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"レンチンご飯しか食べてはいけません"という宣告に聞こえた。今だから展示を続ける意味。

ローカル(地域)とアート(芸術)を循環させるアート企画"LIFE-SIZE"の一環で、この緊急事態宣言下の中、わたしはBarで展示をしている。

会場側からも、ギリギリまで中止するかどうか悩む旨を聞いており、世の中的にもイベントを開催するムードかと言われると、まぁそうではない。
でも、今だからこそ、ちっさくて良いから展示をやらなければいけないなぁと感じていた。

それは、人を動かすことやソーシャルディスタンス云々よりも、芸術を発表する期間に完全なる空白をもたらしたくなかったから。


例えば、パンデミックがこの先何年も続くとする。自粛のムードが何となく当たり前になり、いろんなイベントでオンラインが基軸となる。そうすると、ライブや展示などリアルベースだったものがインターネットやSNSでのオンライン開催が主軸、そして段々とVR、ARを実装させたイベントが当たり前になってくるかもしれない。
個人的には、こういう近未来的な表現は大歓迎だ。とても魅力的に感じるし、めちゃくちゃワクワクする。そんな新しい試みが日常に普及し、触れてみたいと思う。

だが同時に、世代や所得による価値観の格差、好きなものしか目に触れることのない世界、そして様々な息苦しさに、何となく危機感を覚えている。

これから、置いてけぼりを食らってしまう人たちがいるのではないか。


昔、遠足先を決める時、クラスメイトの多数が動物園に行きたいと言ったのだけど、動物が怖い友達がいた。その為にも、教師たちは植物園に行く選択肢を残すことを伝えた。そして、毎年遠足先は固定しなかった、その年によって相談して決める。
感覚としてはその時の気持ちにとても似ていた。大勢が傾いた方向へ走ることに不安を覚える気持ちが、いつもどこかにあるのだ。

手の届く範疇に作品が見える環境を設定しておく。それが"公的な場"の役割の一つでもある。だが、"公的な場"だからこそ感染防止という理由で開かない。
それ自体は、正しい判断だと思う。人数が制御できないあまりにも大きいイベントは、リスク面から見て自粛すべきだろう。

だけど、私からすると"数年はレンチンご飯しか食べてはいけません"という宣告に近かった。

レンチンご飯は美味い。よく食べている。だが、作った人は名前のわかる個人でも団体でもなく、企業だ。彼らから伝わるのは、デザイナーが無難にわかりやすくデザインしたパッケージと成分表記。
徐々に芸術の味覚が薄れていく。この試みが続けば、狭くて一部の人にデザインされ与えられた世界に閉ざされてしまいそうな、そんな空気を纏っていた。

もちろん、デザイナーも会社も誰しもが悪くない。彼らは利益を会社にもたらす為、わかりやすく伝える為、家計を守る為、今の需要に寄り添っている。きちんと彼らのポジションで生きている。
しかし、だからこそ冷凍パスタからシェフの声は聞こえない。

展示を開催するべきだと思った。声というよりは、歌を歌い続けるべきというか。筆を持ち続けるべきというか。鳴き続けるべきというか。そんな感じ。
規模は小さくて良いのだ。少しだけ、錆びないように稼働させておく。その活動が必要だと思った。

なので、人は無理に来なくて良い。無理に私に会う必要もない。
でも、私たちが芸術を続けていることを、そしてそれだけ可能性が満ち溢れているものが世の中にコロコロ転がっていることを、静かに声を上げ続けたかったのだ。

スエイシ ユミ

2020年 名古屋三越「絵画の波動-クラウンレヴォリューション-」、2021年 豊川LiE RECORDSにて個展「飛び出して理性」など。
ニュートラルの表現として、常識に囚われない作家活動を行う。

会場:IIIrd Place
会期:5月10日(月)-28日
時間:17:00〜20:00
定休日:土日
※営業の変動有り、詳細はSNSをご確認ください
※こちらの会場は静かなお店です。1-2人でのご来店を推奨しております。

■ MAP/IIIrd Place(サードプレイス)新栄駅
https://goo.gl/maps/vndMdvRatmMTSrNw7

■LIFE-SIZE-ローカルとアートの循環-
https://fabcafe.com/jp/events/nagoya/life-size/

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