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「死にがいを求めて生きているの」を読んで①〜世界がひっくり返る!完成度の高い1話〜

植物状態になってしまった青年・智也の病室に毎日見舞いに来る親友・雄介。
幼馴染を献身的に支えるラブロマンスならぬブロマンスか?とも思える2人の美しい関係性を描いた物語…
※ブロマンスって何?って方は、この記事がわかりやすいです↓
https://lgbt-life.com/topics/shinogonokashiko2/

と、思わせておいて勿論そうは問屋がおろさないのが朝井リョウ!
『桐島部活やめるってよ』と同様、2人を取り巻く第三者達の目線から雄介と智也の姿が描かれていき、次第に彼らの真実が浮き彫りになる仕組みでした。

とても面白い小説だったので、何回かに分けてnoteしたいと思います。
今日は1話目についてと、朝井リョウ怖い。という話についてです。

1話目の完成度の高さ

まずは智也が入院している病院の看護師、白井友里子の目線で始まります。
友里子は毎日が同じルーティーンの繰り返しであることに軽い絶望を抱いています。

P31  四日前も全く同じ時間に、全く同じ場所で、全く同じことを考えていた。そんな気がすると言う曖昧さを許さないほど、確実にそうだった実感がある。(略)時間割の通りに自動的に運ばれているだけで良かった高校3年生のあの頃は、まだゴールがあった。その回転には卒業という終わりがあった。だけど今は違う。

少し脱線しますが、私が通っていた高校の教師が世界史の授業中に「僕は学生時代、パン工場でアルバイトをしていました」と言っていたことを思い出しました。「ベルトコンベアーに流れてくるパンにバナナを置き続ける仕事はとても楽で、とても辛かった」と。
単純労働の辛さと看護師の辛さは別物だろ、と思うかもしれませんが、患者に心を寄り添わせることを諦めてルーティーン的に仕事をしている友里子にとっては似たようなものだったのでしょう。(心を寄り添わせすぎると病んでしまうので、患者の死に慣れるしかなかった)

さて、そんな友里子にとって、回復の見込みがない親友を毎日見舞う雄介の姿は眩しいと同時に不可解な存在として映ります。

P36「雄介さんは、いやになったりしないの?(略)思わない?毎日同じことの繰り返しだなって。自分も世界も何も変わらないなって。このままずっと目がさめないのかもしれないのに、自分は何やってるんだろうって」

看護師としてあるまじき暴言を雄介にぶつけてしまう場面が、1話の山場です。
これ、うまいな〜と思ったのが、友里子は“弟のため”に弟と雄介と会わせようとするのです。友里子の行動は善意によるものだと、読者をミスリードをするのです。親友の転校が辛くて不登校になった弟を励ますために、雄介と智也の友情を見せてあげようと。友里子自身、それが目的だと自分に言い聞かせています。

だけど、実は違う。

友里子は聞いてみたかったのです。「いやにならないの?」と。
友里子は指摘せずにはいられなかったのです。
「あなたの行為、意味あるの?価値あるの?」と。

小説全体の構造をうまく縮小し、40ページに詰め込んだのが1話目です。
朝井リョウお得意の、白く見えていたものが灰色や黒にひっくり返るという構図です。
「死にがいを求めて生きているの」が連続ドラマだとしたら、友里子編は極めて完成度の高い第1話だなぁと思いました。作品の方向性をちゃんと提示した上でネタバレにならない程度のヒントを与えてくれているし、何より第2話が待ち遠しくなります。

1話を読んだだけでは、雄介と智也の関係性はまだまだ明らかにはなりません。
「聴覚だけはあるかもしれないから」と幼き頃一緒にハマったアニメの主題歌を耳元で流してあげたり、病室の掃除や体を拭いたりしてあげる雄介の姿に心を打たれる人もいるでしょう。
が、一方で「家族でも毎日見舞いに来るのはしんどいのに、ましてや社会人になりたてで忙しいはずの年齢である雄介がここまで智也に時間を割くのって…なんで?」と朝井リョウを一度でも読んだことのある人なら推理したくなるはず。
雄介だけでなく智也の心境も推測しながら読むと、更に楽しい読書体験になると思います。因みに私は第6話(雄介が大学で知り合う男の子目線)の時点でこの小説の着地点を確信しました。


朝井リョウ怖い

朝井リョウさん、怖くないですか?
読みやすいのに深くって、笑えるのにグサグサ刺さってきて、エンタメなのに哲学で、もうほんと尊敬!なのですが、仮にもし自分が朝井リョウさんのリア友だったとしたらそっと距離を取りたくなるなぁ…と思いました。
だって、ネタにされそうじゃないですか。されてないとしても邪推しちゃうし、「こんな目線で友達のこと見てるんだー…」って冷や汗でる。

って怖くならずに小説に書けちゃうところに、小説家の性(サガ)を感じますよね。実際は怖い気持ちを押し殺しているのかもしれないけれど、とは言え書けちゃうのがプロだなぁと思います。
もし私だったら仮に書いたとしても顔出ししないわ…
って、こんなすごい小説書けないから杞憂か!

朝井リョウさんと話すのは精神的に丸裸にされそうで怖いから嫌だけど、朝井リョウさんの友達には会ってみたいです。どんな人と友達なんだろ…

#読書 #読書感想 #読書レビュー #朝井リョウ #死にがいを求めて生きているの


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