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【マーケター向け】費用対効果の基礎知識

マーケターであれば、施策の費用対効果を考えるタイミングが何度もあると思います。

昨年度から毎年売上が130〜150%成長する事業に携わるようになり、広告ROASやマーケティングROIの目標水準に関して考える機会が増えました。

今回はマーケターに必要な「費用対効果の基礎知識」についてまとめてみたいと思います。


1.費用対効果とは

言葉の定義
費用対効果とは「かけた費用に対して
どれくらいの成果が得られたか?」を表す指標。

例えば、予算を使えばそれだけ高い効果が
見込めるかもしれませんが、効果以上に費用が
かかってしまっては意味がありません。

費用対効果を算出することは、施策が効果的だったかを評価し、仮説検証のサイクルを回すうえで重要です。

費用と効果を定義する
正確に費用対効果を計るためには「何を費用とするか」「何を効果とするか」をしっかりと考える必要があります。ここから代表的な指標を見ていきましょう。

2.ROIとは

費用対効果の具体的な指標の1つがROIです。Return On Investmentの略で、日本では「投資利益率」「投資収益率」と訳され、以下の式で求めることができます。

ROI=利益÷投資額

ROIは利益を投資額で割った値に
100を掛け%で表すのが一般的。

マーケティングROIを算出する場合、利益の定義は売上から売上原価と投資額を差し引いたものを指します。

またROIは100%が損益分岐点です。
つまり、ROIは原則として100%を
上回ることが「投資続投」の基準になります。

Web広告運用では、以下のROIの計算式も
よく用いられます。

ROI=(平均利益単価×コンバージョン数-広告費)÷(投資金額)×100(%)

例えば下記の平均利益単価、コンバージョン数、広告費、投資金額からROIを算出するとどうなるでしょうか。

計算式に当てはめた場合、ROI 150%になります。

ROI 150%=(平均利益単価¥100×コンバージョン数2件-広告費¥50)÷(投資金額¥100)×100(%)

3.ROASとは

ROAS(Return On Advertising Spend:広告の費用対効果)は、広告費1円あたりで得られた売上を表す指標。

費用対効果と式自体は同じですが、ROASは
広告の費用対効果を計る指標です。

ROIが「利益(=売上-売上原価-投資額)」が分子であるのに対して、ROASの分子は「売上」であるところに違いがあります。

ROIとROASの違い

4.妥当なROAS水準の考え方

損益分岐点ROAS
商材や業態にもよりますが、粗利率(※)を使った次の数字以上であれば概ね妥当と考えられます。※粗利率の正式な会計用語は「売上総利益率」

1÷粗利率

一例として、粗利率が50%の場合は1÷0.5=2となり、ROAS200%が事業として死守すべき損益分岐点ROASになります。

ROASの水準は粗利率で算出することが多いが、「広告で回収しきらないといけない」という厳密さが求められる場合は、営業利益率を採用することもあります。

粗利率が低いほど多くの売上が必要になる為、ROASの水準も上がっていきます。

商材・業態ごとの事例
・化粧品や健康食品など原価率の低い商品の場合
→200~400%

・自社で商品を製造しているメーカーの立場の場合
→500~800%

・他社から仕入れて販売している場合
→1,000~2,000%

粗利の定義は社内関係者と正しく認識を合わせておきましょう
私が過去働いていた会社では売上原価の中に
広告費、金融機関へのキックバック等が含まれている事がありました。

つまり、会社・事業によって売上原価の内訳が異なり、結果的に粗利の定義がマーケティング担当者が想定しているものと異なるケースが起り得ます。

マーケティング担当者は社内の利益定義を正確に理解してROAS試算を行う必要があります。

目標ROAS
目標ROASはマーケティング担当者が、
どれくらいのROIを狙うかによってラインが
変わってきます。

例えば粗利率が50%のECサービス事業が広告費100万かけて、ROI(Returnは粗利、Investmentは広告費のみ)125%、150%を狙う場合、下記のROAS水準が必要になってきます。

【例】目標ROASの設計

マーケティング担当者は事業責任者と
下記に関してコンセンサスを取り業務を
進める必要があります。

・ROIはどこまでのラインを狙うのか?
・その為にROASはどれくらいを目指すのか?

