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あなたの隣のセクマイさん

 ある日の放課後、教室の中で2人の男子がふざけてじゃれあって遊んでいました。それを見ていたXが、笑いながら言いました。「やめろよ、ホモ。キモイ。」

 軽く、ほいっと。まるで何かの決まり文句を言うかのように・・・。

 隣で同じく笑いながら見ていたAは、一瞬胸がチクッと痛むのを感じました。でも、あまりに軽く、あっさりと、決まり文句のように言われたその言葉を、軽く受け流し、笑いました。

 帰り道、気付くとAの心は重く沈んでいました。軽く受け流したつもりだったXの「やめろよ、ホモ。キモイ。」という言葉が心にぐっさりと刺さっていました。Aは自分が異性ではなく同性の事を好きになるという事に気が付いていたのです。

 普段は暖かい家族と友達に囲まれ、ほどほどに幸せで充実した生活を送っているAでしたが、この日、Aの心は重苦しい思いに包まれていました。

 家への帰り道、古くて狭い国道線沿いに自転車を走らせていたAは、自分の頭の中に浮かんできた1つの考えに驚きました。

「今、後ろからくるトラックの方に飛び出したら、全部終わりだな。楽かもな。」

 普段、自殺などという事は考えたことがないような生活を送っていたA。友達の一言がきっかけで、いとも簡単にそんな思いが飛び出してきたことに驚きました。


 Aはその少し前、Xとこんな話をしたことがありました。「海外って同性婚できる国、あるんだよね。日本はなんで認められてないんだろう。おかしいよね。」

 Aは、Xはセクシャルマイノリティーについて理解がありそうな人だな、と思っていました。Xも本心から「ホモ、キモイ。」と思っているというよりも、生まれ育ったカルチャーの中で、自然と口をついて出てきてしまった言葉だったのかもしれません。

 そう考えつつもAは、これから自分が生きていくことの大変さを思い知らされたような気がしていました。自分は社会の当たり前から外れた異端児で、周りに理解されるかどうかを、常に気にしながら生きていかなければならないのかと思うと、心が沈んで、そのまま消えてしまいたいような気持が、どうしようもなくわいてくるのです。


 この話は、日本に存在する、1人のセクマイ当事者の高校生である僕が、つい最近体験したことです。今は気持ちも持ち直し、再びそこそこに充実した日々を送っています。ご安心を。

 僕は家族にも、友達にも恵まれ、比較的幸せな人生を送っています。自己肯定感も割と強く、自分がセクマイの当事者であることも、頭では受け入れ、肯定的にとらえているつもりです。

 でも、セクマイ当事者にとってこの世界は、一度自己否定を始めると、いくらでもその材料が手に入ってしまう、そういう社会なのだと今回の一件で強く感じました。セクマイ当事者の3人に2人が過去に自殺を考えたことがある、というデータを何かで見たことがあります。僕はそれを身をもって感じました。

 自殺しようと思ったというほど、強い気持ちではなかったかもしれません。でも、初めて本当にこのまま事故にでもあって死んだら楽だろうな、という気持ちが強く湧き上がってきたことに自分でも驚きました。これがしょっちゅう積み重なっていったら、本当に自殺を考えるようになるんだろうな、と思いました。

 幸い、僕には相談できる友達が1人だけいました。その人にぶちまけて、回復することができました。

 皆さんの周りに、セクマイ当事者はいますか?

 今はいない、と思っていても、もしかしたらそれは知らないだけかもしれません。セクマイ当事者は左利きの人と同じぐらいの割合でいるとされています。左利きの人なら、皆さんの周りにも何人かいるのではないでしょうか?

 Aはあなたの周りにもきっといます。あなたの隣に座っている人が、もしかしたらAかもしれません。

 僕自身も、セクマイ当事者ではありますが、自分以外の社会の中に存在するマイノリティーの方たちを本心から理解しているとは限りません。知らず知らずに周りの誰かを傷つけているかもしれません。


 Aと一緒に生きていけるように、少しだけ日々の生活の中での自分の言動や行動を、見直してみませんか?

                          くんちゃん


この記事を読んでくれた、セクマイ当事者の皆さんへ

皆さんも同じような経験をしたことがありますか?

結構メンタルやられますよね。でも、僕も頑張るんで、なんとか頑張って生きてきましょうね。

僕は仲間に直接会ったことがあまりありませんが、僕が周りに言えていないように、言えていない仲間がきっと沢山いるのでしょう。そう思って、頑張ります。

きっと少しずつでも、世の中は生きやすくなっていくでしょう。そうしなくちゃ!次の世代の為にも。

気合を入れてがんばろう!



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