おろそかにならないビジネスコミュニケーション
ビジネスにおけるの多くの問題はコミュニケーションの問題です。
これは、ソフトウェア開発においても"問題プロジェクト"となりやすい要因として、コミュニケーションマネジメントが常に上位ランクインしているため、あながち外れてはいないことがわかるかと思います。
「なんで、しっかり伝えたのに出来ていないんだ」
「なぜ、私の言ってる事を理解しないんだ」
「あの人はそもそも考え方がおかしい」
誰もがビジネスの仲間や上司、あるいは部下に対してそのように感じた事があるのではないでしょうか。
なぜ無くならないのか?
それは『自然言語(人が理解できる言葉)』を多用することで
・発信者の表現力やボキャブラリに依存してしまう
・受信者の読解力や理解力に依存してしまう
・前提として、そもそも一人ひとりの認識が必ずしも一致するとは限らない
ところから、最小限の情報だけでコミュニケーションを図ろうとするからです。これは文書にしようが、口頭で済まそうが関係ありません。自然言語を多用すれば必ず起こります。回避はほぼ不可能と言っていいでしょう。
優れた起業家は「コミュニケーションを上手に取る」ことでかなり多くのビジネスの問題が解決されることを知っており、どのようにすれば上手にコミュニケーションが取れるかを日々考えているといいます。
結論から先に言えば、
ことで、ビジネスコミュニケーションは大幅に成功に近づきます。
ビジネスは絶対に1人ではできません。
だからこそ、他人と相乗効果を発揮しながら進めていかなければならないのです。
夫婦作業や恋人作業にかかわらず、多くの集団活動においてはよく「二人三脚で」「足並みをそろえて」なんてフレーズを使われることがありますが、まさにコミュニケーションこそがそうあるべきなのです。コミュニケーションにおいてお互いが同じ方向を向いて足並みをそろえて進められているという確証を持てる状態、あるいはその状態を維持し続けない限り、どこかで齟齬が発生し、そのまま放置しておけば齟齬の度合い…乖離の幅はどんどん大きくなって、終いには手の施しようがないほどの大トラブルとなるのは当然の帰結です。
そうした問題を自覚した上で、一つの解決手法として具体性の多いコミュニケーションを心がけることで「明確さ」を確保することが第一歩になるのです。
では、1つずつ具体化してみましょう。
コミュニケーションの問題は「明確でない」から起こる
コミュニケーションの問題はなぜ起こるのでしょうか?
その答えは「誤解」もしくは「不足」によるお互いの認識の齟齬あります。
あなたの言葉を、相手が違う認識を持っている場合は「誤解」です。
また、あなたの言葉が足りずに理解が同じレベルに達しない場合は「不足」です。
たとえば、以下のような状態は「誤解」もしくは「不足」と言えるかもしれません。
「あなたの伝えたことを相手が同じレベルで理解できていない」
「あなたの意図を理解していない」
「なぜ、あなたがそう言ったのかの根拠を理解していない」
多くのビジネス文書ももちろんコミュニケーションツールの1つです。
ソフトウェア開発における仕様書や設計書を「モノを作るため"だけ"」のものと考えているエンジニアも多いと思いますが、そういう人たちはエンジニアとして一流だったとしてもビジネスマンとしては三流以下です。
エンジニアリングを企業の収益に結び付けることが社員の使命であるのならば、ただのエンジニアでは困ります。
エンジニア 兼 ビジネスマン
でなければならないのです。そしてビジネスマンであるならば、対顧客、対エンジニア、対他ベンダーなど、ビジネス上においてかかわる可能性のあるすべてのステークホルダーに対して、開発の意図や事情、経緯などが共有できるコミュニケーションツールという側面から、当時の仕様書や設計書が活用されることを前提として記載しておかなければなりません。
この観点が疎かになるからこそ、ソフトウェア品質に問題が生じた際、それが設計不良であればその根本的な理由の中に
「〇〇だと解釈してしまった」
「〇〇と思い込んだ」
「〇〇について確認しなかった」
と言ったことが動機的原因となったものが生じたりするわけです。
これらは当人たちのスキル不足によって発生する問題ではありません。ビジネスの観点で物事を見ることの重要性を社員に課さない企業側の落ち度でもあります。ただ単純な技術力があるだけでビジネスが成立するわけではありません。そのことを正しく認識できていないことが問題なのです。
そうして相手に正確に伝達する((伝えるではなく)伝わる)コミュニケーション表現(設計書の書き方)の中にあいまいな部分が残り、読み手の自由度が高いために起こる明確でないことに起因する不良が混入します。