5.妥当なCPA水準の考え方

平均原価からCPA水準を決める
商品の購入やサービスの利用が目的で、継続的な利用が見込まれない場合に、この考え方が当てはまります。

目標CPA = 1CVの平均売上 ー 平均原価(固定費や人件費を含む)

目標ROASからCPA水準を決める
事業主語で目標ROASが決まっていれば、「1CVの平均売上÷ROAS」で許容すべきCPAラインを設定できます。

例えば既存広告メニューであるFacebook広告の許容CPA(事業として採算が取れる獲得単価)を考えるときに、1CVの平均売上をROASで割ることで具体的なCPAが設定できます。

Life time Value(生涯収益)からCPA水準を決める
CPAの水準はCVを1件獲得した場合に
期待されるLTV(Life time Value:生涯収益)から考えることもできます。

リピート性の高い商材の目標CPAを考える場合はLTV起点で考えるのが一般的です。

一般的なECサイトのCPA水準について考えてみましょう。この場合、目標CPAは下記の式で表すことができます。

目標CPA=(平均顧客単価-平均原価)×平均購入回数

例えば平均顧客単価が¥5,000、平均原価が¥1,000、平均購入回数3回の場合、
(¥5,000-¥1,000)×3で¥12,000となる。

6.ROAS目標はいつまでに達成させるのか?時間軸について

事業はROAS目標が定まってから、どれくらいの時間軸で目標ROASを達成していくべきでしょうか?

事業売上観点では早期に目標ROASを達成したほうが損益計算書への貢献度が高いと考えられる為、マーケティング担当者は目標達成の時間軸も社内関係者と認識を適宜合わせておくと良いのではないでしょうか。

7.ROIの注意点/指標のロバストネスについて

詳細はこちらの記事をご確認頂きたいのですが、ROIは財務処理上、売上から売上原価など広告とは関係のない費用も減じなければならず、広告と関係の無い科目に左右され「広告の」ROIが変化する事象が起こりえます。

その為、指標のロバストネス(※)が損なわれる懸念があります。※外的な要因や不確実性に対する頑健性(がんけんせい)

マーケティング担当者は下記に十分注意し
ROIとROASを使っていく必要がある。

利益ベースの計算では、広告は悪くないのに他の科目のせいで広告の収益性が悪く見られたり、広告はあまり良くないのにたまたま収益性が高く見られる可能性があるので、その点注意が必要です

8.北の達人コーポレーションの費用対効果の考え方

リクルート出身で北の達人コーポレーションの代表取締役社長 木下勝寿さんの『ファンダメンタルズ×テクニカルマーケティングWebマーケティングの成果を最大化する83の方法』で出てくるLTV計算方法、ROASに対する考え、広告投資バランス指標は先進的で勉強になります。本noteの最後にポイントを紹介したいと思います。

LTVの定義と重要性について
まず、木下さんのLTV定義は下記。

LTVの定義
1人の顧客からある一定期間を通じて得られる売上(もしくは利益)

例えば、 3,000円の商品が1年間で平均4回買われている場合、1年間の LTVは1万2,000円になります。これを1年単位で見てみる。

3,000円の商品(仮に粗利率100%で計算する)を販売するのにある広告で獲得単価が1万円だった場合、初回購入時には7,000円の赤字です。

しかし、その商品がリピート性の高い商品で、1年間で平均4回購入されるとした場合はどうなるでしょうか。

1年間で見るとその広告は3,000円×4回=1万2,000円の売上を生み出し、獲得単価が1万円かかったとしても2,000円の利益を生み出しています。

このようにリピート性の高い商品を扱う場合は、LTVベースで考えることで投資してもよい上限の獲得単価を設定でき、機会を最大化できます。

(リピート性のない商品の場合、 LTV=客単価となるため、初回購入時に採算を合わせなければいけません)。

1人あたりの利益 計算方法
上記の計算方法として下記はMustで頭に入れる必要がある。

1人あたりの利益=LTV(×粗利率) −獲得単価(1顧客あたりの顧客獲得コスト)

これが頭に入っていないと、「うまくいっている」「うまくいっていない」の判断すらつかない為、非常に重要な内容。

全体利益を伸ばす方法
全体利益を増やす方策は以下の2種に分かれます。

A.1人あたりの利益はそのままにCV数(購入数)を最大化する

B.1人あたりの利益を上げる

もちろん両方やったほうがいいが、限られたリソースの中でやるには「一番得意なところ」から順に集中すべき。

A「1人あたりの利益はそのままにCV数(購入数)を最大化する」は単に集客件数を上げることで、

・広告表示回数を増やす →「同じ媒体で広告表示回数を増やす」「出稿媒体を増やす」

・効率を上げる →「クリック率を上げる」「CVR(購入率)を上げる」

という方法がある。

対して B「人あたりの利益を上げる」は以下の2つに分かれます。

・獲得単価を下げる
・LTVを上げる

獲得単価を下げるには「入札単価を下げる」「クリック率を上げる」「CVRを上げる」という3つの方法がある。 LTVを上げるには、「 1回購入の客単価を上げる」「クロスセルを増やす」「継続率を上げる」「解約率を下げる」のどれかもしくは複数、全部が対象になります。

