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短編:【ハチミツ禁止令】


『生物愛護の観点から、本年10月1日より本国ではハチミツを全面的に禁止する方向で調整に…』
テレビから流れる大臣の発表。
『具体的には、食べない、取らない、持ち込まない…』


「“生物愛護の観点”って、“蜂さんが可哀想”…ってことだよね…」
テレビを見ながら姉が呟く。
「…動物愛護がさらに加速したんじゃない?」
スマホをいじりながら弟が応える。
「確かに蜂が懸命に集めた蜜を、ガサッと奪うんだもんね」
「…養蜂って、そういうものだからね…」

「ハチミツってちょっとした贅沢品だよね」
「まぁウチじゃあんま使わないね…」
「パン食べても、ウチだと基本マーガリンとか…バターとか…?」
「姉ちゃんは『ダイエットがどうの』って、あんまつけないしね…」
さして興味なさげに淡々と会話が進む。

「最初はクマだったのかな?」
姉の問いかけに指が一瞬止まる。
「最初?なんの?」
「第一発見者よ、ハチミツの!」
「あ〜確かに!わざわざ刺されるのに取る人間いなそー!」
弟は顔を上げずスマホをいじり続ける。
「天然のハチミツは香りイイんだろうなぁ…」
「そう…なのかな…」
上の空の弟。
「…ね、アンタさっきからずっと何打ってんの?」
「今のうちに、ハチミツ買い占め!」
「買い占めってウチじゃあんま使わないのに?」
「転売、転売!」
「ちょっと!やめなさいよ〜」
「や、それがさ…、発表された直後なのに、もう全然出てないんだよ…」
「そりゃあそうよ!政府が動いてこんだけの発表してるんだから、もっともっとずっと前から情報を知っていた営利団体とかプロの業者がゴッソリ買い占めてるに決まってるじゃない!」

弟は顔を上げる。
「…はぁ、無理!諦める!」
「違法ハチミツを闇販売して捕まるよりマシよ!」
「けどさ、“蜂さんが可哀想”って感覚も行き過ぎだよね」
「ね〜、そんなこと言ったら、牛さんも豚さんも、鶏さんも魚さんも、みんな可哀想、ってなっちゃうよね!」
「確かに。でも実際、マグロとかクジラを守る活動をしている集団あるよね。まあでも世界レベルで考えたら、食文化も価値観もみんな違うから…」

「でも、なんでハチミツなんだろうね」
「なんで?」
「ほら甘い味が欲しかったら、天然の砂糖でもイイわけでしょ?」
「そうだね」
「植物由来の砂糖を加工して、ハチミツ風味とか出来そうなもんじゃない?」
「代替品ね」
「最近は深海魚の白身魚とか出回っているもんね」
「ハチミツ風味の砂糖か…まあ、どんなモノでも替えは利くだろうけど」

再びスマホに集中する弟。
「何?今度は何を探してるの?」
「ん、知り合いに、そういう…ハチミツ風味の砂糖とか、作れる人間いなかったかな〜、と思ってね」
「いまからそれを開発して販売するって?本当に商魂たくましい…」
「あ〜!やっぱ、いないよなぁ〜そんな頭のイイ奴…」

「まあ、価値観だからね…動物愛護も、代替品も。全世界が同じ価値観になることはないんだから、どこで手を打つか、どこまでは許せるか、許容範囲でみんな折り合いつけてるわけだ…」
「へぇ〜」
「なによ!」
「そんな正論が姉ちゃんから出るなんて意外…」
「何が意外よ!私は冷静に世界を見ているのよ!」
「ふ〜ん」

姉は突然立ち上がる。
「あ!ちょっと待って!」
何かを急に思い出したようだ。
「ダメじゃん!ハチミツ無くなったら、ホットケーキ食べれない!」
「ホットケーキ?チョコとか生クリームで良くね?」
「ダメよ!私、ホットケーキはたっぷりバターとハチミツの人なの!」
「全然冷静じゃないし…ダイエット台無し…」
「え、ねえ、さっきまで調べた所で、ハチミツちょっとは買えないの?」
「代替品でイイって言ってたじゃん…」
「代替えじゃダメなの!この価値観は譲れないの!」
「はいはい…」
スマホを再びいじりだす。
「生物愛護の観点で、私にハチミツ!…プリ〜〜ズ!」

     「つづく」 作:スエナガ

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