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事業開発とマーケティングの違いを海外での定義や実際の経験をもとに解説


企業のビジネス系職種の求人票の中で、事業開発(BizDev)マーケティング(Marketing)の職種を見かける機会は多いかと思います。

ところが両職種ともカバー範囲が広く重複している業務領域もある上、企業によって求めている業務内容も微妙に異なるため、わかりにくくなっているのが実情ではないでしょうか。

若いビジネスマンにとって、どちらのキャリアを歩んでいくのがいいか、迷ってしまいますよね。

そこで私自身のIT・ネット業界での両職種の経験をふまえ、どこが同じでどこが異なるのか、それぞれのキャリアのメリット・デメリットなどを解説したいと思います。

結論から言うと、両者はビジネス拡大をミッションとしている点は共通ですが、実際の企業組織としての事業開発は少数精鋭組織で他企業を相手に事業未満を事業という形に育てていく役割、マーケティングはマクロ視点で既存商品・サービスの新規顧客の需要を拡大しつつ、コミュニケーション活動を通して既存顧客を育てる役割といえます。
※あくまでそう捉えておくと日本でのキャリアを考えやすいという自分の意見です。

それでは深堀りしていきましょう。

1.識者による事業開発とマーケティングの定義

日本では事業開発(BizDev)という職種がさほど普及していないこともあり、海外識者の定義をまとめてみます。


事業開発とは、事業機会を拡大していくためパートナーシップを構築・発展させていくことです。
マーケティングは新たな顧客どこに存在するのかを見極め、そこへリーチする道筋を見つけることです。
※出所:linkedin記事(2016年3月26日)
アメリカンマーケティングアソシエーションによれば、マーケティングは顧客、パートナー、社会全体のための価値を創造、提供していく活動、組織、プロセスと定義されています。
上記定義では強力な紹介ネットワーク、業界団体への参画、見込み客を調査し絞り込むこと、セールスプロセスで商談を適切に管理することは語られておらず、これが事業開発の役割です。
出所:The Daily CPA(2017年12月11日)

・事業開発:新たな顧客やネットワークをもたらすパートナーシップ、関係構築、その他の専門的なつながりを構築・開発していきます。
・マーケティング:ターゲット市場のニーズやウォンツを理解し、企業のメッセージ、価値、能力を確立する戦略を構築。それらを市場・顧客に適切に伝えリード獲得と売上につなげていきます。
出所:IRIS(2019年1月23日)

表現の仕方は上記3者で微妙に異なりますが、事業開発が個々の顧客やパートナーとの関係構築や商談に責任をもっているのに対して、マーケティングが企業と市場の全体視点にフォーカスしている点に違いが見てとれます。


2.IT業界での事業開発とマーケティングの実際の求人内容


では日本のIT業界での実際の求人票ではそれぞれどのようになっているでしょうか。

・事業開発の求人票の例

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会社名:BASE株式会社
ポジション:Biz Dev(事業開発)
職務内容:
具体的には、ストレッチのきいた事業計画を立てつつ、加盟店の新規獲得や既存の流通額向上といった売上向上に繋がる事業戦略の立案・サービス企画と推進まで一貫してご担当頂きます。
一方で、そういった攻めのアプローチだけでなく、金融業界についての理解を深めながら実現に向けての妥当性や勝算を検討し、適宜法務やセキュリティ観点でのリスクを確認しつつ着実に遂行して頂きます。

・PAY.JP導入・継続審査、加盟店様のフォローアップ
・外部とのコミュニケーション(決済代行会社、カード会社など)
・事業戦略の立案と推進
・アライアンスの強化や新規開拓
・リスクマネジメントの強化
・ビジネス企画からシステム設計、リリースするまでの一連のサービス検討業務
・データ分析の基礎構築

会社名:エキサイト 株式会社
ポジション:新規事業開発者
職務内容:
toBの金融領域で立ち上げる新規事業の事業開発/Bizdev
初期は事業責任者と一緒に営業戦略を議論・策定し、営業組織作りをする
企業の課題や業務フローを精緻に理解した上で、事業責任者・業務提携先(1部上場企業)と連携しながら、以下の業務を遂行