「継続率」「解約率」は利益を上げるための「1要素」でしかない。

極端な話、獲得単価が極端に低かったり、クロスセル率が異常に高くてLTVが高かったりすれば経営上は重要度の低い数字だと見なし問題ありません。

収穫逓減(ていげん)の法則
広告の獲得単価を上げれば獲得件数は増えるが、正比例的に増えるわけではなく、ある段階から上昇効率が悪化し、「収穫逓減(ていげん)の法則」が働き始めて「利益額」が下がる。

ここで「利益率」ではなく「利益額」という点に注意したい。獲得単価と獲得件数をちゃんと計測しながら、悪化し始める寸前の獲得単価を最適獲得単価として広告投資を寸止めするのが正解。

「最適獲得単価で獲得できる上限件数 ×最適獲得単価」が最適広告費。それ以上なら過剰投資だし、それ以下なら機会ロスとなる。

企業は「利益率」でも「売上高」でもなく「利益額」の最大化が責務であり、どこで「寸止め」するかがマーケッターの腕の見せ所。

ROASと広告投資バランス指標
ROASは「広告経由売上 ÷広告費」で算出する数字で、要は広告の費用対効果。単体で考えれば高ければ高いほど良い数字。

RAOSは広告同士や前後の「比較」をするための数値であって、適正かどうかの判断をする指標ではない。

よって、「今の広告投資が適正か」を判断する指標が別途必要になる。それが「広告投資バランス指標」。

これは実績獲得単価を「上限(最適)獲得単価」で割ること。具体的には、月間単位で次のように判断する。

・月間平均獲得単価実績 ÷上限獲得単価 = 1 
→適切な状態

・月間平均獲得単価実績 ÷上限獲得単価 = 1以下 
→採算割れの状態

・月間平均獲得単価実績 ÷上限獲得単価 = 1以上 
→機会ロスの状態

9.『戦略ごっこ マーケティング以前の問題』から学んだこと

『戦略ごっこ マーケティング以前の問題』について
同書は、株式会社コレクシアの芹澤連さんが著した書籍。

多くの学術論文を参照しマーケティング業界に蔓延する「なんとなくこうしたほうがいい」とみんなが思っている神話の正当性を問い直すエビデンスに基づいたマーケティングを体現している本です。

本書内で広告予算・マーケティングROIに関して論じている箇所があり、費用対効果を考える上で参考になったので追加でまとめておこうと思います。

広告を“費用”として考える場合は限界利益で見るのが基本
売上から変動費(※)を差し引いた額を限界利益と言います。

仮にブランドの限界利益率(限界利益/売上)が50%だとすれば、100万円の広告費をペイするためには、最低でも100万円/50%=200万円の売上が必要になる。

実際は他の固定費を含めて計算することになりますが、いずれにしても、広告を“費用”として考える場合は限界利益で見るのが基本になります。

※変動費について
変動費は、生産量や売上高に直接的に関連し、事業の活動レベルに応じて増減する費用。具体的には以下が含まれる。

・原材料費
・直接労務費
・製造間接費のうちの変動部分(一部)
・販売促進費や送料などの販売変動費
・電力費(使用量に応じて変動)

広告弾力性の考慮について
事業会社が最適な広告予算を割り出すには、「正味なところ、広告をどれだけ増やすと限界利益がどれくらい増えるのか」という目安が必要になります。

仮に変動費は管理部門が把握しているとすると、広告の増加がトップラインに与える影響の大きさが分かれば、それに応じて限界利益を案分する(何掛けかして広告予算を算出する)ことが考えられるからです。この影響の大きさは、一般的に広告弾力性(広告費[量]の変化率に対する販売量の変化率)で表されます。

ここで1つの目安として、限界利益に対する広告費の割合がこの広告弾力性と等しくなるように予算比率を決める、という考え方があります。

つまり「売上×ブランドの限界利益率×広告弾力性」として予算を割り出すということです。

いくつかの研究により、短期の広告弾力性の平均はおよそ0.1程度であることが知られていますから、例えば限界利益率が50%の事業であれば、0.5×0.1=0.05で売上の5%を広告費に回せばよさそうだ、のように考えるわけです。

バイロン・シャープ教授ら(南オーストラリア大学のマーケティング サイエンスの教授)も、「使っている広告の弾力性が分からなければ、目安として粗利の10%程度を広告に使うのが妥当だろう」としているとの事。

