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★【作者と読者のお気に入り】★

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たくさんのビューとスキを頂いた作品と、個人的に好きなモノだけをギュッとまとめてお届け!30作品程度で入れ替えしながらご紹介。皆様のスキが集まりますように(笑)お気に入りの玉手箱!
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短編:【花の教え】

「最近の桜って花びら白いよね…」 彼女はそういう敏感な感性を持っていた。 「白い?」 僕には、桜の花びらがピンクに見えていた。いや、そう思い込んでいたのかも知れない。周りを見渡すと、至るところで花吹雪が舞っている。 僕には20年間、彼女がいない。奥手というか、人付き合いが苦手というか。大学に進み、同じゼミを専攻した彼女と出会った。 「もちろん品種によっても違うだろうけど…昔の花吹雪ってもっとピンク色だったと思わない?」 「ああ、そう…かもね…」 話を合わせてみる。 「自

短編:【思考する時、人は上を向く】

いつ誰に聞いたのか。 何かで観たのか。 『上を見れば果てしない。下を見たらキリがない』 たしか上を目指して自分なりに今を頑張れ、そんな言葉だったか。下を見て努力を怠るなという戒めだったような、そんな格言だった気もする。 近頃の鯉のぼりは、屋根より高いことはあまりない。川沿いで大量に吊るしていることもあるが、風が強い日にはくるくると紐に絡まってしまい、あまり美しくない。外国人観光客は珍しい光景だと必死に写真を撮っていたが、個人的にはどう撮影しても風情が感じられず、またその

短編:【見上げた屋上にはウミネコ】

ブルーテントから顔を出し見上げた空は、そのテントの青さと同じような色をしていた。下町の川沿いに並ぶブルーテントは、傍から見て感じる想像よりもはるかに頑丈で、多少の台風程度であれば凌げてしまう。事実昨晩上陸した大型台風によって、川の水量は増加し、ブルーテントの上と中は水浸しとなってしまったが、丈夫な骨組みはビクともせず、こうして翌日のお天道様を拝ませて頂けた。 半年程前から、私はここのお世話になっている。朝はお日様が出る前に街へ行き、ゴミ収集車が通る前の資源ゴミを回収する。資

短編:【まかないの味】

僕がその日本料理屋の厨房をアルバイトに選んだのは、素直にまかないが食べられることで食費が助かるためだった。大学進学と共に東京へ出て来たものの、思い描いていた学生生活ではなかったことは明らか。大学二年の春になると一連のウィルス騒動はひと段落し、やっと本格的な対面授業が再開された。再開と言われても1年の間、正直数える程しか教室にいることはなかった。上京した頃はどんなバイトを選んだら良いのかわからなく、少なくとも生きて行くための食費を捻出すると共に、和食が食べられる、ただその一心で

短編:【カフェにて(恋のリベンジ篇)】

通り横にあるそのカフェは、電源やWiFiが自由に使えることもあり、保険の勧誘、金品の営業販売、中には芸能事務所の面談や、ノマドワーカーなど、ちょっとクセの強い客が多く訪れ、なにより長居をしていてもあまり迷惑そうな顔をされないことが魅力の店だった。 私は、そのカフェまで徒歩3分の激チカ物件に住んでいた。あの日以来、…正確には数週間前、長く付き合っていた人と別れてから、暴飲暴食をしてはトイレで吐く、過食症にも似た行為を繰り返してしまう日々を過ごしていた。部屋にいると気が滅入って

【カフェにて】

通り横にあるそのカフェの、道に面したカウンター席には電源があり、おかげで出先での仕事もはかどっていた。いつでもPCリュックを背負い移動オフィス状態の僕にとって、WiFiやコンセントの使える場所は非常にありがたく重宝している。 ふと窓の外を見たら、大きなメニュー看板を真剣に、ケンカを売るような目つきで、対峙している女性が立っていた。お昼時にはまだ早く、大きめな帽子をかぶったその女性は、何を食べるかで悩んでいるように見えた。 パソコンに目を戻し、2〜3行文字を打ち、再び窓の外

短編:【不甲斐ない】

市長が辞職した。 彼の口癖は『不甲斐ない』だった。 『いや〜ホント、不甲斐ない!私が不甲斐ないばっかりにこんな事態に…』 「ねぇこの市長さ、ずっと謝ってないよね…」 姉ちゃんがリビングでポテチを食べながらテレビにボヤいている。 「“不甲斐ない”って言ってるよ?」 僕は冷蔵庫の牛乳をコップに注ぎながら応える。 「違うんだよ、不甲斐ないって、情けないとか、意気地ないって意味なんだよ」 「あ〜、そうなんだ」 「“不甲斐なくて申し訳ない”、だったら謝罪になるんだけど、“私が情けな

