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梅雨明けを待つ、梅と私

今年は全国的に梅雨寒だという。確かに例年と比べて涼しいなと思う一方で、なかなか気温が上がらず、日照時間も短いので、農作物にも影響が出ているそうだ。何事も極端なのは良くない。

今日は久しぶりに真夏の突き抜けるような青空が広がっているが、私は窓から眺めるだけ。制作期間でギターを片手にパソコンとにらめっこの日々が続いているので、ここ数日は部屋にこもりきりだ。ところで、梅雨のない北海道で生まれ育った私は、この季節が大の苦手。上京して慣れるまでは毎年この時期に夏バテして風邪をひいた。クーラーの加減もわからず、身体を冷やしては胃腸を悪くし、喉を痛めた。むわっとした空気が肺に巣食うようで苦しく、服は濡れるし人混みは不快だし、この時期は良い思いをしたことがなかった。

そんな私も最近ようやく梅雨の楽しみを見つけた。保存食作りだ。今年は実山椒の水煮、らっきょう甘酢漬け、ルバーブジャムなどにチャレンジした。食料庫が充実していく小さな喜びはなんともいえないし、長く楽しめるのも嬉しい。

そして「梅仕事」という言葉があるように、この時期旬を迎える梅も忘れてはならない。梅シロップや梅酒の他に、今年は梅干し作りに初挑戦した。

夫の実家は梅干しを毎年10kg(!!)漬けているそうで、先日5年ものの梅干しを食べさせてもらった。酸味も塩気も角が取れ、果実味がありながら味わい深い。今思い出してもキュッと唾液が出てくる、懐かしいタイプの梅干しだ。あまりにも美味しかったので作り方を聞いたら、なんと塩分は10%だという。自家製梅干しのレシピを調べると、塩分15%前後が標準なので、かなり減塩ということになる。カビが生える心配があるので、どうしても塩分を多くしないと保存が難しいのだが、作り方にコツがあるそうだ。ふむふむと話を聞いていると、どうしても自分で試してみたくなって、初めて梅干し作りに挑戦してみた。

梅干しを漬けるかめは常滑焼き。結婚祝いに知人からいただいたものだ。昔ながらの焼き物は、かめ自体がしっかりと呼吸をして湿度を調整してくれるので、カビづらいのだそう。用意するのは完熟のぷっくり大きな南高梅、そして塩。なんとシンプルなのだろう!もちろん消毒用のアルコールと、真っ赤なしそ漬けが好きな方は、お好みでしその塩漬けを用意する。

梅干しは黄色く良い香りになるまで追熟させて、ヘタを取る。水につけてアクを抜いたら、早速ここで秘伝のレシピ。なんと湯通しするのだ!グラグラ煮えるお湯に網じゃくしで、梅を一つひとつ丁寧にくぐらせていく。3秒程度で良いのだが、これで熱湯消毒と果肉を柔らかくする効果があるようだ。ざるにあげて乾かしたらアルコール消毒して、かめの中へ。塩をまぶして交互に重ねていく。皿と重石を上からのせる。毎日重石を外して、かめを揺するようにして梅酢があがるのを待つ。カビが出てきたらスプーンやおたまですくえば大丈夫だそうだ。使う道具や手は毎回洗って消毒する。こうして1週間もすれば梅酢があがってきて、表紙の写真のようになる。あとは時間が美味しくしてくれる。

思えば、夏バテで胃腸の調子が悪い時、梅干しとご飯しか食べられない日が続いた。他のものは胃に入ると具合が悪くなるのだが、なぜか梅干しご飯だけは大丈夫だった。他にも疲れたときや乗り物酔いの時にも、梅干しがあるとなんとなくお腹が落ち着いて、シャキッとするような気がする。梅干しはただの保存食ではなく、生活の知恵である。

毎日かめを覗きながら、天気予報とにらめっこしている。こんなに楽しい季節なら悪くないと思いつつ、やっぱり梅雨明けが待ち遠しいのだ。ジリジリと高く昇った夏のお日様の下で、美味しくなっていく梅干しを想像する。梅と一緒に仕込んでいる新しい曲たちにも、早く外に出して陽の光を当ててやりたいなと思いながら。私は今、じっと梅雨明けを待っている。


寺岡歩美

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