マーケティング ROIの落とし穴:事業成長は「効果」が先、「効率」は後
経営者や株主が見るのは効果、つまり実際のリターン。

ROIに限った話ではありませんが、現場と経営層ではどうしても意識や視点が違ってきます。

Marketing Weekがマーケターに向けて行った2022年および2023年の調査によると、「CEOやCFOが重視しているのは何だと思うか」について、「ビジネス成果を出すこと」や「新規獲得」などを抜き「ROI」がトップになったそうです。

実に半数近いマーケターが「お偉いさんはROIを最も重視している」と思っており、大企業になるほどその傾向は強まるようです。

一方で、約半数のマーケターが「経営層は効果検証の際にROIを重視しすぎている」とも考えているようです。

しかし、ROIは「効率」の指標であって「効果」の指標ではありません。

著者も効果より効率が優先という経営者にはあまり会ったことがないとのこと。クライアントの経営幹部は基本的には「何をすればもうかるか、成長インパクトが大きいか」という目標に対する効果が先で、その後に「それを効率よく達成するには、どのような手段があるか」という順番で考える方が多い印象だそう。

もちろん時と場合にもよりますが、そもそもの効果が小さければ、いくらROIを改善したところで経営に大したインパクトをもたらさないからです。

実際、効率を優先するとマーケティング活動が小規模になり、結果的にリターンの絶対額も小さくなっていくといわれています。

この問題に拍車をかけているのが、ROIが厳密には何を意味しているのか理解せずに、「とにかく良いこと、もうかりそう」のようなニュアンスで使っている人も多いということです。例えば次のような主張を聞くことがあります。

〈ROIに関するバイアス〉
・ROIを高めることで事業は成長できる

・ROIは、分母(投資)から得られた分子(リターン)という関係性を表している

・ROIの最大化が売上や利益の最大化につながる

・ROIが高い打ち手にたくさん投資することで、より多くの儲けが得られる

しかし、これらはいずれも理解不足からくる誤解、あるいは思い込みであり、さまざまな研究者が注意を呼びかけています。

ロンドンビジネススクールのティム・アンブラー教授は、ダイレクトマーケティングなどは例外としながらも、“ROI Is Dead:Now Bury It”と題した論考を発表しています。控えめに訳出すると「ROIにとらわれるのはもうやめよう」といった内容。

また Binet and Field(2017)は、「利益成長のドライバー」と「ROIのドライバー」は全く別モノであり、 ROIを追うほど、事業成長に必要なマーケティングから離れていくことをデータで示しています。

マーケティングROIの定義
本書内ではFarris et al.(2010)やMitchell and Olsen(2013)に倣い、 MROIを次のようにまとめています。

MROI =(マーケティングに起因する増分売上 ×限界利益率あるいは粗利率-マーケティング費用)/マーケティング費用

ROIだけ見ていると破綻する:「事業成長」と「 ROIの最大化」は別モノ
バイロン・シャープ教授は、“ROI can send you broke”と述べているとの事。

ROIだけ見ていると文無しになる、つまり事業が破綻するということです。その言葉の真意はどこにあるのでしょうか。

同書上で参照されているPauwels and Reibstein(2010)は、広告費用対効果の推定において最も問題になるのは、広告費が使われてから効果が出るまでの時間的なズレだろうと述べています※。

つまりROASは、必ずしも「分母に置いた施策を行ったからこそ得られた売上」をクレジットしているわけではないにもかかわらず「そう見えてしまう」、非常にミスリーディングな指標だということ。ROIも同じこと。

実際、近年の研究では、アトリビューションモデルによる効果推定は、より精度の高い計量経済モデルを用いた場合に比べて、ペイドサーチなど短期のパフォーマンスマーケティングが約2倍過大評価となり、逆にテレビなどの長期のブランド形成が3~10倍過小評価されると報告されています。

なぜ「ROIだけ見ていると破綻する」のか?
バイロンシャープ教授の研究をベースに考えると将来の事業成長に必要なのは未顧客です(=浸透率を伸ばす)。

しかし、既存顧客やヘビーユーザーに比べると、未顧客のROIはどうしても低くなります。

従って、ROIやROASを頼りにターゲットやメッセージ、メディアを絞り込んでいくほど、既存顧客やヘビーユーザーに向けた施策が多くなり、逆に未顧客へのリーチは減っていきます。

ところが、それだと新しい未顧客が入ってくる入り口がありません。また、既存のヘビーユーザーが平均への回帰(同書の第2章2節で登場する話)によって未顧客へと落ちていく一方で、再回帰する(再びブランドに戻ってくる)入り口もありません。

