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【オススメ本】河井孝仁編著『市民は行政と協働を創れるか』(彩流社、2022)


新しいスタイルの協働論。これが第一印象である。

まずタイトルに注目したい。「行政が」ではなく、「市民は」となっている。すなわち主語が行政でない点に執筆陣のねらいやメッセージが詰まっていると言えよう。

次の注目点は構成である。本書で取り上げられてい事例は流山市、生駒市、那須塩原市の3自治体に過ぎない。また、いずれもシティプロモーション系の事例である。しかし、いずれの事例も、①一市民からの協働論、②一公務員からの協働論、③両者の記述を読んでの編者の総括、という構成(パッケージ)になっており、かつ①②に関してはそれぞれ1.5万字ずつの述懐となっている。すなわちかなり踏み込んだ記述が多く(本音ベースの話が多く)、読み応えがある。

「事実は1つ、解釈は2つ(以上)」との言葉があるが、まさに1つの協働事例を3者から見た協働論となっているのが、最大の特徴と言えるだろう。

もとより、執筆者が限定されている分、同じ事例をまた別の人が記せばまた違う協働論が見えてくることというのも事実であろう。その意味で、あくまで本書の読み方としては、一般論としての協働エッセンスを抽出するというよりは、3つの事例を敷衍して、「自分のまちに当てはめたらどうだろうか」という視点で読み進めると良いと思われる。

というわけで、以下では、私個人が本書の協働論からエッセンスと感じた共感部分の抜粋を紹介したい(あえて、誰の言及かは省略)。

・「市民活動はしんどいことばかりでやりたくない」。そうした言葉を耳にすることがあります。(中略)しんどいと思う理由が市民活動と行政との連携にありました(p.17)
・市民活動がしんどくなる理由tして、活動を続けて行く間に、選定した課題が自分が自分ごとと乖離してしまい、「○○でなければいけない」というあるべき論になってしまうことで、活動を続けて行く動機付けがうまくできなくなるということがありました(p.19)。
・人は、自分が面白い、またはどうにかしたいと感じるテーマなだら自ら動くことができる(p.39)。
・市民活動は、三M(まじめ、むずかしい、めんどくさい)を、三A(あそび、あたらしく、あいされる)に変えていきたい(p. 48)
・協働するとは「仲良し」になることではない、「恋」に落ちることではない。
「仲良し」になるには、協働は「冷静」を求めすぎる。ましてや、冷静な恋な矛盾だ(p.52)。
・「花びらモデル」とは、自分を複数のいくつかの文脈(花びら)に位置付けつつ、その複数の文脈を重ねる存在として、自己を認識するモデルである(p.54)。
・飲んだり、食べたりする仲間ができたことで、暮らしに彩りが加わり、生駒のことを考えるようなりました。そして、その仲間と「何か一緒にしたい」と思うようになったのです(p.77)。
・「役員は義務だから」「ちゃんとやらないと、文句を言われる」。マイナスな感情で動いていたら人間関係にも歪みができそうです(p.79)。 
・「引き継ぐ時は、自由にやってくれていいですよと言って引き継ぐのがいい。役員決めの時、何をやるのか不明瞭なのに、決められたことをやらなければならないというプレッシャーが問題です」という先生の言葉はとてもふに落ちました(p.80)
・長く自治会を務めていらっしゃった方の言葉をずっと心に刻んでいます。「子どもたちの思い出になって、またこの町に住みたいと思ってもらえたら嬉しい」。
・読者アンケートで広報紙を通じて知りたいことを聞くと、「市の施策や事業」より圧倒的に多かったのが「生駒市にあるお店や教室の情報」でした(p.94)。
・社会や地域にとっていいことを、行政らしく真面目に実施するのは簡単です。でも、それでは広がりません。そこにひと手間かけて、「楽しさ」「ゆるさ」「軽さ」「ゲーム性」を加えることで主体的にに地域に関わりたいと思う気持ちが培われ、広がっていくのだと思うのです(p.106)
・まちの未来をより良いものにするには、出会いを増やし、「この人とならいっしょにできる」「この人のチャレンジを応援したい」という意思が交わるきっかけをつくることだと思っています(p.116)。
・公的な機関とつながることは、信頼性を得る代わりに自由を失うことも
ある(p.160)。
・市役所と市民の企画には、ギャップがあります。人を本気にさせ、巻き込み、参画者を増やすことは、市民のほうが上手(p.176)。
・「任せることで自由度が高くなり、創る楽しみが生まれる」「仲間の特技を生かして役割を配分し、褒めることで熱量を上げていく」それがまちプロの活動継続の秘訣(p.181)。
・ブランドをつくるときは、まちの空気を言語にして、他の地域と差別化するといい(p.183)。
・どんな地域活動団体でも職場においても、個人の温度差が何かと邪魔をすることがあります。そんなとき(中略)「平熱をプラス0.1℃に」を思いすします(p.188)
・市民として行政を並び立つ協働に呼び込むために必要なものは(中略)「枝をつける」ことと「層の断面を見せる」ことになる(p.192)。

以上である。

ちなみに本書の執筆陣のうち、生駒市の大垣さんとは面識があり、大学のイベントでお話をいただいたこともある。

その時から生駒市のシティプローモーション(というより大垣さん)には注目していたが、その講演時には聞けなかった初出のお話も多く、改めて生駒市の取組みのすごさを感じた一冊となったということを付言して、結びに代えたい。

(参考1)目次
第1章 街は常に変化があり完成形がない
    ―千葉県流山市
第2章 刺激を与え合い何回も繰り返す
    ―奈良県生駒市
第3章 信じてみたら想定以上の効果があった
    ―栃木県那須塩原市
第4章 市民の本音と行政への期待(市民鼎談)
第5章 行政職員が地域で生きる(行政職員鼎談)

(参考2)出版社リンク
https://www.sairyusha.co.jp/book/b10023229.html

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