こうした誤解や不足は、コミュニケーションの解像度を上げる事である程度解消できます。では、どのように解像度を上げればよいのでしょう。
それは、"具体"的に伝えるスキルを身につけることです。
最も重要なコミュニケーションスキルは「具体的」に伝えるスキル
ビジネスにおいて最も重要な事は「いかに短時間で必要な"具体"」を伝えられるかということです。なぜなら、ビジネスでは短時間で密度の濃いやり取りが要求されるからです。
限られた時間の中ですべての「誤解」や「不足」を解消しなければなりません。
どんなビジネスであっても常に期限は存在します。
無期限のビジネスというものは存在しませんし、できません。
必ず時間との戦いは生じますから、余裕をもって細かい事すべてを手取り足取り教えている時間はありません。かと言って伝わらなければ意味がありません。
もう少し具体的に見ていきましょう。
たとえば「見積書を出しておいて」と部下に指示をしたとします。
しかし部下が見積書を作成したことが無い場合、見積書作成において何が重要なのかを当然知りません。
・見積書の主な目的は何なのか
・見積書の注意する点は何なのか
・お客さまが納得できる見積書とはどんなものか
・重大なトラブルに繋がるようなミスにはどういったものがあるのか
そのため「見積書を出しておいて」とだけシンプルに伝えても、満足のいく仕事が返ってくる可能性はとても低くなります。
この問題を未然に防ぐためには、より具体的な事を伝えなければなりません。
ここまで具体的に伝えられると少なくとも具体化した部分については最低限の基準をクリアした仕事が返ってくるようになるかもしれません(これでもまだ抽象度が高いと思いますけど…)。
あくまで一つの事例ですが、とても重要な事です。
そもそも、伝える側に"具体"を伝える力が無くては伝えられません。数多くの"具体"を持ち、その中で最も重要な"具体"をTOP3くらいは最低でも伝えられるようになりましょう。
しかし、依頼側は「とりあえず言われたことだけやってくれればいい」と考え、一方的なコミュニケーションの押し付けを行ってしまうことがあります。
コミュニケーションは『言葉のキャッチボール』と言われているように、本来は一方通行で成立することはありません。一方的に命令・指示するだけで、受け手のフィードバックを必要としないものを"コミュニケーション"とは呼ばないのです。その時点で大きなリスクを抱えることになってしまいます。
具体と抽象の違い
"具体"とは一体どういう事なのでしょうか。
それは、"抽象"との比較によって理解できます。
抽象的な言葉は文字の量が少なくなります。
そして指し示す範囲は広くなります。
具体的な言葉は文字の量が多くなります。
そして指し示す範囲は狭くなります。
たとえば「夏」と「夏の14時の暑さ」は具体と抽象の関係です。
「夏」と言うと夏の海をイメージする人もいれば、夏のかき氷をイメージする人もいます。"暑い季節"と思ってはいても、どの程度の"暑さ"を表現しているかどうかは受け手次第となります。抽象度が高ければ高いほど文字数は少なくなりますが、解釈する人たちの読解力によって含まれる範囲が広くなるのが特徴です。
一方で「夏の14時の暑さ」という言葉は、"暑さ"に対して具体をある程度限定しており、誰でも同じイメージを共有しやすくなっています。「東京都市部の夏の14時の暑さ」と具体的な場所まで限定すればさらにイメージの齟齬は起きにくくなるでしょう。
抽象的な言葉は範囲が広く、少ない表現で済むため、言い手(伝え手)にとっては非常に楽ですし便利です。ですが、ただそれだけです。
抽象的な言葉を使っていれば使うほど広い範囲を指しており、多くの意味の中の1つには正解が含まれるため、言っていること自体が間違えることは少なくなります。だから、多くの企業では指示・依頼する側の人が誤って抽象的な言葉を使う頻度が高くなります。
だって楽なんだもん。
楽だし、嘘は言ってないし、あとでどんな形にでも言い訳できますしね。
しかし、体力…予算的にも人的資産的にも余裕のある大企業であればそれでもまだ良いのかも知れませんが、中小企業ではそうもいきません。潤沢な資金もなければ、人も決して余裕があるわけではありません。仮にブラックなことを従業員に課しても大企業なら人の首を挿げ替えるだけでいいのかもしれませんが、中小企業はそこまで楽観的に「人」をコロコロ入れ替えできるわけではありません。
だからこそ、コミュニケーション不良を原因に余計な問題を起こさないよう、限られた時間のなかで適切な"抽象化"と"具体化"を行き来し、関係者間においてより深い相互理解を得る必要があるのです。