要するに、「顧客が出ていきはするが、入ってはこない」という状態をみすみすつくり出してしまうことになるわけです。

当然、 ROIを重視するほどこの落差は大きくなりますから、顧客基盤の縮小も早まります。この縮小分を既存顧客のアップセルやクロスセルで相殺しようと思っても、購買量は生活の関数なので限度があります。

この後は「顧客が少なくリピートも少ない」というダブルジョパディの“二重苦”をもろに受け、売上が急降下していきます。

このように、ROIは短期的なリターンを過大評価する一方で、持続的なキャッシュフローを生み出す活動にペナルティーをかけるため、最終的にはビジネスを破壊してしまうわけです。

収穫逓減の罠:なぜ利益とROIは反比例するのか?
そもそも「ROIが高い打ち手」 =「売上や利益を増やす効果が大きい打ち手」ではない。

そして、常にROIが高い施策というのも存在しない。むしろROIが高いのは、たいした予算を使っていない小規模な施策だからであることも多いのです。

最初は広告を出すほど売上も利益も伸びていきます。しかし、利益はある時点で最大値に達します。

そこからさらに広告を増やすと、売上は増えますが利益は減少していきます。売上“額”は増加しても、その増加“率”は常に減少していくからです。

このような現象を「収穫逓減」と言います。ROIの分母は広告を出したら出した分だけ大きくなっていきますが、出稿1単位あたりのリターンは収穫逓減するため、分母の増加に対して分子が追いつかず、いずれ利益が変曲点(上昇トレンドが下降トレンドに変わる)を迎えるわけです。

ROI至上主義にとりつかれている人は、常に頭のどこかで「予算が無駄になっている、もっと最適化できる」と思い込んでいることが多いですが、ニールセンのデータが示すように大半の企業は過少投資です。

そして、ほとんどの会社が増やしたいのはROIではなく利益なので、「ROIが低下してもいいから広告投資を増やす」という判断も必要になるわけです。

10.ROI追求の罠について補足(Meta日本法人 Facebook Japan 中村淳一 氏インタビュー抜粋)

ROI追求の罠についてはMeta日本法人 Facebook Japanでマーケティングサイエンス ノースイーストアジア統括・執行役員を務める中村淳一氏も『その決定に根拠はありますか? 確率思考でビジネスの成果を確実化するエビデンス・ベースド・マーケティング』の中で警笛を鳴らしています。

インタビュー内容を引用します。

中村氏
グローバル・メディア・プランニングでもMMMの話題はあるのですが、MMMの陥りがちな罠にROI追求があります。

ROIを追求し続けると、中長期でのブランド成長に繋がらないことが多いです。

例えば消費財などでメディア・プランのROIが最も高いのはいつだとお感じになりますか?

インタビュアー
新商品市場投入後または新しい広告を投じた後でしょうか?

中村氏
正解はコミュニケーション予算が限りなく0に近いときになります。

コミュニケーション投資がなくてもベースの売上は残るのでROIは最大になります。

それは当然、それではビジネスは伸びないわけです。コミュニケーション投資が0の場合、顧客離反は原則止められないのでシェリンクしていきます。

市場透過率を高めるため効果とスケールを意識した投資と効率性の2軸が必ず必要で、MMMのS字カーブともリンクします。

その決定に根拠はありますか? 確率思考でビジネスの成果を確実化するエビデンス・ベースド・マーケティング 巻末インタビュー 

11.最後に

パート9で参照した『戦略ごっこ―マーケティング以前の問題』、とても面白い本で、実務に活かせる箇所を可能な限り探していきたい!

同書9章で登場するSOV(Share of Voice:自社の広告量/カテゴリー内全ての広告量)、SOM(Share of Market:実際の市場シェア)の話なども興味深く、今後社内の認知広告チームと議論したいと思いました。

大まかな傾向として、小さなブランドが現在の市場シェアを安定して維持するためには「市場シェアと同等以上の広告量( SOV ≧ SOM)」が必要となります。その一方で、大きなブランドは「市場シェア未満の広告量( SOV < SOM)」で維持できる場合があることが知られています( Binet & Field, 2007; Danenberg et al., 2016; Jones, 1990 b)。

これは、大きなブランドは流通やコスト面、ロイヤルティやリピート率、口コミなど広告以外の面でのアドバンテージが圧倒的に多いからだと考えられています。当然のことながら、小さなブランドがシェアの拡大を目指すときは、 SOV > SOMとなることが必要です。

戦略ごっこ―マーケティング以前の問題

上記など自社サービスのブランド成長を考える上で重要な情報だと思いました。

引き続き勉強を続けて、エビデンスに基づいたマーケティングを実践できるビジネスマンになっていければと思います。

以上です。

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