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短編:【言葉の通じない人々】

「今日さ、話題の場所に行って来たんだよ!」
「話題の場所?」
新宿の居酒屋で若者3人が呑んでいる。
「これ!」
「あ〜渋谷ね。渋谷はハロウィーン会場ではありませんってアレね」
「自治体のトップが、来ないでくださいってヤツ!」
大ジョッキのビールを呑みながら笑っている。
「あれって逆効果だよね!来るなと言われると、逆に〜みたいな…」
「あるある!」
「これは売れていて手に入らないって言われると、無性に食べたくなる的な…」
「けどさ、何しに渋谷行ったの?」
「え、新宿来るついでに観光、的な?」
「わざわざ写真撮りに行ったの?」
「記念だからね!」
「何の記念?」
「コレって歴史の教科書に載るレベルの出来事でしょ!」
「どうだろう?そもそもハロウィーンなんて最近のイベントでしょ?」
「そうそう、サッカー大会の時でも、年末年始でも、事ある毎に渋谷渋谷って…」
レモンハイを注文して言い切る。
「もう渋谷イイかな…来るなと言うなら行かないよ、的な逆に!」
「何でわざわざ混雑を見るために、その混雑に行くのかわかんない…」
「だって正月の初詣だってわざわざ混んだ神社仏閣行くっしょ!」
「行かないよ〜!」
「行くよ〜、せっかくウイルスが一段落して規制がなくなったんだし…」

実に悩ましい。混雑回避の施策がかえって混乱を招いてしまう。
「そもそも何で渋谷なのよ」
「そりゃあ、人間交差点だよ!素性も知らない見ず知らずの赤の他人と同じ感情で行き交う醍醐味!」
「そんなの昔の乗車率200%の満員電車でも良くね?」
「何で満員電車がイイんだよ…オレは立ったまんま動けないのは嫌だな…」
「いまは自転車通学とか、電動キックボードの方が便利っしょ!」
「そうそう努力義務のヘルメットだって、子どもと、警官しか被ってないしね!」
「出た。努力義務!」
「渋谷に来ないでくださいも、努力義務でしょ!」
「努力いらないでしょ!行く必要は無いし!」
「ワクワクする所に行かないなんて、オレには結構努力なんだよね」
「まあ好奇心には勝てないか…」

「一生に一度のお願いって何回使った?」
「まぁ、年に2、3回?」
「一生に一度じゃないね…」
「なんか言葉より感情の勢いだよね…」
メニューを見る。
「限定10食だって!」
「もう無いでしょ〜」
「何でこう書かれると食べたくなるのかな…」
「コレもね、惹かれるんだよね…」
「来るなと言うと行きたくなるし、食べられないと思うと無性に食べたくなる…人間って弱いよな…」
「弱いから群れたくなるのよ」
「あ、なんかイイこと言った!」
「人間は、言葉で生きているんじゃなくて、ハートで生きているのよ…」
「ハート?」
「気持ち」
「気持ち?」
「心のまま」
「パッション!」
「思うがまま」
「それじゃあ動物だよ…」
三人で笑い出す。

「ちゃんと他人の言うことは聞かないダメでしょ…」
「でも聞けないのが人間なんだよ…」
「まあそれも人間だな…」
「個人はひとつの個性だからね、いつの時代も、どの年代も、みんな同じじゃないから」
「まあその時代に生きた証は欲しいよな」
「記憶の中だけでも良くね?」
「まあ、人それぞれだから…」
「結局、どこまでも平行線だね」
「言葉は共通言語とは限らない、ってことだ」
「言葉の通じないのが人間だから…」

     「つづく」 作:スエナガ

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