・業務提携先の現場メンバーおよびトップマネジメントとの信頼構築
・業務提携先が抱える課題の分析と言語化
・営業戦略の策定
・営業組織の構築
・事業計画の策定・達成
・数値管理等(予算と実績の管理・変更)
・数値管理等(予算と実績の管理・変更)
・KPIに添った収益確保のための施策の策定と実施

・マーケティングの求人票の例

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会社名:株式会社ベルシステム24ホールディングス
ポジション:WEBマーケティングマネージャー
求人内容:
グループ戦略の立案等、グループ経営を支える当社にて、コンタクトセンター求人メディア「スタボ」を中心とした自社媒体のWEBマーケティング・WEBプロモーション業務全般を担当して頂きます。これまで多くを外部委託しておりましたが、今後よりWEB採用プロモーションを強化して実施していくための重要ポジションの採用となります。

・SEO、SEM、リスティング、リマーケティング、バナー、DSP等の広告管理、運用、効果検証業務
・アライアンス、アフィリエイト等の管理業務
・広告代理店、大手検索サイト、社内各部署、広報等との連携による戦略立案
・上記一連の流れを理解した上での上流企画~ベンダー、代理店コントロールまでを一括管理


会社名:株式会社エイチーム
ポジション:マーケティングマネージャー
求人内容:

世界中の人々にスマートデバイス向けゲームやツールなどのアプリケーションを企画・開発・運営する当社のマーケティングマネージャーとして、国内外に展開するスマートフォンゲームのヒットを目指し、マーケティング業務及びマーケティング戦略の策定などを担当していただきます。

・新規もしくは既存タイトルのプロモーション施策の企画および運用、新規タイトルのマーケティング戦略の立案
・広告代理店やメディアとの関係性構築、ゲーム業界のマーケット調査、チームメンバーの育成等のマネジメント業務

上記の求人票をみても先の識者の定義と合致していることがわかります。

事業拡大に向けて何らかの形で市場や顧客と接していくことは両職種で共通していますが、マーケティングでは事業構築にあたってのアライアンスや見込み客との商談に深入りすることはないこと、逆に事業開発では商品・サービスのプロモーションや広告などのブランディングには直接的に関与しないことがわかります。


3.IT業界での経験をふまた事業開発とマーケティングの整理


私はこれまでIT/ネット業界で両職種とも複数企業で経験しています。

その実情に即して更に整理すべき点として、ビジネスモデル事業フェーズ(規模)という2点があげられます。


・ビジネスモデル(BtoB事業とBtoC事業など)での両職種の違い

BtoB事業はBtoC事業に比べ両職種での管轄領域の違いがわかりやすくなります。

事業開発は協業する個々の企業とのパートナーシップや(潜在)顧客との商談に責任を担います。

一方マーケティングはよりマクロ視点で市場調査、ターゲティング、ブランディング、広告、プロモーション、広報活動などに責任を担います。

マーケティング活動をもとに獲得した各種問い合わせのうち、事業に直結する商談パイプラインをもとに各企業にコンタクトしていくのは事業開発が担います。


BtoC事業では基本的にC=顧客との個別商談は発生しないため、事業開発が主に担うのは事業上のアライアンス活動になります。

具体的には共同製品・サービス開発の相手先、事業で活用する技術提供元、エンタメ業界ならコラボする作品(IP)の権利元などの開拓とその商談の推進活動になります。

マーケティングでは消費者調査・分析、ペルソナ作成を含む顧客ターゲティング、事業のポジショニング、広告・宣伝、販売チャンネル開拓、広報・PR活動などを担います。

オンライン中心に考えると、Webサイトの構築・運営、メールマーケティング、SNS・YouTube公式アカウント運営などいわゆるオウンドメディアの企画・運営や各種ネット広告配信がマーケティングの主要な活動領域になります。


BtoB、BtoC両方の事業を営んでいる場合や、プラットフォーム事業の運営企業の場合、少し複雑になります。

BtoB、BtoC両方の事業を営んでいる企業のBtoB領域では上記マーケティングのうち、市場調査、顧客ターゲティング、ポジショング、宣伝活動の一部を事業開発が担うケースが出てきます。

プラットフォーム事業で消費者に他社の商材を束ねて提供している場合、他社の商材獲得は営業組織が担い、事業開発は新規領域の商材獲得や全く新しい事業の育成を担うケースがあります。


