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短編:【四月馬鹿】

「エープリルフールってあるでしょ」
「四月馬鹿、嘘ついてイイ日ね」

ファストフードの店内で向かい合う学生カップル。男子が自慢気に話しかける。
「世界的に浸透しててさ、各地で様々な嘘が飛び交うんだよね」
「へぇ〜そうなんだ」
女の子はズズズとドリンク飲み干して、紙のカップを揺する。氷の乾いた音がする。
「なのにさ、明確な由来とか起源とかが判っていないらしいんだ…」
「そうなの?え、だってバレンタインデーもクリスマスも、はじまりが判っているじゃない?」
「もちろん、諸説あるんだけど、だけど世界的に違う理由で嘘を付いて良い日になっているけれど、どうしてかが明確ではないんだってさ」
「へぇ〜。あ、でもはじまりが判らないモノことって、他にもあるような気がするな…」
少しだけ溶けた氷の水を、ズズッとすする。

女子が声を上げる。
「ねぇ、どうせ嘘をついて良い日の起源だとしたらさ、こんな理由じゃない?って言うの考えてみない?」
「なにその大喜利的な遊び」
「エイプリルフールの起源は意外だった。どういう理由?」
「あ!似てる!大喜利番組っぽいじゃない!」
突如始める、お遊び大喜利。

「エイプリルフールの起源!本当は日本語を話せる海外視察団が、英語しか喋れないと捲し立てた記念日!」
「あ〜ありそう。歴史的な嘘つきね。だけど、何でそれが記念日なのよ…」
「歴史的に大問題な嘘ってなんだろうね…」
「未確認飛行物体とか、未確認生命体とか?」
「なんかそれも記念日じゃない気がするな…今どき常日頃から似たようなニュースとか番組はあるしね…」

男子が被せてくる。
「神の降臨!」
「う〜ん、それってクリスマスっぽいね。嘘の日よりも正義のような気がするし…」
「嘘とデマって近いけど、愛や笑いがあるのか、悪意があるのかで大きく違う気がするよね」
「笑える嘘か…」
「この日に笑いの神様が誕生した!」
女子はすっかり空になったドリンクをすする。

「なんかお腹すいた!」
「さっきバーガー食べたじゃん!?」
「う〜ん、頭使ったからお腹すいた…たぶんさ、きっと検索したら、エイプリルフールの起源って出てそうだけどね!」
「検索したら何でも出てるもんね」
「知ってる?昔の人って、色々と覚えてたんだってよ!?」
「あ!暗記ってヤツだ!」
「アンキ?」
「日本の歴史とか、人の電話番号とか覚えてたんだって!」
「そんなのスマホに任せればイイじゃんね!あ!わかった!それがエイプリルフールの起源だ!」
男子は瞬きをしている。
「自分で覚えてるって言いながら、ホントはスマホで調べて嘘ついた!」
「…そんなこと?」
「あの嘘ついちゃった人、どうしたのかな?」
「ああ、人のお金使っちゃった人ね?」
「デジタル社会の落とし穴とか言われてるらしいね…」
「落とし穴…」
「アナログって知ってる?」
「あなぐろ?」

嘘を付いていい日。愛のある嘘が拡がりますように。

     「つづく」 作:スエナガ

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