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PMOって何?

ここ10年、15年ほどで「PMO」という言葉が非常によく聞かれるようになりました。プロジェクト型の業務に日常的に関われている企業の中であれば、少なからず耳にされたことがあるのではないでしょうか。

もちろん、IT企業における業務のほとんどは『プロジェクト型の業務』です。

プロジェクトとはこれまでも説明してきましたように、「有期性」や「独自性」を持っている業務で、プロジェクトという単位で期限が設定されており、一つとして同じものが存在しないという特徴を持ちます。まぁ、IT企業においてまったく同じ仕事をするのであればコピペすればいいだけですもんね。それができない仕事を「プロジェクト型」と呼ぶのだと思っておけばいいのではないでしょうか。

ちなみに私がフリーランスになって最初に手掛けた仕事も、実はPMOです。

PMOとは「Project Management Office(またはOfficer)」の略で、組織の中で実行される各プロジェクトに「横串を通して」統括的な管理やサポートを行うための機能(または、部署やチーム、あるいは人)のことを指します。

ここで勘違いしやすいのがプロジェクトマネージャー(PM)のサポートやフォローをする…つまり体制上は

 PMの下に就いてチーム活動全体を支援するのがPMOであって、
 PMに指摘したり、指図するのはPMOのすることではない

ということです。常にPMやプロジェクト責任者、プロジェクトオーナーが最上位にいて、責任ある判断とマネジメントをしなければなりません。PMOはPMがその活動をしやすくするためのサポートに徹する部署であり、チームであり、人でなければならないのです。

ただ、これは逆の方向にも勘違いしている組織というものが多かったりします。

PMOはあくまで裏方、支援を行うものですが、PMが楽をするためにPMOに丸投げすればいいと思っている組織やPMが後を絶たなかったりもします。これも体制というものを根底から無視した在り方ですので、気を付けたほうがいいと思います。


複数のプロジェクトが同時にいくつも実行されているような組織においては、特に経営層にとっては難しい課題がつきまといます。それは、

 「各プロジェクトに対して
  どれだけ組織のリソース(人、物、金、時間、etc.)を割り振るべきか」

というものです。
これはやはりなかなかに判断が難しいものです。

もし今後どのようなプロジェクトを実行するか全容が把握できていれば計画的なリソース割り当ても可能なのですが、お客さまからの依頼で急遽プロジェクトを立ち上げなければならなくなったり、プロジェクトを進めているうちに深刻な問題が発生し追加のリソースを投入すべき場面もでてきます。

その時、他のプロジェクトから要員を引き抜いたり入れ替えたりといった調整が必要となるのですが、体制変更を求められる側のPMにしてみると簡単には受け入れられないものです。

「せっかく順調に進んでいるのに、
 プロジェクトから今Aさんがいなくなるとマズいですよ。
 そもそも、なんであんなプロジェクトのために
 ウチからメンバー出さなきゃいけないんですか!
 こちらのプロジェクトは失敗してもいいっていうんですか!?」

などと抵抗されるケースも良くあります。

リソースは限られているのですから、組織としては戦略的に見て重要性の高いプロジェクトに優秀な要員を配置したいところですが、個々のプロジェクトの事情を100%把握できている訳でもないため、そのように抵抗されると強く指示することもなかなかできません。

結果、優先順位の低い活動に多くのリソースが投入されることとなり、プロジェクトの成果をビジネスの成果に繋げることができなくなってしまうことが起こります。

このような課題を解決する手段として脚光を浴びているのが優秀なPMOの設置です。

要するに、

 プロジェクトマネジメントを1人で行うのは大変だから、
 PMの負担を分担するために参画し、
 PMの仕事をサポートする

のが、PMOの仕事と言って差し支えないでしょう。

組織的にどのような位置づけで設置するかについては様々な考え方がありますが、基本的にはPMOは経営や組織運営とプロジェクトの間に挟まるポジションに設置され、各プロジェクトの情報を集めて経営層に正確に伝達し、また経営層の下した判断をプロジェクト側の動きに確実に反映することが主な役割となります。

たとえるなら、サッカーで海外から招聘された優れた監督と、才能溢れる(けどちょっと個人プレーに走りやすい)選手達を繋ぐ「コーチもできる通訳」みたいなものでしょうか。

具体的には、PMOは各プロジェクトを常にモニタリングしており、それぞれの状況(進捗に遅れはないか、品質上の問題が起こっていないか、コストが予定をオーバーしていないか、etc.)を把握して経営層に報告し、重大な問題やリスクがある場合には対応策を検討するために必要な材料を提供します。

また、監督の理想を100%選手に伝え、また実践できるようにするために、下地となる環境を整えるといった作業もPMOが担うことは少なくありません。

・プロジェクトマネジメントを理解する
・プロジェクト状況を早急に把握する
・プロジェクトマネジメントの仕組みが構築できる
・情報整理が得意
・整理された情報を報連相する術に長けている
・チーム内外のコミュニケーションに精通している

など、求められるレベルは組織によって異なりますが、ある意味でPM以上のスキルを求められる存在と言っていいでしょう。

本来はプロジェクトマネジメントを行う責任を負うものとしてPMがしっかりできていなければならないものではありますが、プロジェクトの規模によってはそのすべての責任を1人に押し付けるのは理不尽…ということも珍しくありません。

PMが忙しさに奔走して動けなくなっているプロジェクトほど、PMOはPMの代わりにマネジメント補佐をしてあげなければならない立場を担っています。

そこで判断された結果、たとえば要員や予算を追加するといった対応策が確実にプロジェクトで実施されたことはPMOによって確認されます(またはプロジェクトに対するリソース割り当ての権限をある程度PMO自身が保有しているケースもあります)。

