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業務システムのユーザビリティ
昨今、UI/UXと言う言葉などがもてはやされて久しいものですが、UXはともかくUIなどはかれこれ30年以上も前から重要視されてきた非常に大切な品質特性の1つです。
そのことに向き合おうとせず、いまだに「UI、UI」と取り上げられているのはやはり「モノづくり」ばかりに焦点が集まりすぎておろそかにしてきたからではないかと思う部分もあったりなかったりします。
実際、コンシューマー向けのシステムに比べて業務系のシステムはデザインからして微妙なものも多く、使い勝手が悪いという一言であまり活用されなかったシステムというのもたくさん見てきました。3000万のシステムが一ヶ月も使われず放置された…なんてシーンも見ました。機能要件を満たしていたとしても、こうしたことは往々にしてよくあることです。
現在でもそうですが、いわゆるテスト工程においてユーザビリティを確認している業務システム系の開発プロジェクトなんてどれほどあるでしょうか。私がこれまで見てきた大小含め100以上のプロジェクトでも、数えるほどしかなかったと記憶しています。
業務システムに対してはデザインを含むUIにあまり重要性を置いていない…というユーザー企業も多いようですが、それもITベンダーに接点を持つ窓口担当者がそうであるだけで、利用者にしてみればユーザービリティが高い方がいいに決まってます。
だからこそ「納品した後、使い勝手が悪くて、結果的に使わなくなっていた」システムの大半はこのユーザビリティ(使用性)の低さによるものと言われているわけです。
もちろん、ユーザビリティの低いシステムしか作れないITベンダーは「ただ機能要件を満たした」だけでしかなく、顧客満足度の何たるかを理解しないままですのでいずれ顧客からも見放されてしまいかねません。なぜなら、どんなに機能要件だけを遵守していたとしても費用対効果のあるシステムとはお客さまから認めていただけないからです。
そもそも、業務系システムの最も求められている要求は
「楽にビジネスをしたい」
ということです。
これを「生産性の向上」や「業務効率化」などときれいに言い換えても求めていることは基本的に同じです。だからお客さまにとって「どれだけ楽になるか(なったか)」という最終目的に対する貢献が見られないシステムは全て駄作にしかなりません。
機能的に充足したシステムが欲しいのではなく(それももちろん必要ですが)、それ以上に「楽ができるかどうか」が重要なポイントとなるのです(ひいてはそれがお客さまのビジネス競争力の向上であったり、売上/利益の向上に関わってくるのですから)。
これがわかっていないエンジニアは、いかに素晴らしい技術を持っていても三流です。どんなに優れた技術を駆使しても、顧客のニーズを全く理解していないまま作られた製品やサービスは無用の長物でしかありません。
そんな無用の長物を作っておいて自慢げに7~10…11桁の金額を請求すること自体、エンジニアとしてまたIT企業としては失格と言わざるを得ないでしょう。
ユーザビリティとはなにか?