・企業の事業フェーズ、人員数の規模での違い

その他個々の企業での事業開発とマーケティングの管轄領域の違いは、事業のフェーズや組織・人員の規模感で生じてきます。

当然事業フェーズが若く、規模が小さいベンチャー企業ではそもそもそれぞれのセクションの人員が数名単位であり、事業そのものを環境に合わせて迅速に変化させていく必要があります。

よってそれぞれの役割も大企業に比べ曖昧かつ流動的となります。

具体的には事業開発が資金調達、資本業務提携、契約までの営業活動や契約後の開発プロジェクト管理まで担うケースがあります。

マーケティングが販売チャンネル開拓や広報活動の関係で個々の企業とのアライアンス領域にまで踏み込むこともあります。

その方が担当者が一気通貫で相手企業と一気通貫で業務を進められるメリットがあるからです。

そこで自分の勝手な定義に固執してしまうのは、企業経営にとってあまりプラスになりませんので、柔軟な考え方で貪欲に価値提供していく姿勢が求められます。

逆に規模の大きい企業ではB2B事業の商談の開拓からクロージングまで担うのは営業組織(セールス)となり、事業開発はアライアンス活動や既存事業とは別の新規の事業を生み出すミッションを担うケースが多くなります。


4.事業開発とマーケティングでのキャリア形成に向けて


ここまで実際の具体例を交えて事業開発とマーケティングの共通点と違いを説明してきましたが、イメージがついたでしょうか。

B2B事業を営む大企業の場合、事業を拡大する攻めの役割を担う組織として上記両職種の他、営業(セールス)組織があるのが通常です。

よってマーケティング、事業開発だけでなく営業も含めて整理しておいた方がわかりやすくなります。

それぞれの主な業務は次のようになります。

マーケティングの主な業務内容

・市場調査
・ブランディング
・広告・宣伝
・広報・PR
※B2Cの場合、CRM、販売チャンネル開拓も

事業開発の主な業務内容


・商談開拓・推進
・アライアンス構築
・新規事業の育成
※大企業B2Bの商談開拓・推進は営業

営業の主な業務内容

・商談クロージング
・契約締結
※プラットフォーム事業の場合、商材獲得も

更に細かく考えるならば、インサイドセールス、カスタマーサポート、商品・サービス企画・開発部署との関係性も考慮する必要がありますが、ややこしくなるので、別記事でいつか扱いたいと思います。

あとは事業フェーズ、経営者のバックグラウンド、事業領域などによる変形があると考えておけば混乱せずに済むのではないでしょうか。

どんな職種でも実際に携わってみないことには本当のところはわからないので、両方ともチャレンジしてみたくなりますよね。

わかります。私も両方チャレンジしましたから。

それで新たに見えてくることは多数あるのは事実で、独立した時に両方の経験が活きてきます。

しかし日本の労働市場でのいわゆるキャリア形成(ポジションを上げる)を考えると、両職種は明確に分かれているのでどちらかの役割で長く経験を積む方が短期的には得策となります。

実際下記のようにマネージャークラスの求人では該当職種の経験10年以上を求められることが多いからです。


Apple
Business Development Manager, Japan Content & Services
Minimum 10 years experience working in senior Commercial and/or Business Development roles.

長く同一職種での経験を積んでいくにはどちらのキャリアにするかを若いうちに固める必要があります。

決めるにあたっては、日本でも終身雇用が崩壊し企業の寿命がますます短くなっているので、副業との兼ね合いも重要かと思います。

副業はサラリーマンとしての本業と同じ領域で攻めるのが相乗効果が生まれ稼ぎやすくなるからです。

コロナ禍で在宅勤務が主流となり、ブログやアフィリエイトなどオンラインでの副業を行う上ではWebサイト構築・運用、SNS運営、メルマガ配信、画像や動画のクリエイティブなどの実務スキルを直接的に活かせる意味でマーケティングの方がメリットが高くなります。

一方、副業でトークスキルが重要となるYouTubeや音声メディア運営、その後の独立での事業展開の観点では事業開発で養える人の心を動かす交渉スキルが活きてくると思います。


まあいずれでもやりようはあるので、自分がやりたいと思う方を選択すればいいだけかもしれません。


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