短編:【お散歩パントマイム】
そのオジサンは巨大な犬に翻弄されていた。
土曜の昼間、公園で大きな犬を連れていたのだが、明らかに犬に散歩させられている中年男性。でっぷりとしたお腹を揺らしながら、サンタクロースがソリを引くトナカイの後ろで風に吹かれるような距離感で、ノッシノッシと歩いていた。
しばらくして人影のすくない建物の裏に。暑い日差しが和らぐのを感じたのか大きな犬はお腹を地面に着けるようにして座り込んでしまった。汗だくになっていたオジサンも、汗を拭きながら、水分補給をしている。お散歩仲間の小さな犬もやって来て、飼い主同士、会話をしている。
ある程度休憩をしたところで、散歩を再開しようとオジサンが犬のリールをグッと引く。が、大きな犬は一向に動かない。前の方で引っ張ってダメならば、後ろの方から引っ張ってみる。ビクともしない。
徐々にオジサンの動きが大きくなって行く。
…何かの動きに似ている。
あ、パントマイム!大きなカバンが空中に浮いていて、一箇所から動かないあのパントマイムとそっくりだ!
オジサンは大きな横たわる犬を中心に、前に後ろに動いている。まさに犬に翻弄されている。と、突然犬が立ち上がり、オジサンと逆方向に歩き出した。おお〜っとと!と大きく後ろに引かれるオジサン!凄く上手いパントマイムをワンステージ拝見した気分になって、思わず拍手をしそうになる。
そしてオジサンは、また大きな犬に引っ張られて散歩させられて行った。
「つづく」 作:スエナガ
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