また、物事を正しく成功に導くためには"抽象"のままで留めておいてはいけません。
"抽象"とは、物事のエッセンスだけを抽出したものであり、共通点を抜き出しただけでしかないため、イメージはしやすくてもピンポイントの正解にはたどり着きにくいことが多々あります。
すこし脱線とすると、正しい成功には以下のような情報整理の流れが必要と言われています。
これは『認識のサイクル』と言って、人の認識に至る粒度や流れを示す図です。
当然、より具体的で、より客観的であった方が同じ価値意識を共有しやすいはずです。
よりわかりやすく言うと、次のような手順を踏まなければ人は成功するための認識に辿りつかないということです。
「共通の認識」と「相乗効果」
ビジネスにおけるコミュニケーション、具体的に伝えることの目的は「共通の認識」を作ることにあります。なぜなら、集団活動において"共通認識が無ければ相乗効果は決して生まれない"からです。
共通認識とは、あなたの言葉を聞いて相手の頭の中に生まれる認識があなたの認識と共通している度合いと言っていいでしょう。
たとえば、二人三脚をイメージしてください。
はい。これで二人三脚は成功するでしょうか?
共通認識ができていないとそこにかかわる人たち全員が同じ方向に進みません。
思ったような結果が出ない時、メンバーがそれぞれ違う認識でいたという経験をしたことはないでしょうか。そのため、ビジネスでは「共通の認識」を作ることが非常に大切なのです。
認識の違いを無くすには「具体をより多くすること」を心がけることで大きく進歩します。
と、最初から具体的にどちらの足から進むか決めておけば、絶対にミスは起きなかったことでしょう。そして、もう一つは「言葉の定義」です。
"具体"を多くすること
ビジネスにおいて目標や目的を議論する時には、ある程度"具体"についても議論するようにしましょう。"具体"が多ければ多いほど理解するための情報量が増え、しっかりとした「共通認識」を作れる可能性が高まります。
言葉の定義をすること
"具体"を多くすればある程度の共通認識を作ることが可能です。
しかし、時間も無限にある訳ではありません。
多くすると言っても限度があります。
そこで、ある程度言葉を定義しておくことが重要になってきます。
たとえば、会社の中で「目標」と言ったらどのような内容を指し示すのかを定義しておけば、目標に関しては"具体"を話し合う必要がなくなります。用語集のようなもの…といえばわかりやすいでしょうか。
社内で使う言葉を定義しておく
組織の中である程度、使う言葉の定義を明確にしておくことで「共通認識」を作り出す時間を短縮することが可能です。
たとえばある企業では約100個の言葉を定義して社員の手帳に入れています。
言葉の定義が出来るとその言葉に関する「共通認識」は構築されている状態で話が進むことになるため、時間の短縮になります。「それってこういうことですか?」という質問すら発生しなくなります。
こうした対策はなにも「用語・用字」に限った話ではありません。
業務プロセスなどでも、再現性・再利用性の高い作業や手続きなどは、ルールや手順を具体的に明確化しておくことで、一人ひとりが個々の解釈をする必要はありませんし、悩むこともありません。
これを『標準化』といいます。
そしてそうした標準化によって優れた評価を受けた有名な事例がマクドナルド社のアルバイト向けマニュアルですよね。
なんでもかんでもマニュアル化することが良いとは言いませんが、ガイドラインやマニュアル等を用意しておくことで、組織全体の業務品質の下限値は確実に向上します。
質の上限値にはなにも寄与しないかもしれません。
ですから既にベテランや優秀な人にとっては無用の長物かもしれませんが、ガイドラインやマニュアルの質があがり、その周知・徹底度が向上すれば間違いなく質の下限値は上昇します。毎年、新卒採用/中途採用などを行っている企業であれば、こうした活動の徹底はベテランや優秀な人材に育つまでの間、とても重要な役割を担っていることでしょう。
ビジネスコミュニケーションにおける伝えるべき7つの「具体」
具体的に伝えることの重要性が理解できたら、次はビジネスの場面においてどのような"具体"を伝えればよいかを把握しましょう。ビジネスにおいて伝えなければならない"具体"はたとえば以下のようなことがあります。
根拠
なぜそうしなければならないのかの根拠を伝えましょう。
先の例でいえば、見積書を今日中に出す根拠を明確に伝えるようにしましょう。
具体例
具体的な事例を伝えましょう。