サッカーで言えば、選手の調子をきめ細かく把握しながら逐次監督に伝え、また選手に対しては監督のビジョンや戦略を具体的な形で伝えて継続的にフォローする…というイメージでしょうか。

つまり、PMOの設置によって「ビジネスの戦略とプロジェクトの活動をリンクさせること」がよりスピーディで確実なサイクルによって実現されるという訳です。

もちろん、いきなり設置したからと言ってPMOが本当にうまく機能するためには様々な前提もあります。能力があるだけ、資格を持っているだけではPMOの役割は果たせません。

この前提が揃わない状態でPMOを拙速に動かしてしまうと、

 「あのコーチ兼通訳、本当に現場の状況を正確に分かっているの?」
 「理想論だけ語られても、物理的に不可能なこと言われても困るんだよな…」

などと、選手たちの不信感を煽る結果にもなりかねません。
経営層からも

 「本当にPMOとして効果を出しているのか?いてもいなくても一緒じゃないの?」
 「毎回持ってくる報告の粒度が異なるんだけど、何を判断すればいいの?」

 「結局、君が入ることで改善できているの?できないなら何でいるの?」

などと落胆されることにもなりかねません。そうすると逆効果も行き過ぎて組織全体の心がバラバラになってしまいかねず、経営層の描くビジネス戦略とプロジェクト活動とを結びつけることがさらに困難になってしまいます。

まず、組織の中でプロジェクトの進め方や基本的な管理方法がバラバラであれば、プロジェクトの状況を外から正確に把握・評価することができません。

ゴールの枠の大きさが異なるルールでサッカーやっている場合、両チームのFWの得点数を比較してもあまり意味ありませんよね。

そのため、プロジェクト管理にあたっての組織的なルールや標準手順などが整備されている必要があり、それを推進する機能をPMOが併せ持っている場合が多いのです。先の例でいえばゴールの大きさを統一することから始めましょう。そうすれば本当に得点力の有るFW、無いFWを判断するための客観的な材料ができるはずです。


さらにはPMの育成や外部からの獲得、もっと基礎的な部分でのプロジェクトマネジメントの重要性を社内に浸透させるための啓蒙活動をPMOの役割として担っている企業もあります。

つまり、PMよりもPMOの方が優れている…という可能性もあるわけです。

このような多面的な取り組みを根気強く進めた結果によって成熟度の高いプロジェクトマネジメントが組織の中に実現される訳で、逆に考えればそこまで考えて取り組まなければ「監督と選手がすれ違い続ける」という状況からなかなか脱却することは難しい、ということでもあります。

ただし、PMOが支援しにくい組織と言うのもあります。
それは次の条件を満たすようなプロジェクトです。

 ・PMの能力があまりにも低い割に、権限が強くバランスが悪い
 ・顧客の言いなりになっている

お客さまの"最終成果物に対する"要望は契約上果たす義務があるのですが、それ以外の我儘には、

 プロジェクトマネジメントが破綻しない範囲で
 メンバーに必要異常な負担を書けない範囲で
 当初契約時の顧客ニーズを満たす範囲で

PMがその責任を持って本当に必要であると判断した際に対応するべきものです。

その際、PMは自分の考えと判断によって必要とするわけですから普通であれば、

 「お客さまがそういったので」

という根拠で他人に説明しません。
せめて、お客さまから依頼されたことがきっかけだったとしても、

「お客さまから〇〇してほしいと言われました。」
「本来ならスコープに無い作業ですが、
 そもそも作成しなければならないソフトウェアの用途を考えると、
 この手順がなければいざと言う時にインシデントが起きた時、
 そのインパクトは社会的な問題にもなりかねないため、
 後で追加請求するかどうかは改めて協議するとして、
 まずは対応が必要と判断しました」

くらいの根拠や論理の提示はできていなくてはなりません。

しかし、前者のようなやり方でしか進められないPMの支援では、なまじ横串的に様々な組織のサポートをしなければならないPMOとしては非常に困ることになります。PMOと言う組織、チーム、メンバーとして画一的に信頼できる対応が取れなくなるからです。

特に前者のような理由で無計画にポンポンと作業や成果物を増やそうとするPMは無計画なうえに請負契約の論理からも外れた顧客依存性を持っているため、そもそもマネジメント能力があるのかどうかも疑わしいものです。

あくまで支援が主とした仕事であるPMOから見ればそもそも「ゼロには何をかけてもゼロ」なわけで、マネジメント能力が皆無のPMの支援ほど苦行となることはありません。

たとえば請負契約には「注文者は、契約上の完成責任以外求めてはならない」という原理原則があります。これを破ると厚労省が定めるように"偽装請負"と言って、コンプライアンス違反となります。場合によっては民事訴訟刑事告訴の対象になりかねません。

それでもいいというPMは身を以って自業自得を味わえばいいと思いますが、企業やメンバーにも迷惑がかかることを知っておいてください。もちろんPMOにできる支援もかなり限定的となってしまうことでしょう。

ただ言いなりになって契約遵守の原則を無視する…すなわち計画性を持って取り組むことができない人はマネージャーと呼べません。その精神は労働派遣契約者のそれです。

こうしたマネージャーの下ではPMOはその能力を発揮できません。誤った考え方しかできないPMの下で支援するということは、誤りを助長することにしかつながらないからです。

そして、正しいマネジメントを発揮しようとしてもPMが邪魔することになります。 

PMがその本領を発揮してプロジェクトを支援できるようにするためには、PMO自身にも相応のスキルが求められますが、そのうえで同じ目線に立てるPMでなければならない…という前提条件も必要になってくるのかもしれません。

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