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音楽の聴き方


スガです。

 

はじめに



 先に結論を述べる。

 まず聴く。
 背景を汲む。

 再現する。
 苦しむ。


 この4つが音楽の聴き方だと考えられる。 以下から、上記の結論の根拠について記述していく。なお、その根拠は全て私の経験則によって導いたものであり、定量的な根拠は無い。

導入


 まず「音楽の聴き方」なんて大それたことを謳ってしまったのですが、これはただタイトルにインパクトが欲しかっただけであり、私の心構えとしては「こういう考えで音楽を聴くとより楽しくなるかもよ。ただ人によるかも。」と緩い考えです。考えすぎというのも考えもので、「そんな気難しく考えるなよ」なんて意見はごもっともなわけですが、それは百も承知で話を進めます。全部「そういう考え方もあるかもね」って程度に思って欲しいです。
 さて、今をときめくミュージシャン(米津玄師VaundyYOASOBI藤井風あいみょんなど)は数ヶ月に1曲シングルを出すおかげで、我々は最低でも月に1回は誰かしらの新曲を聴けるようになっています。どの曲もクオリティが高く、満足するはずです。
 ただ、そのルーティーンはマンネリ化しがちなものです。「良い曲なんだけど…」とどこか満足しない瞬間が訪れるものです。原因は様々でしょう。食傷気味になってしまったり、自身の精神状態が影響していたりします。精神状態が悪いなんて状況に陥ったのなら音楽を進んで聴くのをやめて別のことをするというのが精神衛生上一番良い策な気がしますが、ここでは音楽は聴きたいという面持ちではあるという体で話を進めましょう。因みに食傷気味に感じることに後ろめたさなど感じる必要はないです。その時々に流行りのジャンルの音楽が存在し、ミュージシャンはそのトレンドを考えながら曲を作る場合もあるので、似たような音楽に聴こえる場合もあります。具体的にはシティポップは近年ブームで、皆こぞってそういった音楽を発信している印象です。ただ、各々オリジナリティも織り交ぜつつ作っていることかと思うので、どこに特色があるか考えてみるのも音楽の聴き方の一つです。後述する「背景を汲む」に類する考え方です。
 ところで、世の中には訳のわからない音楽が山ほどあります。テレビや外で流れる音楽はノリのよく、口ずさみやすく、ボーカリストは一流で、1曲大抵3〜4分なわけですが、そういった音楽とは逆のアプローチをする曲があり、一般的には訳のわからない音楽だと括られています。(一瞬だけ訳のわからない音楽の要素を取り入れて曲のフックにしたりしますが。)訳のわからない音楽を聴いてみることで、近年のポップス、歌謡だけ聴いていては感じられない衝撃や、今までとは異なる満足感を得られ、音楽鑑賞へのマンネリ化は解消し、音楽的な視野が広がる可能性があります。
 因みに、前述したミュージシャンは訳のわからない音楽をルーツや音楽を始めたきっかけにしがちなので、訳のわからない音楽を聴くことは結果的に自分が好きなミュージシャンの好きな音楽を聴くことになります。これはすなわち自分が好きな音楽のルーツを探ることにもなります。
 近年の音楽に飽きたなら、今こそ昔の音楽を聴いてみる良い機会です。

まず聴く。

 というわけで、まずは聴きましょう。今後私が挙げたミュージシャンの音楽はSpotifyYoutubeのリンクを貼っておくので何も考えないでとりあえず聴いてみてください。それが「まず聴く」ということです。
 導入で訳のわからない音楽を聴くことの利点を述べておいてなんなんですが、一般的には最初からわけのわからない音楽を聴くのは辛いのでやめた方がいいかもしれません。
 私がまず聴こうと思い立った結果苦しい思いをすることになった音楽の一つに、イングランドのロックバンドSoft Machineの「Third」というアルバムがありまして、いわゆる実験音楽で、歌は無いし長い曲ばっかりでキャッチーなメロディは全然ないしで全く楽しくありませんでした。(とはいえ、5大プログレの有名なアルバムくらいは好んで聴いていて、5大以外の音楽に挑戦しようという背景があったのです。てか最近聴いたらすげえ良くね?と思えてしまって、音楽ってよくわからねえなと痛感しました。)一応掲載しておきますが、聴く際は覚悟してください。結局前述した話は一般論でしかないので、わけのわからない音楽に興味があるなら、聴いてみるのはアリです。