これについては様々な立場の人から様々な意見が出ていますが、個人的にはやはり国際標準で定められている定義を用いるのがもっとも正しい解釈なのかなと考えます。
特に不特定多数が利用することを前提としたウェブシステム開発においては、ユーザビリティを意識することが重要です。
国際規格 ISO 9241-11「Guidance on Usability」では、ユーザビリティを
「特定の利用者が、特定の利用状況において、
特定の目的を達成するために、
ある製品を用いる際の有効性、効率性、満足度の程度」
と定義していますが、簡単にいえば「使いやすさ、利便性」の延長線上にあるもののことであり、ユーザーにとっていかにストレス(摩擦/抵抗)が少ないかということを意味します。
ユーザビリティが注目される理由は、使い勝手の悪いWebサイトではユーザーの獲得と定着が困難であり、いわばユーザビリティが
「Webサイトの生命線」
となっているからです。実際、ソフトウェア品質のなかでもユーザビリティはとても重要な品質特性の1つとして取り扱われていますが、この観点が実際のソフトウェアテストや評価、分析に取り込んでいるIT企業というのはごくわずかです。
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一般的にユーザビリティは、
アクセシビリティ(閲覧可能性)
ナビゲーション(情報誘導性)
アカウンタビリティ(説明責任)
シンプリシティ(簡潔性)
の4つの要素からなりたつといわれています。
アクセシビリティ
アクセシビリティ(閲覧可能性) とは、どのようなユーザーも…つまり誰でも問題なくそのウェブサイトを閲覧できることであり、ユーザビリティの要素の中で最も重要とされています。
たとえば、ブラウザやOSの違いによる見え方についても重要ですが、それ以上に、
視覚や聴覚に障害のある人にコンテンツをどう表現するか
四肢に障害がありマウスなどのポインティングデバイスを使えない人が
ストレスなくブラウジングできるかどうか
など、アクセシビリティに関する問題は非常に多岐にわたります。
従来のHTMLだけでは、作成者がアクセシビリティの問題に対処するのは困難でもありましたしブラウザも機能的に不十分でしたが、現在では完全とはいえないまでもそれ相応の対処が可能です。
アクセシビリティを考える際の指針となっているのは、W3C公表の「ウェブ・コンテンツ・アクセシビリティ・ガイドライン」(WCAG) です。WCAGではアクセシビリティのチェックポイントを優先度1から3までに分けて規定していますが、文章デザインの観点からは
「画像などに代替テキストを指定すること」
「そのサイトの内容に合わせて最も明瞭で簡潔な文章にすること」
といった規定が特に重要とされています。
また、少し古い話ですが政府系機関のアクセシビリティについては、アメリカでは「リハビリテーション法508条」で障害者にとってアクセシビリティの低いウェブシステム開発が認められなくなりましたし、日本でも経済産業省の「情報処理機器アクセシビリティ指針」や、総務省の「電気通信アクセシビリティ指針」で一定の基準が策定されています。地方自治体レベルで独自のガイドラインを策定しているところもあります。
その結果、様々な機関のなかでもアクセシビリティについては秘かに重要視されるようになってきました。
私たちエンジニアの目線から言えば、応用情報技術者試験などでも取り扱われていたこともあったので比較的なじみがあるのではないでしょうか。
Webシステム開発者は、コンシューマーユーザーの立場に立ってコンテンツを作成するのは当然ですが、ビジネスユーザーについても同様であることを知っておきましょう。
現在では厚労省が定める「障害者雇用制度」などもあり、一定のアクセシビリティに関する配慮がビジネスユーザーの中でも必要条件となっています。
さらにWeb標準に準製してコンテンツを作成する上記のガイドラインを参考にチェックリストを作成し、複数人でも統一的にアクセシビリティの高いコンテンツを作成できるようにするといった工夫が求められます。
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ナビゲーション
ユーザビリティの2つ目の要素は、ナビゲーション(情報誘導性)です。
Webサイトは本や雑誌などよりも「断片的・直感的」です。ゆえにユーザーの直感的な判断を支援し、適切にWebサイト内を誘導するのがナビゲーションの役割なのです。
ナビゲーションには、大別して意識レベルと操作レベルの2つの局面があります。
■意識レベルでのナビゲーション
これはWebサイトのコンセプ卜を明確に示したり、わかりやすいタイトルやキャッチコピーを前面に出すことでどのようなコンテンツがあるかをユーザーにあらかじめ類推させることです。
ユーザーはその文章を見ただけで、欲しい情報が入手可能かどうかをある程度判断することができなければなりません。
基本的には、上記のように文章表現を工夫することで意識レベルでのナビゲーションが促進されますが、サイト構造の簡潔さやデザインの統一感も意識レベルでのナビゲーションにとって非常に重要と言えます。
