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短編:【スエトモの物語】

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短編小説の物語はこちらです。 ◉毎週1本以上、継続はチカラなりを実践中!これらの断片がいずれ大蛇のように長編物語へとつながるように、備忘録として書き続けております。勝手に動き回…
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#元気をもらったあの食事

短編:【思考する時、人は上を向く】

いつ誰に聞いたのか。 何かで観たのか。 『上を見れば果てしない。下を見たらキリがない』 たしか上を目指して自分なりに今を頑張れ、そんな言葉だったか。下を見て努力を怠るなという戒めだったような、そんな格言だった気もする。 近頃の鯉のぼりは、屋根より高いことはあまりない。川沿いで大量に吊るしていることもあるが、風が強い日にはくるくると紐に絡まってしまい、あまり美しくない。外国人観光客は珍しい光景だと必死に写真を撮っていたが、個人的にはどう撮影しても風情が感じられず、またその

短編:【春の訪れ、そんな今日此頃…】

「ママ、見て?」 「な〜に、あ…つくし?」 「これ、キノコ?」 娘は見たことがなかったようだ。 「キノコ…じゃないかな?これはね、つくし。春になると土から生えて来るんだよ。でもなんか久しぶりに見たかも…」 「つくしは食べられる?」 「食べる?ん〜どうだろう。昔は食べていたみたいだけど…ママは食べたことないかな〜」 確かに時代と共に変化している環境。食生活も大きく変わっている。かつてイナゴを佃煮にして食していたが、時代と共に見なくなり、しかし近年では昆虫食なる新たな文化が出てい

短編:【本末転倒】

「このケーキ安かったの!」 キッチンダイニングで妻とふたり。 「へぇ美味しそう。幾らだったの?」 「3つセットで5百円」 「そうなんだ…でも1つしか無いけど…」 「あなたあまり甘いものを好きじゃないでしょ?だけどひとつだけ取っておいてあげたのよ!」 「甘いもの嫌いじゃないよ…あまり食べる機会も無いから積極的に食べないだけだよ」 「あ、そうなんだ…」 「てことは…2つ食べちゃったの?」 「甘いもの食べたくて買ったからね」 「でも見たことの無い店名だよね?新しいお店?」 「うーん

短編:【正月気分】

正月はずるい。おまけが付いている。 正月とは一月一日のことで、本来その一日だけの祝い事だったはず。なのに二日も三日も一緒で正月三が日と呼ばれ、誰もが休みだと思っている。さらには七草がゆなどの行事もあり、だからみんな正月だけ特別扱いをする。 私は近所ではまあまあ大きめのスーパーでレジ係をしている。最近では「初売り」というものもあり、近隣のお店でも元旦から、遅くても二日から仕事が始まっている。 正月気分などあったモノではない。 私も二日からの出勤。 本日の特売品は「新春にぎ

【カレーの日】

街角で思いっきり殴られた夜、無性にカレーの気分になっていた。23時を少し回っていたが、24時間営業のチェーン店ならやっているだろう。 とはいえ、思いっきり殴られたせいで、右目の上は大きく腫れていて、左頬には紫のアザがくっきり出ている。見た目ではわからないが、口の中も切れているようで、微かに鉄分の味がする。 「こんな姿で、また街を歩くのは…」 …流石に気が引けた。一旦、シャワーを浴びて、血の飛び散った洋服を着替えてから考えることにしよう。 なぜ殴られたのか。 …ただ歩いていた

【カフェにて】

通り横にあるそのカフェの、道に面したカウンター席には電源があり、おかげで出先での仕事もはかどっていた。いつでもPCリュックを背負い移動オフィス状態の僕にとって、WiFiやコンセントの使える場所は非常にありがたく重宝している。 ふと窓の外を見たら、大きなメニュー看板を真剣に、ケンカを売るような目つきで、対峙している女性が立っていた。お昼時にはまだ早く、大きめな帽子をかぶったその女性は、何を食べるかで悩んでいるように見えた。 パソコンに目を戻し、2〜3行文字を打ち、再び窓の外

【から揚げ弁当】

近年の食事産業は御存知の通り概ね統合し、大手外食グループが手掛けるファミレスや姉妹店のお弁当屋が街に溢れている。 かく言う私がパートで働く弁当屋も、テレビCMが年中流れている有名チェーン店で、同じ街に二軒も三軒もあるうちの一軒。パートタイムで働く私の時間は、一番混雑するお昼を挟んだ午前10時から、夕方5時まで。時間がくれば若いアルバイトの学生さんと交代する。 38年生きて来て、アルバイトやパートの類はあまり経験して来なかった。実家での生活が中心で、必死に勉強し、女子大学を出