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【まいにち短編】#19 キーホルダーが壊れる時

家の鍵につけていたキーホルダーが壊れた。

偶然かもしれないけれども、
昔からキーホルダーが壊れる時は何かしら嫌なことが起こっていた。

初めてできた彼氏と初めてのデートで買ったお揃いのキーホルダーが壊れた3日後にフラれた。
お気に入りのバンドのロゴが入ったキーホルダーが壊れた1週間後にそのバンドが解散した。

今回壊れたキーホルダーは、友人と一緒に温泉旅行に行った時に買ったものだ。
お揃いではなく、たまたま入った和雑貨屋で売っていて
水引の形が気に入って自分へのお土産として買ったものだ。

今回は何が起こるのだろう…。

彼女とは喧嘩をしたくないし離別したくもない。

『ブーブー』
スマホを見ると、その友人からの着信だった。
心臓がドキンとなった音が聞こえた気がする。

「……もしもし?どうしたの?」
「ねえ、あんた大丈夫?」

恐る恐る電話に出ると、思いも寄らない言葉が返ってきたので驚いた。

「え……なんで?」
「あんたと一緒に温泉行った時に和雑貨の店で買った抹茶のリップクリーム覚えてる?」
「あー、買ってたね」
「あれ気に入ってさ、毎日使ってたんだけど…さっき突然メキッと折れちゃって。もしかしてあんたになんかあったのかなーって」

そうだ。この子はこういう子だ。自分のものが壊れたことを嘆くわけではなく一番に誰かのことを考えることができる。だから、私は彼女のことが大好きなんだ。

彼女は中学時代からの友人で、唯一とも言える本当の意味で心を開ける存在だ。
初めてできた彼氏と別れた時も、大好きなバンドが解散した時もその悲しみを一緒に分かち合ってくれたのが彼女だった。

「ふふっ、なんか、あったよ」
「え?ほんと?大丈夫?」
「私もね、あの和雑貨屋さんで買った水引のキーホルダー、さっき壊れちゃったんだ」
「え!まじで!あはは何それ!一緒のタイミングで壊れるとか、私たちどんだけなんだよ」
「あはは、ほんとだね」

キーホルダーが壊れる時、嫌なこともあったけどそれ以上にいいことがあった。
彼女がそばにいれくれた以上のいいことなんてない。
だから。

「だからさ、また旅行行こうよ」
「もちろん!」

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