 もっとまともな手段として、前述した今をときめくミュージシャンのシングル以外の曲を聴いてみる、ひいてはアルバム単位で聴いてみるということを強くお勧めします。ミュージシャンはアルバムを作成するとき、起承転結が成立するように曲順を考慮したり、シングルにはしなかったけど気合の入れた曲を作っていたり、色々なことを考えているものです。藤井風のアルバムは特に興味深いです。今回は彼のデビューアルバム"HELP EVER HURT NEVER"とカバー曲を収録した"HELP EVER HURT COVER"について触れます。どちらもとりあえず聴いてみてください。ソフトマシーンよりかはこっちの方が楽しいでしょう。

 「さよならべいべ」は私のお気に入りの曲なのでYouTubeのリンクも貼っておきます。一般的にはピアノのバラード調の曲が人気ですが、こうしたロックンロールもやるわけで、シングルばかり聴いていたら無い出会いというのがあります。これが音楽を聴くことでしか味わえない楽しみです。
 カバーアルバムは音楽を深く聴くために役立つアイテムです。藤井風のカバーアルバムに関しては、選曲が私好みで、ニヤッとしちゃいます。曲を予め知っておくと選曲の観点からも楽しむことができます。近年のポップスにはCarpenters”Close To You”Ed Sheeran"Shape Of You"Michael Jackson"Beat It"と、カバーアルバムにありがちな曲が収録されていますが、昔ながらのジャズのスタンダードである”Time After Time“も収録されているのが興味深いです。Cindy Lauperじゃねえのかよと突っ込みたくなりました。上記の曲が収録されているアルバムを掲載しておきます。どれも名盤で、聴いておいて損はないです。
 「まず聴く。」ことによる素敵な出会いがあることを心の中にとどめてください。

「背景を汲む。」

 無造作に色々な音楽を紹介されていただきました。"Close To You"なんて1970年の音楽、つまり半世紀以上前の音楽なのですが、色あせない魅力があります。今後そういった曲の背景に目を配りながら聴くということの重要性について展開していきます。
 曲の背景込みで重要視されている音楽を2つ紹介します。曲の背景とは、時代背景であったり、作曲や録音の際にあったミュージシャンの人間関係についてなど様々です。

The Velvet Underground and Nico /The Velvet Underground

 The Velvet Undergroundというアメリカのロックバンドが1967年に発表したデビューアルバムで、アートロックと分類されています。何曲か煌びやかで可愛らしいポップスはありますが、全体的にノイジーで、歌も別に上手くないし、ギターの音は安っぽくて、第一印象は良くないかもしれません。(実際私はそんなに好きじゃありませんでした。)しかしこんな音楽が1967年に音楽があったということは価値のあるもので、この音楽こそがアメリカのパンクロックや、オルタナティブロック全般の源流の一つなのです。歌詞に関しては、麻薬や娼婦、同性愛について揶揄ではなく直接的に謳うなど、今となってはちょっと際どい程度の内容かもしれませんが、当時としては衝撃的な内容なのです。また、アルバムジャケットに描かれたバナナの絵はAndy Warholという有名な画家の絵ですが、(そもそもこのアルバムのプロデューサーがこの人です。)高く評価されています。このアルバムは音楽的のみならず、文学や絵画など、広義の芸術を追求しており、その観点においても重要な作品です。

