見出し画像

短編:【予約の取れない人気店?】

『お越し頂いたこちらのシェフ!何と!3年先まで予約が埋まっている、超人気店の…』

テレビの矛盾はとてもツライ。

「何だよ、3年先まで予約が埋まっているんだったら、テレビなんか出ないで、その時間店を開けばもっと多くのお客が味を堪能できるじゃないか!それともなにかい?テレビ出演は3年以上前から予約していたのかい?」
「違うんだよ、そもそも定休日とか、夜だけ営業のところ時間を割いてテレビに出て宣伝しているだけなんだよ。もっと言えば、もうこの人が店に立たなくてもお弟子さんとかが店をやっているとか、とにかくハクをつけるための枕詞みたいなモンだよ」
「それじゃあ嘘じゃん!誇大広告ですよね!」

予約の取れない人気店。そこには様々な理由がある。

店主の人柄。味の素晴らしさ。居心地の良さ。店舗の立地条件や来店する際の人数、メンバーによっても変わってくる。
良い店だから、次もまた来る。常連さんが多いから予約も取りにくい。いや、いつも来るお客を優先することで、来店時に次の予約を入れる。つまりは空いている時間はすぐ埋まる。
風が吹くと桶屋が儲かる。そんなことわざがあった。因果関係の話。あてにならない比喩表現。柳の下のどじょう。そんな都合の良い偶然の好機はありえない例え。

「今後どんな商売が当たると思いますか?」
「商売?」
「いまならデジタル系ですよね」
「デジタル系とは具体的には?」
「AIですよ」
「AIで何をするんです?」
「わからないけどAIは儲かるでしょう!」

多くの人が勘違いをしている。
誰が何をしているか。どうしているか。
人工知能ならこう言うだろうか。
5W1Hの思考が大事。
「When:いつ」「Where:どこで」「Who:だれが」「What:何を」「Why:なぜ」「How:どのように」
すべては要素の組み合わせ。

予約の取れない人気店は、明確に客を選んでいる。店に食べに来るお客だけではなく、テレビに出ることでの宣伝効果を利用して、新しい上客を呼び寄せる。そこには揺るがない自信と腕があることが最低条件となる。

「つまりね、思いつきや勢いだけで事業をやったって当たらないワケですよ」
「でもやらなくてはヒットも打てないですよね」
「もちろんバッターボックスに立たなければホームランは生まれません」
「スリーポイントシュートだって投げなくては入らない」

もし予約の取れないお店を作りたいなら、まずは店を満杯にできる実力を身につけることが先決である。もっと言えば、目の前に座るひとりのお客さまに満足頂ける一皿をお出ししなくては先がない。さらにさらに、それだけの技術を学び、努力し、人柄も申し分ない存在にならなくてはいけない。

「難しいですね」
「宝くじで当たるようなモノですよ」
「あ、そう言えば年末ジャンボ販売始まりましたね」
「私ね、これまで最高額は三千円ですよ」
「私だって一万円ですよ」
「凄いじゃないですか!」
「まあ夢を買うようなモノですから」
「予約の取れないお店で食事をする、それもまた夢のまた夢ですかね」
「予約の取れない店に行くことも、予約の取れない店を作るのも、まあ大変でしょうね」

結局人は、できないことに憧れる。そしてできた人物を妬み嫉み文句を言う。それが人であり、世の中大半の人物がそっち側の人間なのだと気づく。

「予約の取れない店を作ったこのシェフは、自分が予約の出来ない店を作りたいと思って頑張ったのかな?」
「どうだろうね、料理屋を開きたい、店を繁盛させたい、有名になりたいとは思うだろうけど、予約の取れない店を作りたかったワケではないんじゃない?」
「ある意味、予約の取れない店って、逆に恥ずかしいよな。つまりは経営の管理が出来ていないワケだから」
「言えた!だったらもっと広い場所でやれって話だよ」
「まあ成功者だろうけど、成功者でも他人から見たら、ヤッカミの的だもんな…」

テレビで「予約の取れない」って使うのは、何となく時代に合っていない気がした。

     「つづく」 作:スエナガ

#ショートショート #物語 #短編小説 #言葉 #写真 #フィクション #予約の取れない料理店


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?