的な UXを大きく損なってしまっていることがある。
継続率だけを考えているだけでは、離脱率の上昇を見逃してしまうことがあるので注意。
・AARRRモデルとファネル分析
離脱率を考えるうえで有用なモデルは AARRRモデル。
数(Acquisition)やアカウント作成ユーザー数(Activation)の部分をトップオブファネル(Top of Funnel)、有料ユーザー数(Revenue)や他のユーザーを紹介してくれたユーザー数(Referral)の部分をボトムオブファネル(Bottom of Funnel)とよび、集中して働きかける階層を分けて考える。
・MRR
MRR(Monthly Recurring Revenue)とは月次経常収益のこと。
サブスクリプションモデルでは、ユーザーが一定期間ごとに繰り返し支払うことを想定しているために、継続収益を予測するために利用する。年単位で見る場合はARR(Annual Recurring Revenue)とよばれる。
・ネットプロモータースコア
ネットプロモータースコア(Net Promoter Score)とはプロダクトを使ったあとにユーザーがどのような印象をもつかを定量的に計測するための指標。
米国系コンサルティング会社の Bain and Companyによってつくられて以降、BtoB・BtoCにかかわらず幅広く使われプロダクトや企業に対するユーザーの満足度やロイヤリティーを理解するために用いられる。
14.データ分析について
何度も繰り返し見る数字であれば、必要なデータをグラフ化し、それを一箇所に集めたダッシュボードを構築して可視化するとより使いやすくなる。
定常的に見る数字以外を分析する際、データベースに格納されていれば SQLを適宜活用する。
1日あたりのアクティブユーザー(DAU)といった単純な数字だけでなく、1日あたりのユーザーのアクション数、特定コンテンツにアクセスしたユーザーの時間帯別分散といった複雑な分析もできる。
プロダクトマネージャーも基本的な SQLは使えたほうがよいと考えるが、使い慣れていないのであればデータサイエンティストとともに分析する。
15.データ分析の基本指標
①平均値
平均値とは、複数の数値の総和を算出し、数値の個数で割った値のことである。
複数の数値を比較する際のわかりやすい方法ではあるが、平均値だけを見てしまうと誤った解釈をしてしまう。
たとえば、プロダクト評価の平均点が 70点であったとき、個々の点数が 70点近辺に集まっていた場合と、100点周辺および 40点周辺にかたよっていた場合では数字の解釈の仕方が変わってくる。
②中央値
中央値とは、複数の数値を小さいものから大きいものへと順番に並べたとき、真ん中(中央)に位置する数値のことである。
1, 1, 1, 2, 4, 4, 4, 5, 8, 8, 15, 20, 33という数値群があった場合、中央値は「4」となり、平均値は「8. 15」となる。
ここで中央値と平均値のかい離が大きい場合は要注意である。平均値を押し上げている原因は少数の大きな値による可能性があるからである。
少数の大きな値を飛び値として除外する必要があるかもしれない。つまり、プロダクト評価の平均値が高いからといって喜ぶのは早計といえる。中央値を確認して極端なユーザーによって数値が引きずられていないかを確認する。
⑤累積確率分布
累積確率分布は対象とする事象が起こる確率を積み上げていくことで表現する。
⑥変化率
時系列データを扱う場合、その数字が期間中にどの程度変化したかという変化率は、数字のインパクトを図るうえで注目される。
変化率は次のように求めることができる。 変化率 =(期間の最後の数字-期間の最初の数字)÷期間の最初の数字。
変化率を 1年前の数字と今年の数字で比較すれば単年成長率(Year-over-Year:YoY)がわかる。
16.デザイン6原則
デザイナーと建設的な議論をするためにもドン・ノーマンのデザイン 6原則を知っておくと、より UXの言語化がうまくなる。
(1)可視性
可視性とは、人がプロダクトを見たときに、プロダクトがどのような状態にあり、どのようなアクションを取ればよいかが説明なしにわかることを指す。
プロダクトの状態と行動をストレスなく認識させてくれ、ユーザーが迷うことなく使えるのが狙いである。
(2)フィードバック
フィードバックとは、人が取った行動に対して何らかの情報を返すことで、プロダクトがいまどんな状態で、何らかの動作が完了したのかどうかを示す。
視覚的に表示されるもの、音声やサウンドによる聴覚的なもの、バイブレーションといった触覚的なもの、さらにはそれらの複合的なものまでさまざまな種類がある。
(3)アフォーダンス
アフォーダンスとは、プロダクトの形や様子からそのものについての説明がなくてもその使い方がわかる概念を指す。可視性はプロダクトの「状態と次の行動」に焦点が置かれているのに対して、アフォーダンスはプロダクトの「使い方」に注目する。
アフォーダンスが適切にデザインできていないと、ユーザーは「使いづらい」と思い、継続的には使われなくなる。
(4)マッピング
マッピングとは、プロダクトを使うときの制御方法とその帰結の関係性を示している。たとえばウェブサイトで飛行機の座席を選ぶ場面で、文字情報だけで「3A」や「32E」と表記されてもそれがどのあたりなのかわかりづらい。しかし座席のマッピングの絵とあわせて座席番号が表記されていると直感的に理解できる。
(5)制約
制約とは、デザインに限りを設けることである。プロダクトをつくる際は「あれもできたらいい、これもできると差別化になる」とあれこれ詰め込んでしまう場合がよくあるが、制約条件を設けることで機能や体験を絞り込み、ユーザーの迷いを減らすことができる。
(6)統一感
統一感とは、ユーザーがプロダクトに触れるところすべてに一定のルールが存在することを示す。美的統一感、機能性、内部性、外部性の4つの観点が存在する。
17.プロダクトマネージャーのためのセルフチェックリスト
項目多いが定期的に自分に問うことで仕事の基準を上げていく。
□プロダクトが目指すべきビジョンをもっているか?
□自社独自の価値がはっきりしているか?
□市場をつくり上げる気概をもっているか?
□ユーザーとの対話の機会をもっているか?
□ユーザーのいっていることから、なぜそれが求められているかを深く考えているか?
□チームメンバーやステークホルダーとの関係に気を配っているか?
□関係者とは調整ではなく、相談・交渉・説得できているか?
□いわれたことであっても、自分が納得したうえで実行しているか?
□ Noというべきときは、 Noといえているか?
□プロダクトの方向性やターゲットユーザーを考えたうえで、競合を意識しているか?
□ユーザーのニーズに合わせてプロダクトを変容させているか?
□適正価格を見つけることにしかるべき時間をかけているか?
□優先度をつけているか?
□失敗を価値ある学びに変えられているか?
□データを活用しているか?
□直感に頼る前に時間の許す限り調べたか?
□ふりかえりを続けながら磨き上げているか?
□つねに学び続けているか?
18.最後に
この本を読んでからアンテナがプロダクトマネージャーに向いているせいか、関連した情報に出会いやすくなりました。
特にゼロトピックのyamottyさんや
佐々木真さんの話す内容が今回の本とは
また違う語り方をしており興味深かったです。
以上です。
引き続きカスタマーにバリューが
出せるように精進します。
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