I Never Loved A Man The Way I Love You/ Aretha Franklin

1967年にAretha Franklinが発表したアトランティックレコード移籍後第1弾のオリジナルアルバムで、ソウルR&Bを代表するアルバムの一つです。彼女はゴスペル出身なだけあり、その圧巻のパワフルでかつバラードも臨機応変に歌い上げる声を聴けば彼女が"Soul Queen”と呼ばれる所以も納得するでしょう。ソウルというものがなんなのか、源流を辿るためには必聴アルバムだと思います。彼女の声だけでなく、ベースの音は心地いいですし、コーラスも彼女に負けじとパワフルで、しかしバランスは取れていて、管楽器には泥臭さを感じ、どこを取っても素晴らしいです。音楽的に価値がある一方で、彼女の生い立ちもまた様々な観点から重要です。彼女は黒人で女性であるせいで、差別や偏見、性被害を受けていました。そんな逆境を押しのけて成功を収めたこのアルバムは、人種差別、性差別の観点から価値があります。本作の1曲目に収録されている”Respect”や彼女の代表作の一つである”(You Make Me Feel Like)A Natural Woman”は公民権運動や女性解放運動の応援歌と解釈されています。

 まとめると、前者は芸術の追求、後者は差別という観点で重要な作品なのです。芸術の追求を受け入れたとき、奇抜な音楽を見つけたときにこういう音楽もあっていいんだと認めることができるし、これからの音楽に対する知見が深まります。また、差別は、元を辿るとブラックミュージックの原点でもあります。というのも、黒人はかつて奴隷制を巡って差別を受けていた過去があります。制度が取り払われても尚ぞんざいに扱われ続けた、更に言えば現代においてもまだ差別が残っているわけですが、そのときの辛い思いが原動力となり、結果的にジャズブルースの誕生に繋がります。差別はいわば歴史であり、これまでの音楽に対する知見が深まります。紹介した2つのアルバムは、これまでとこれからの音楽を聴くために重要な材料だったわけです。奇しくもどちらもアメリカ発の1967年に発表された半世紀以上前のアルバムなので、昔のアメリカの音楽にはこういうものがあったんだ、こういう音質なんだ、一つの年でいろんな音楽があったんだなと確認してみてください。因みに例に挙げた2枚は私を構成する100枚の一つです。
 「背景を汲む。」にも様々な方向性があり、ここでは羅列しきれません。導入の食傷気味のくだりであったその時の流行のジャンルを考慮する、社会情勢を視野に入れるのも大切です。過去の例だと、1970年代後半はパンクロックが流行り、どのバンドも歪んだギターサウンドを展開するという流れがありました。社会情勢に関しては、コロナによる影響で、音楽の発信の仕方、ライブの形態など音楽のあらゆる形態に変化がありました。恋愛沙汰や身内の死を経て良い曲を書いたり、フォークソングを主に作っていたミュージシャンがロックをやった結果歴史が動くなど、様々な歴史があります。「背景を汲む。」によって音楽の音楽以外の重要な事象が現れ、音楽がより楽しくなり、教養そのものが深まる場合があることを是非知っていただきたい。

 「再現する。」

 早い話インプットアウトプットが物事の理解を深めるという話です。音楽を聴くことがインプットで、自ら音を発することがアウトプットです。どんな曲でもいいので実際に自分で楽器を鳴らしてみてください。曲の理解度が深まります。なんなら楽器でなくても、歌うのも再現の一つです。
 私は高校生の頃、クリープハイプポルカドットスティングレイの曲をカバーしたことがあるのですが、そのときを機に近年(2010年代以降)の邦楽に対する認識が改まった過去があります。私はもっぱら60~70年代の洋楽ばかりコピーしており、2010年代の邦楽をコピーするなんて思ってもいませんでした。当然コピーには抵抗がありました。抵抗の訳は恐らくただの聴かず嫌いであり、今以上にあらゆる点において未熟だっただけなのですが。夜明けと蛍は大失敗した記憶があり、聴くと苦しくなります。


