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イタリア、カラーラの彫刻事情。

初めまして。イタリアで彫刻をしている杉本ユニです。

今日はボクが住む大理石の街、カラーラの彫刻事情について話そうと思います。カラーラはフィレンツェやローマのように有名な観光地ではありませんが大理石で発展してきた少し特殊な街なので彫刻に対する考え方も他の地域と違っていて面白いと思います。

◼️歴史ある大理石の街、カラーラ。

ご存知の方もいると思いますがカラーラは大理石の産出で世界的に有名です。有名な芸術家ミケランジェロが彫刻用の大理石にカラーラ産を使っていた話はイタリアで有名な話です。昔から大理石の産業が発展しておりカラーラ周辺にはたくさんの大理石に関わる人達が暮らしています。大理石を主の材料に使う彫刻家はもちろん大理石の建築建材を切り出す大きな工場、そしてキリスト教のための建築装飾、聖母や天使の彫刻を生産する工房など様々な仕事が存在しています。

本来、カラーラは大理石の石切場で働く労働者の街が現在に至る過程で大きくなった街なので先祖から石切場で働いているという人達は珍しくありません。まさに大理石職人の街だと言えます。

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◼️大理石彫刻を勉強するならアカデミア・カラーラ!

そしてイタリア国内でも彫刻を勉強するならカラーラで!と言われているアカデミア・カラーラと大理石職人の育成に特化したScuola di marmo、直訳すれば大理石学校があります。そのまま笑。イメージ的には職業訓練校で数学や歴史、大理石を掘削するためのロボットアームの操作、3D CADなどを教えています。Scuola di marmoは夜間コースもあるのでアカデミアで彫刻を学んだ後にこの学校で大理石の職人に必要な拡大縮小、コピーの技術を学ぶ学生も少なからずいるようです。

アカデミア・カラーラは良くも悪くもあらゆる面で大理石彫刻に特化しています。教授達も作品のほとんどが大理石なので大理石をメインに制作活動を進めたい人間にはアドバンテージは多いと思います。教授陣に気に入られればアカデミアの生徒の大理石彫刻の展覧会などに呼ばれる機会もあります。

悪い点は大理石彫刻以外の表現に対する反応はあまり良いとは言えない印象です。現在、欧米で見られる現代アート的な表現は受け入れられ辛い環境です。ほとんどの学生が大理石彫刻を学びに来ているのも関係していると思いますがアートの最前線を目指すという感じではなく大理石彫刻のカルチャーを学ぶと言った方が正しいというのがボク個人の印象です。

街の歴史を考えれば自然な事なので絵画、彫刻というジャンルが曖昧になりつつある現代アートの状況においてカラーラは様々な材料や表現、現代アートの理論を学びたい人間には大理石ゴリゴリなので注意するポイントです。

大理石しか学びたくない人間だけ行きましょう。(笑)

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◼️カラーラと周辺地域が形成する独自の彫刻ワールド。

カラーラとその周辺の地域は大理石を生業とした人間達とそれを販売する人達がたくさん住んでいます。そこでも重要なのが彫刻家とギャラリーの存在です。彼らの関係性は昔から続いており周辺地域には彫刻家のアトリエやレンタル用の作業場がたくさんありその作品を販売するギャラリーがたくさん存在しています。

ボクはカラーラに来た後、イギリス、フランス、ドイツとイタリアの複数の都市を回ったのですがカラーラ周辺はギャラリーも大理石彫刻に特化している印象が強いです。傾向としては古き良きイタリア彫刻、インテリアに近い彫刻が多いです。

カラーラは大理石産業に関する職人の街という印象が強いですが隣町のピエトラサンタにはたくさんのギャラリーが軒を連ねています。大きくはない町ですがオシャレな通りに観光客もたくさん訪れています。

ピエトラサンタには大理石の工房とは別にブロンズ鋳造の工房もたくさんあり世界中からたくさんの鋳造の注文を受けています。ピエトラサンタはより彫刻に特化した町だと言えるでしょう。

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ボクはイタリアに来て現代アートの勉強をしていく中で平面と彫刻というカテゴリー、そもそも彫刻というジャンルに対して現代の中でどうあるべきか模索するようになりました。もはやジャンル分けなど存在しないとさえ思います。

しかし元々、職人の世界にいたので職人と芸術家の違い、定義に対して非常に興味もありますし決定的に違うと思っています。違和感を感じることさえあります。

その中でどうして大理石という材料を選ぶのか?

という必然性を見つけた人間にカラーラの彫刻ワールドは居場所になってくれると思います。

そういう違和感と孤独と反抗心も含めて今はまだカラーラで頑張っていこうと思います。ボクにとって修行の場でしかありません。




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