「トラブルが無いように」というあいまいな"抽象"ではなく、見積書で過去あったトラブルの事例を伝えることでより明確に認識できるようになります。
目的
目的をしっかりと伝えましょう。
たとえば見積書の目的は「内容に合意いただくこと」、そして「スコープ(金額と項目)を明確にすること」です。目的を満たさない限りはどんなに努力しても無意味です。努力量だけでは評価されない…というのはまさにこの点にあります。目的に適った努力でなければなりません。
全体像
全体像を伝えるようにしましょう。
全体像はより抽象的なレイヤーに感じるかもしれませんが、ここでは"具体"です。
見積書を送ることは、お客さまから受注をもらうという営業プロセスのどの場面なのかを知ってもらわなくてはなりません。全体を知るからこそ、今自分がどこにいるかを把握することが可能になるのです。まさに地図のような役割ですね。地図もなく今どこにいるかもわからなければそれはただの迷子です。
納期
期日を明確に伝えましょう。
「今日の17時までに」というように、具体的な時間まで伝えることが重要です。
たとえばソフトウェア開発業界あるあるの1つに「"今日中"といえば日付が変わるまでを指す」と言う解釈をすることが多い…なんてものがあります。しかし、実際にはそんなことをされると相手にとっては翌営業日まで確認できないので、実質"明日まで"と言っているのと変わらなくなってしまいます。最低限、時間までは指定しないとこうした齟齬が当たり前のように起きてしまいかねません。
クオリティのレベル
クオリティはどの程度必要かを伝えましょう。
「ミスが一つも無いレベルにして欲しい」というように、どの水準までやればいいのかを伝えます。
メジャーメント(成果の指標)
ビジネスにおける結果や成果の指標を伝えましょう。
先の見積書を例に挙げれば「受注が出来ることなのか」「後々トラブルにならないレベルにすることなのか」、どのような結果を成果の指標とするのかを明確にしましょう。具体的に伝えればより「明確さ」を確保できるため、コミュニケーションの目的である共通認識を得られる可能性は高まります。
コミュニケーションの責任を双方が持つ事の重要性
コミュニケーションをより確実なものにするためには、送信側と受信側の双方がより高いレベルで「責任」を持つことです。
送信側(伝える側)には「あなたの言葉を相手がどのように受け取るか」に対して責任を持つ必要があります。相手に正しく伝わるような配慮を行うことや、きちんと伝わったことを確認することも伝える側の責務です。
一方で、受信側(受け取る側)は「相手の言葉が何を意図しているのか」を確認する責任があります。誤った認識のまま進めていい理由はありません。認識が誤っていないか確認することは責務の1つです。
双方の責任意識が高まれば、より誤解は少なくなります。
大切なことは、お互いがコミュニケーションの結果に対して責任を持つ事です。
誤解が生じた場合は自分の問題として、双方が捉えられる関係でいることが重要です。
他方に対して一方的に責任を押し付けることは、ビジネスコミュニケーションにおいて正気の沙汰ではないのだと認識しておきましょう。
そもそも信頼関係が壊れているとコミュニケーションが機能しない
コミュニケーションの前提は"信頼関係"です(信用ではなく信頼。過去の実績ではなく、普段からの日ごろの行いと意識の積み上げによる"信"です)。
そもそも信頼関係が成立していない状態では、相手の受け取り方が変わります。
好意的に受け取るのか、懐疑心を抱きながら受け取るのかで結果が変わるのは理解できるでしょう。いくら具体的に伝えても、それを受け取る土壌が無ければあなたが努力したコミュニケーション自体が無駄になってしまいます。
コミュニケーションが壊れれば当然それによってビジネスの結果が悪化します。
しっかりと相手に愛情を持って接することがコミュニケーションの基礎であり、それによって信頼関係が構築できるのです。ただの上下関係だけで、相手に信頼を与えず、相手を信頼せず…という状況のまま適切な集団活動は成立しません。長く信頼関係を構築できないままでいると、いずれは下位メンバーの離散を招くことになります。
さらに言えば、コミュニケーションの本質は関係性を築くことです。
コミュニケーションの土壌は、すべて信頼関係の上に成立するのだということを強く意識しておきましょう。そしてそこから始めないとビジネスコミュニケーションの『質』は絶対に向上することがありません。
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