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短編:【家政婦3】

『本日ご紹介の商品がコチラ!』
妙なテンションのMCが、マジックショーのように布を引っ張ると、中から女性が。
『ご存知!家政婦シリーズ最新バージョン!家政婦3(カセイフ・サン)です!』
フロアADの煽りによって、お馴染みとばかりに盛り上がるスタジオ。
『一家に一台、本当に大人気シリーズですね!』
アシスタント女性もパスを出す。
『3ってことは、3号機ですか!?』
通販番組の華やかな世界。
『はい!家政婦シリーズの3号機、“3号さん”になります〜!』

モニター内の華やぎとは対照的な、独身男性が住む深夜のアパート。
「…“3号さん”って…、こんなの放送しててイイのかよ…?」
耳だけ傾けテレビも見ずスマホをいじっている。
『深夜の通販、もう、オワタ』
夜食のカップラーメンを啜り、SNSでつぶやく…。

『これまでの、甘えん坊さん機能に加えて、格段にスタイルも進化。このクラスで初です!』
盛り上がるスタジオ。
『なんとなんと!“お母さん機能搭載”!』

薄暗いアパート。陰気にほくそ笑む男性。
「…なんだそれ…」
『家政婦さんにお母さん機能…必要か?』
新雑で心無い投稿。

『ピンポ〜ン』
スマホから顔を上げる。
『ピンポ〜ン』
深夜3時の来客?
『ピンポ〜ン』
不気味な訪問を無視する。
『ピンポ〜ン…ピンポ〜ン』
連打される。

部屋のドア前に立つ背筋の伸びた女性の後姿。狭いワンルームの明かりが廊下に漏れている。
『ピンポ〜ン…ピンポ〜ン』
過剰に鳴るチャイム。

「…はい?誰〜!」
男性は寝ていた芝居をしながら渋々ドアを開ける。
「どうも夜分に申し訳ございません…」
玄関前には、口元に笑みを浮かべ目を細め、しかし笑っていない能面のような顔の女。
「何時だと思ってるんですか!?」
周囲に注意されないように抑え気味に言う。
「はい深夜3時12分を回った所でしょうか…」
時計も見ずに答える。

『料理、洗濯、掃除はもちろん、朝の目覚まし機能やお金の管理と言った、一台5役、いや、10役以上!』
『凄すぎませんか〜!?』
『もう家政婦じゃなくて、完全にお母さんですよね!?』
テレビのボリュームが大きくなったような気がする。

「いやこんな深夜に何の用ですか?」
「はい、お客様がちょうど今ご覧になっている通販商品に関しまして、是非とも詳しいご説明をさせて頂きたく…」
「ご覧になっている通販商品?」
何を言っているのか…

女性が『家政婦3』と書いているカタログを前に突き出す。
「家政婦3…?」
「こちら、料理、洗濯、掃除はもちろん、朝の目覚まし機能やお金の管理…」
「待った!待った待った!それはいま、テレビで見たし聞きましたよ!」
スマホに集中し、見てはいなかった。
「はい。家政婦さんにお母さん機能が搭載となった…」
「はいはいはいはい…判ったって!」
一度冷静になろうと、一歩下がる。
「待ってね。その…あの…なんでウチに来た!?」
冷静さを失い語尾が強くなる。
「はい、お客様がちょうど今ご覧に…」
「なに?なんで見ていたってことが…」
ハッと気がつき、手に握るスマホを見る。
「SNS?」
「はい。『家政婦さんにお母さん機能…必要か?』とつぶやいて頂きまして、ありがとうございます。場所はダダ漏れの個人情報とGPSで絞り込み、番組をご覧頂いている方の元へすぐに伺い、ご説明を…」
怖い。目の前の能面女は何を言っているのか。

「弊社は深夜の放送に合わせまして、都内各所をネットワークで繋ぎデータ収集ののち、特にこちらの商品をココロより必要とされる世帯様を限定して、ご要望があればすぐに駆けつけるというサービスを行っており…」

こうした訪問営業スタッフがたくさんいるというのか?
「…こんな夜中に?」
「はい、必要な皆様へのケアは最優先事項ですから…」
「その…女性ひとりで…危なくないんですか?知らない家に訪問して…」
女性は口元だけでニヤリと笑う。

「現物を見てご検討頂く方がお客さまも安心じゃないですか?」
「現…物?」
「…知らないお宅にひとりで伺うことは慣れております。…ほら、いま紹介されている、“家政婦3”は…私たちですから…」

     「つづく」 作:スエナガ

『家政婦Ⅰ型』はこんな感じ?
お若い方にはこのタイプ!?家政婦Ⅱ型(甘えん坊さん機能付き)

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