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短編:【なんだろうコレ?】

スマホの写真フォルダを整理しようと、過去に撮った写真を見ていた。その中にスクショした、随分前に残した地図アプリで検索した画像があって、ただ自分でもそれを残した記憶が思い出せない。住所が書いてあるので、もう一度検索をしてみる。普段さほど通らない道だし、周辺の景色を見ても単なる何の変哲もない住宅街のようだ。

「なんでココ調べたんだろう?」
画像情報を見ると、金曜日の23時42分。
「この時間は、まだ帰宅途中かな…」
たしかその頃は仕事が溜まっていて、遅くまで会社で仕事をしていて、終電間際で帰宅をすることが多かったように思う。

さほど重要なことでもなさそうだが、
「まあ、何かあるかも知れないし…」
その画像は残したまま放置した。

そんなことをスッカリ忘れた頃、営業先に向かう道の途中で見覚えのある住所が現れた。住所検索でスクショしていた、あの場所の近く。周辺の景色を見ていたこともあって、既視感を覚える。思わず写真フォルダを開いて、調べていた住所を再確認する。
「この角を曲がったところに…」
その住所は、空き地になっていた。

たぶん、地図作成をして、周辺画像を撮影した頃には、確かに住宅が建っていたのだろう。その場所には、土がむき出しの地面があった。
「…なんでココを調べたんだ?」

お客との打合せを終え、帰り道にもその前を通る。特に思い入れがあるということもなく、知り合いの家だったという記憶もない。ただその場所が空き地になった原因が漠然と気になり、そして自分がその住所を検索しスクショしていた理由も、モヤモヤと気持ちが悪かった。
「このあたりは以前も担当していたんだっけかな?」

「金曜日…帰宅途中の電車の中…住所を検索してスクショ…」
順番に思い出そうとする。
「あ…」
地図アプリではなく、住所情報で検索することを思いつく。画像に残った住所を打ち込む。するとひとつのニュース記事がヒットした。
『殺害ののち放火か?』
残虐な事件と共に、その場所は焼き壊されたようだ。
「あの事件か…」
その事件はテレビでもやっていたので、何となくは覚えていた。

一瞬、嫌な想像が浮かんだ。

「ドラマなんかだとさ…たぶんこういう時って私が犯人で、無意識に犯行をしていて…なんて話になるよな…」

気味の悪い武者震い。その時ふいに思い出した。
「あ…そうだよ…」
その日、電車で帰宅をしていた。終電間近の電車内は比較的空いていて、座席に座って帰る。たまたま隣に座った男性が新聞を開いていた。正確には、その男性は新聞を開いたまま熟睡していた。私から見える角度でその例の事件が出ていた。
「そういう時って案外、目に飛び込んで来るんだよな…」
その記事に書かれた住所が、同じ区の、比較的近い街のものだった。小さい文字でも、何故かその住所が見えた。
「…そうだ、その住所がどのあたりか調べたんだ…」
地図アプリで調べて、周辺の画像を見て、ああ住宅街で起きた事件だったのか、と感想を持って、その場所をスクショした。あまり行ったことのない場所だった。そのまま放置していたら、記憶にも無い画像が残っていた。

「あれ?あの犯人って、捕まったのかな?…」
空き地になった住居跡。何事もなかったような街の喧騒。さきほどの住所検索では、その事件の記事は出ていたが、その後、犯人が捕まった記述は無いし、追跡記事も出ていない。

再び気味の悪い武者震いが起きる。
「住所まで明確に出して、放火殺人まで起きて、何事もなかったように社会は流れてしまうのか…」
しかし自分も同じことをしていることに気がつく。
「興味本位で住所を調べて、何もしないまま記憶から消えていた訳だな…」

駅に着いて周りを見渡す。この中に、あの時の犯人がまだいるかも知れないし、僕がその犯人だったのかも知れない。
「あのスクショ…本当に隣の人の新聞で検索…したんだよな…」
人は都合の良いように記憶を改ざんできる生き物なのだから…

     「つづく」 作:スエナガ

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