短編:【木の上の猫】

昨夜の雨も上がり、久々に日向であれば薄手のコートでも充分暖かく感じる、ある冬の昼下がり。たまたま入ったお店の、本日のランチが大正解で、満腹感プラスアルファーの満足感の中、公園の木々の間を歩いていた。 「あの~、あの、すいません…」 どこからともなく、中年男性の声がする。 自分の右手の方から聞こえた気もするし、後方からの気もする。 気のせいか?誰もいない。 「ちょっと、そこの旦那さん…」 やっぱり聞こえる。周りには人影はない。気味が悪い。それに私はまだまだヤングで、旦那と呼ば

短編:【正月気分】

正月はずるい。おまけが付いている。 正月とは一月一日のことで、本来その一日だけの祝い事だったはず。なのに二日も三日も一緒で正月三が日と呼ばれ、誰もが休みだと思っている。さらには七草がゆなどの行事もあり、だからみんな正月だけ特別扱いをする。 私は近所ではまあまあ大きめのスーパーでレジ係をしている。最近では「初売り」というものもあり、近隣のお店でも元旦から、遅くても二日から仕事が始まっている。 正月気分などあったモノではない。 私も二日からの出勤。 本日の特売品は「新春にぎ

【カレーの日】

街角で思いっきり殴られた夜、無性にカレーの気分になっていた。23時を少し回っていたが、24時間営業のチェーン店ならやっているだろう。 とはいえ、思いっきり殴られたせいで、右目の上は大きく腫れていて、左頬には紫のアザがくっきり出ている。見た目ではわからないが、口の中も切れているようで、微かに鉄分の味がする。 「こんな姿で、また街を歩くのは…」 …流石に気が引けた。一旦、シャワーを浴びて、血の飛び散った洋服を着替えてから考えることにしよう。 なぜ殴られたのか。 …ただ歩いていた

【その光が落ちたなら】

儚ければ儚いほど、その雅な輝きは美しい。 季節の終わり、ひとつの終止符。 線香花火という風物詩は、火薬の量が多ければ、広く火花を広げるが、その反面、その重量で核となる火の軸が大きくなりすぎて、すぐに落ちてしまう。そして細く巻かれた先端から、徐々に太い部分に達し、一番華やかな光を放っている時こそが、最もその火の軸がポツンと切れやすく、それはまるで人の生き方や人気職業にも似た危うさに酷似している。 そう儚く感じてしまうからこそ、夏の夜の線香花火は美しい… 「バブル時代の恩恵なん

【音が鳴るモノなりけり】

<登場人物> 卓也:多感な年頃の小学校低学年生 卓也の母:子供の成長を楽しむ主婦 卓也の父:人生に失敗し、空回りする男 上村:反社組織に片足を突っ込む半端者 その他:卓也父の浮気相手、警察官、学校の皆さん、謎の外国人… 01_1・夕方。職質を受ける男性(上村)と、それを囲む2人の警察官。   警察官A:「もう一度伺いますが…これ…なんですか?」   上村:「えっと…何ですかね…」   警察官B:「これは、アナタのモノではないんですか?」   上村:「えっと…私のですね…」

短編:【橋の下でアナタと】

「昔ってさ、“お前は橋の下で拾って来たんだぞ!”とか言って、子供を“しつけ”てたんだって」 「ナニソレ?赤ちゃんはコウノトリが運んで来るなみの都市伝説?」 「都市伝説というか、言う事聞かない子はウチの子じゃない!ってことでしょ?」 「え〜でもさ、そんなこと言われたら精神的な虐待だし、超トラウマ植え付けちゃうんじゃない!?昭和コワ!」 ファストフードのカウンター席に横座りの高校生カップルの会話としては、随分と風変わりなテーマである。昭和という時代は、善くも悪くも色々と面白い時

短編:【策士策に溺れる】

「ヒロくん、お夕飯何食べたい?」 「ハンバーグ!」 「ハンバーグかぁ…」 息子にヘルメットを着用し、自転車の後ろに座らせる。幼稚園に迎えに行った帰り道。まっすぐ前を見て家路を急ぐ母親の顔に笑顔は無い。ペダルを漕ぐ足取りも重く、早く電動アシストが欲しいと思いつつ、先にヘルメットを買わなくてはと心の片隅では考えていた。 「お肉が食べたいのかなぁ」 「お肉が食べたいけど、ママのハンバーグが食べたい!」 「ママのハンバーグかぁ…」 今日は疲れてしまって、気分的にはあまり面倒な料理をし