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愚詩

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#小説

宛てる

宛てる

これは きみのために 書いている
どこかにいる 顔も知らない きみのために

きみは どこにいるんだろう
どこにいて なにをしているんだろう
きみは だれ?

ぼくは きみに気づいてもらうために
ほかの何物にも埋もれてしまわないように
これを書いている

外はひどい暑さで 猫も溶けている
油にまみれた体を 砂で洗い落とそうとしている
ぼくもそろそろ風呂に入ろうか
明日も早いし

きみのために 書い

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悪魔からの手紙

悪魔からの手紙

悪魔から 手紙が来た

悪魔にしては 長い 長い 手紙だった

要約したら 3行ぐらいで済むような内容で

ただ 「今度 野球を観に行こう」 という誘いだった

僕は 「面倒だから行かない」 と書いて返信した

すると悪魔から 「言い訳ぐらいしろよ」 と怒られた

大事なものを手放したら
あたらしい 大事なものができた

あたらしい 大事なものを手放したら
また あたらしい 大事なものができた

また あたらしい 大事なものを手放したら
また また あたらしい 大事なものができた

あっ

何かに似てる

でもそれが 何に似ているかまでは
上手な例えが思いつかなかった

「あぁ  なるほどねぇ」

わかったような わかっていないような
いい加減な返事を想像し

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火曜日は持つ

月曜日は持たない
火曜日は持つ
水曜日も持つ
木曜日は持たない
金曜日も持たない
土曜日は持つ
日曜日は持つ時は持つ

火曜日は持ちやすいのを持つ
水曜日は持ちづらいのを持つ
土曜日は持ってあげる
日曜日は袋を持参して持つ

本当は 毎日でも持ちたい
ずっと持って暮らしたい
そう思っていたら
毎日持つことになった

昨日の帰り道
全部落として

今日は木曜日

ジーンズを破る

テーブルに置かれた ブルージーンズ
裾の所は 少しほつれている
無造作に置かれたジーンズは
野垂れ死んだ犬のよう

両手でジーンズをすくい上げ
右足の裾を右手に 左足の裾を左手に持ち替える

そして

思いきり引っ張る
力の限り ジーンズを左右に 思い切り引っ張る
力任せに引っ張られたジーンズは
大海原へ向かうヨットの帆のように 張り詰めている

一瞬の均衡

やがて 「ビリビリビリ」と
きっかけ

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昨日のこと

昨日詩のはなしをしたから
今日詩を書いている
昨日詩のはなしをしたから
いつもと違う詩を書いている

少し書いては
少し直して
少し書いては
少し直す

君もこうして、今も詩を書いているのだろうか

明日の天気を憂うように
ただぼんやりと
そんなことを考えていた

八十夢

いくつもの眠れぬ夜を越えて迎えた夢。
切り裂くような静寂で、目覚めた夢。

暗すぎる夜に僕は、
いつの間にか、真っ赤な嘘で対抗していた。
結果は見え見えだったが、
「12月の逃避行よりはマシだろう」なんて甘い考えのキツネに
3,000円払ったところで目が覚めた。

徒労。
徒労に次ぐ徒労。

見返りなんて求めていなかった。
少なくとも、布団に入った時はそのつもりだった。

気がつくとすごい汗で、

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息ができたら

息がしたい
ただ息がしたい、息がしたい

息ができたら、何がしたい?

えっ?
えーっと、、。

息ができたら、やっぱり息をするだろうね

スー、スー
結局君は、どんなときだって、息がしたいんだね

うん、まぁ、そうだろうね
そういうあなたは何がしたいの?

僕は息ができるからね
そうだな、カツ丼食べたいね

あぁ、カツ丼かぁ
しばらく食べてないなぁ
僕も、息ができたら、カツ丼を食べようか

君も

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境界線

全てを投げ打ってできた境界線は
泣き止んですぐの、
涙の跡に似ていた

可能性ばかり信じていた僕の
みぞおちあたりがはみ出して
トクン、トクン、と
立ち入り禁止を知らせていた。

あした天気になぁれ

蹴り出した足は
まだ空の中にあって
少しつりそうになって
バランスを崩した瞬間
その瞬間に
誰もいないことに気づいた

少しだけ笑ったところに
新しい境界線がひかれた

気配

ザクッ、ヒュッ
ザクッ、ザクッ、ヒュッ
ザクッザクッ、ヒュッ
ザクッ、ザクッ、ザクッ、ヒュッ

これくらいかな?
まだだろう。

ザクッ、ザクッ、ヒュッ
ザクッ、ヒュッ
ザクッ、ザクッ、ヒュッ
ザクッザクッ、ザクッ、ヒュッヒュッ

もういいかな?
うん、もういいだろう。

ザザー。
ザッサー。
ガサガサー。

ありゃあ、頭が出ているよ
え、もう一回出すの?
うーん、折り曲げる?
曲がるかなぁ

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キツツキ

ずっとここに居るのに
キツツキは
遠くへ行ってしまった

いつも僕のそばで
一心不乱に、リズミカルに
木をつついていた。

 飼ったことはないし
 見たこともない

しかしキツツキは
確実に
遠くへ行ってしまった
木屑さえ残さずに。

地図

20メートルは跳んだ。

跳んでいる時はいつも、
前傾姿勢を意識している。
今日はきりもみも少し入って、
激しい風圧に、衣はビラビラ。

--(全員で)
「おめでとう」
「ありがとう」
「おめでとう」
「ありがとう」
誕生日?はたまた結婚でもしたのだろうか?
よそ行きのブラウンのダブルのスーツは、
少し時代遅れだった。

まだまだ跳んでいる。
グングン小さくなっていく。
飛び方を忘れたソレは。
姿

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