 今ではむしろ紹介したような近年の邦楽ばかり聴いている毎日です。あまり好きでは無いと思い込んでいた曲をあえて覚えることでむしろ好きになるというケースがあり、本当に何事もやってみなければわからないと痛感しました。「まず聴く。」に通ずるものがありますね。
 「再現する。」ということは「ミュージシャン目線に立つ。」ことでもあります。ギターを覚えて、バンドで鳴らしたとき、胸が熱くなる感覚がありました。あの感覚を今も忘れずにいます。この感動があるから、彼らは音楽をやってるんだなと、そりゃ音楽やりたくなるわと納得しました。また、曲を作るというのはそれなりの知識がいるし、特に近年の音楽は音楽理論的にかなり複雑なことをしており、とんでもない曲を作ってくるミュージシャンには脱帽です。「再現する。」ということを通して「創作」の凄さを改めて実感しました。
 楽器を鳴らすという感動を是非味わってください。そのときまた音楽に対する考えが変わります。 

「苦しむ。」

 前提として、一部のとんでもなく音楽が好きな人間にはいらないプロセスなのですが、大半の人には避けては通れないので、ここでは「苦しむ。」ことは重要なんだということにして話を進めます。
 「まず聴く。」「背景を汲む。」「再現する。」の3つの行為全てに絡んできます。そもそも「まず聴く。」ということ自体がハードルの高い行為で、いざ聴いた音楽に何も良さを感じなかった場合、時間の無駄だと思ったり、不愉快にすら感じたり、苦しい思いをするでしょう。「背景を汲む。」という行為には、音楽の背景を調べるのが苦である場合があります。好きな音楽であれば積極的に調べられるでしょうが、好きじゃない音楽を聴いてそれについて調べるってどんな刑罰でしょうか。「再現する。」というのは一筋縄ではいきません。コードを弾くだけでも1週間ぐらい毎日頑張ってようやくできるか否か、ギターソロを弾けるようになるだなんてもっと時間がかかるでしょう。以上の話は私の経験談でもあります。
 「苦しまないなんてのは嘘だ」という主張では無いのです。最初に述べた通り苦しまない人は苦しみません。別の言い方をすると「音楽で苦しんでもいい」ということなのです。難しい音楽を聴いてもこれといった感想をもてず、自分には音楽的才能が無いと錯覚してしまいませんか。楽器が上手くできなくて楽器の才能が無いと勘違いしていませんか。才能がない人でも聴き込みや練習で感受性豊かになれるものなので、才能一つで片付けるのは勿体無いです。それに、苦しいなどのネガティブな感想は間違いじゃないし、むしろ愛おしいものです。こういう考えが自己肯定感を高めることに繋がり、人生をより豊かにしていくのだと私は考えます。
 「苦しむこと。」を受け入れることは、「まず聴く。」「背景を汲む。」「再現する。」の3つのことを行なっていく上で避けられませんが、向き合った末に得られるものがあり、3つのことに関する知見は確かなものになります。どうかめげないで。

 まとめ

 音楽を聴くために「まず聴く。」「背景を汲む。」「再現する。」「苦しむ。」の重要な4つの行動があり、その根拠を述べました。「まず聴く。」ことによる「出会い」があること、「背景を汲む。」ことによって「教養」が深まること、「再現する。」ことを通して「創作」の凄さを理解できること、「苦しむこと。」「愛おしい」ということを述べました。また、根拠の説明を通して「やってみなければわからない」「インプットとアウトプット」「音楽の歴史」「芸術」などの知見やトピックに触れました。音楽に限らず、一般論としても通じる話題でした。

 以上で終わります。

 思想に共感なんてしなくていいですから、お勧めした音楽をとりあえず聴いてくれる方が嬉しいです。


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