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短編:【スエトモの物語】

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短編小説の物語はこちらです。 ◉毎週1本以上、継続はチカラなりを実践中!これらの断片がいずれ大蛇のように長編物語へとつながるように、備忘録として書き続けております。勝手に動き回…
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2022年10月の記事一覧

【輝ける老人】

いまではすっかりベテランと呼ばれるようになった私にも、ケアマネジャーとして、新人だったころがある。教材だけでなく、人々との出会いにより多くを学び、教わって来た。 簡単に私の仕事について補足をさせて頂くと、ケアマネジャーとは、介護や援助を必要とするご高齢者の生活を快適にするために、どのようなプランが最適であるかを、当人またはご家族などと話し合い、実際に実行へと導くための、いわば命のサポーターといった仕事である。 そのプランに合わせて、在宅なのか入院なのかといった選択肢や、ヘル

【真実の反対】

『未明におきました大きな揺れに関し、調査をしております、金村先生に伺います。 先生、久しぶりの大きな地震でしたが…』 『え~、まず今朝のは、地震ではございません』 『あ、え?先生…それは…』 『地震ではなく、西カオス共和国による、地中爆弾による攻撃でして…』 『や、あの…いったんCMに!…』 「なんだいまの?」 一般家庭の食卓。コーヒーを飲む旦那がテレビに呟く。 「どうしたの?」 「なんか今テレビで、権威者の先生が、今朝の地震は爆弾攻撃の揺れだったって…」 「そんなことある

【ヒトちがい】

「俳優の佐々木良平さん…ですよね!」 「いえ…違います」 良平は、こんな狭い街場の定食屋で声をかけられたことを、ウザく感じていた。 「いやいや良平さんですよね、いまのドラマも良く拝見してますし!そのメガネも…」 別段、ファンと言う感じでもない。サインや握手を求めている訳でもなく、私解っています!をアピールしているように、グイグイと近づいて来た。 「良く間違えられるんですよ、ほら、その辺にいる顔ですし…」 「そうですか?…ま…いいや、お隣いいですか?」 内心、カウンターだけの定

【線路がつなぐ家族】(2022・秋)

そういえば、息子と二人きりで電車に乗ったことは無かった。 そこには常に妻がいて、大体が息子は妻と話していることが多かった。 息子は今年の春に、幼稚園の年長さんになる。 しかし今こうして、私の手を握りしめている小さな掌は、木の葉のように弱々しく、これからこの手で掴む夢がどんなモノなのか、非常に興味がある。 「この線路をずっと行くと、ママがいるんだよね」 ふいに話し掛けられ、一瞬戸惑う。 「ああ、そうだね。この線路をずっと行くと、ママがいるよ」 「ママ…待っててくれるかな…」