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人や人の組み合わせを変えても組織の問題は解決しない

問題を起こすと

 「人を変える」
 「組織を変える」

という手段を取りがちな企業って多いですよね。ほかの国はわかりませんが、なんなら日本という社会自体がそうあることを望んでいます。ニュースなどを見ていても、企業の不祥事などが報道されるとまず間違いなくトップの引責辞任を求める声がどこからともなく上がります。むしろ報道自体がそう誘導している節さえ見え隠れします。

私はこれまで幾度となくソフトウェア開発のプロジェクトにおいて、いわゆる「トラブルプロジェクト」を立て直すために参画する…ということが非常に多かったのですが、その際にも「バグが多い」「ミスが多い」メンバーに対して

 「人を変える」

という手段を講じて人をとっかえひっかえする管理職や経営陣…というのをたくさん見てきました。そもそもトラブルが起きる状態までロクにマネジメントをしてこなかった管理職や経営陣がトラブル時にやることといえば、大抵は人海戦術です。各役割にマッチングしてるかどうかなど深く考えずとにかく人をアサインして対応する。あわよくば(何が…はよくわかってないけど)優秀な人材が多ければアサインする人数が減って赤字が多少でも減ればいいなー…くらいしか考えていませんし、考えられません。

ですが、その「人を挿げ替える」「組織を変更する」方策は、手段として本当に正しいのでしょうか。人、あるいは人の組み合わせを挿げ替えれば本当にその組織は望んだ形に変化するのでしょうか。


「組織の構造とは、組織が目的を達成するための手段である。
 したがって構造に取り組むには、戦略から入らなければならない」

P.F.ドラッカー『マネジメント[エッセンシャル版]』

業績が悪化したり、不祥事が起きたりすると、ロクに何も考えずすぐに人あるいは組織のせいにして体制をいじり出す企業は本当に多いです。

 「組織を変えよう」

という判断を下す際、一般的に組織改革と呼ばれるものの多くがこの手の判断によるものです。ところがさしたる検討も知恵もないため、どこか別の企業が構成している既存のモデルを参考にしてくるわけです。

そのモデルが自分の組織に向いてるかどうかなんて考えません。

 「〇〇さんがやれって言ったから」

と、まるで子供のような言い訳するいい歳した大人をたまに見かけますが発想は同じです。

ですが、組織づくりの最悪の誤りはその絵に描いた餅(モデル)を目の前の生きた組織に機械的に当てはめるところから生じています。組織は、それぞれの企業の状況と戦略に従って決めるべきものです。当然、人事においても同様です。

このことを最も簡明に、かつインパクトのある表現にまとめた言葉が、経営学者アルフレッド・D・チャンドラーJr.の名言「組織は戦略に従う」でした。ドラッカーも「「業績を自動的に上げる組織があるに違いない」などという考えを捨てよ」と言っています。

 「多くの受注を獲得する」
 「売上をあげる」
 「利益を伸ばす」
 「企業の信用度を上げる」 etc.…

構成する組織の目的や目標はどの企業でも考えていることでしょう。もちろんKPI(Key Performance Indicator)などの明確な指標を掲げていることだと思います。もしそれすらも他モデルを引用しているだけで具体的なイメージが伴うことができていないようであれば、そんな人こそ早々に変えるべきかもしれません。

大事なのは『組織のなかに所属する人たちが、最も成果を上げやすい状態を構築、維持すること』です。この点についてはこれまで幾度となくご説明してきたとおりです。

組織を変えるだけで、問題の根源的な解決にはつながることはありません。

もちろん人や組織を変えることで考え方や発想が変化し、結果的に問題の根源的な解決につながる…ということはあるかもしれません。ですがそれはただのギャンブルです。少なくともそれまでの組織に所属していて「解決」「改善」を図れなかった人が、ポジションを変えられたからと言って急にこれまでのやり方や考え方が劇的に変化する…ということはあり得ません。

もちろん組織の基本的なモデルパターンは知っておいたほうがよいでしょう。

常にゼロベースで考えろと言っているわけではありません。ベストプラクティスを参考にすることはよいことだと思います。

しかし、それらを引用するかどうか、実際に採用するかどうかは「戦略」に適した条件を満たしているかどうかで決めるべきものです。戦略とはいわば

 「具体的な仕組み」
 「明確なプロセス」

のことです。人を適当に当てはめてみて、インスタントラーメンのようにしばらく待てば望んだ形の効果が出るものと勝手に期待し、期待したとおりの効果が出なければまた人を交換して…というのは戦略ではありません。ギャンブルです。

また、『人を充てる』ことについてもその戦略はPMBOK(Project Management Body of Knowledge)の中で定義されていたリソースマネジメントでも随分と前からずっと明確化されてきていました。

 ①まずプロジェクト目的を達成できる組織体制を構築し
 ②その体制上求められる役割一つひとつに必要な力量を明確化し
 ③それぞれ求められる力量を満たす人物を体制にアサインする
 ④力量を満たさない場合は計画的に教育することを戦略に組み込む

いまさらゼロから考えなければならないようなことではありません。ずっと昔から、答えの1つは提供され続けてきました。そのことに向き合おうとしてこなかったにすぎません。


組織の条件は「シンプルでわかりやすい」ことでなければなりません。

「組織」はそこではたらく人たちの生産性を高めるための道具であり、手段でしかないのです。その人たちのパフォーマンスが少しでも下がらないよう組織は努めなければなりません。

もちろん一人ひとり能力も違えば、考え方やスタイルも異なります。

それらの適性を正しく見極めて、最もパフォーマンスが最大値化できる組織を考えなくてはなりません。そして考えるべき「組織」とはただの構造(器)だけでなく、その組織の中で求められる体制や戦略も含められているべきなのです。

そこではたらく人たちの邪魔になるだけの組織なんて存在価値はありません。むしろ害悪です。

だからこそドラッカーは20年以上前にはすでに

今日必要とされているものは、正しい構造(組織)の探求ではなく、
それぞれの仕事に合った構造の探求であり、発展であり、評価である。

P.F.ドラッカー『マネジメント[エッセンシャル版]』

と言っていたわけです。


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Takashi Suda / かんた
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