■操作レベルでのナビゲーション
リンクやボタンの配置など、ユーザーがWebサイトを見て実際にマウスをクリックする、あるいはキーボードを押す時点でのナビゲーションです。
「操作性」という言葉に置き換えることができるでしょう。
すべての画面にナビゲーションバーを設置したり、ユーザビリティの高いレイアウトにすることで操作レベルでのナビゲーションを格段に高めることができます。
「ナビゲーション」というと操作レベルのみが考えられがちですが、操作レベルでのナビゲーションの良し悪しは具体的に目で見て判断できるので、
ぺージレイアウトを変える
ボタンの位置を調整する
一見してリンクだとわかるようにリンク文字の色を変える
など、改良するのはそれほど難しくはありません。
これに対し、意識レベルでのナビゲーションはかたちに現れるものではないため操作レベルでのナビゲーションよりも改善するのが難しく、有効な解決策を多数の人間で共有することが困難です。
しかし、往々にして意識は操作に優先するという事実を認識する必要があります。
たとえば、「美昧しいイタリア料理が食べたい」「ケーキの食べ放題に行きたい」と思ったときに多くの人がグルメサイトや外食情報サイトにアクセスするのは、意識レベルでこれらのサイトはグルメ情報が充実しているという判断を下しているからです。
つまり、情報の取捨選択はまず意識レベルで行われるということです。
したがって、操作レベルでのナビゲーションを工夫するだけでなくユーザーがスムーズに情報を取捨選択できるように、意識レベルでのナビゲーションを改善する必要があります。
これにより、Webサイトのブランドイメージを向上させ、ユーザーを増加させることが可能となるのです。
アカウンタビリティ
ユーザビリティの3つ目の要素はアカウンタビリティ(説明責任) です。
Webシステム開発の観点からは「まず新着情報などをきちんと公開すること」、たとえばどのコンテンツを追加し、どのコンテンツを変更したかを明示することが重要です。
新着情報はトップページで最近のものを公開し、あわせて過去の新着情報(更新履歴)へのリンクを設置するのが一般的です。
頻繁にそのサイトにアクセスするユーザーは、新着情報によって追加・変更されたコンテンツのみをピックアップできるという実用的なメリッ卜もあります。
また、圧縮した大容量ファイルをダウンロードさせる場合や、文書ファイルをPDF形式で提供する場合には、「ゲートウェイページ」(ダウンロードファイルの情報を提供するページ)を用意し、そのファイルが何キロ(何メガ)Byteのデータなのかをきちんと明示しておくことも、アカウンタビリティの最たる例であると言えるでしょう。
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ゲートウェイページでは、必要なプラグインやソフトウェアのダウンロードページへのリンクもあわせて設置するようにしましょう。これによりユーザーはそのファイルのタウンロードにどのぐらいの時聞がかかるか、どのプラグインやソフトウェアを使うのかをあらかじめ知ることができます。
アカウンタビリティを高めるためには
各ぺージにヘルプやFAQ(Frequently Asked Questions、よくある質問と回答)、プライバシーポリシー(個人情報の利用指針)、免責事項、お問い合わせフォームなどの補助情報へのリンクを設置しておくことや、著作権情報を明記しておくこともそのサイトのアカウンタビリティを高めるのに役立ちます。これらは各ぺージのフッター(最下部)に統一的なレイアウトで記載するのが一般的です。
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多くの企業サイトがこのようにしていることから、ユーザーの意識レベルでは「同じようにフッターに設定している」と考えがちです。その点を無視して奇抜なアイデアを取り込もうとすると(面白くはあるのかもしれませんが)ナビゲーションとしてはランクが落ちてしまうことになりかねません。
アカウンタビリティがしっかりなされていないと、ユーザーはそのサイトあるいはシステムに不信感を抱きます。信頼感の高低がそのまま売上に直結するオンラインショップなどでは、アカウンタビリティには特に注意します。
上場企業が取引記録を集約してIRデータとして公開するのと同じように、Webサイトでもユーザーの不安を取り除くための情報をきちんと明示/開示する必要があります。
アカウンタビリティの向上にはトップダウン型の発想ではなく、ユーザーの目線から
「コンテンツが理解しやすいか」
「情報に過不足はないか」
などについて、広く意見を募りながら改善を進めるボトムアップ型の発想が不可欠となります。
たとえば、Webシステムの開発者や責任者だけでアカウンタビリティをチェックするのではなく、顧客の中でも特に利用頻度の高い各部署にインタビューしたり、ユーザーからの問い合わせを社内で共有してサイトをどう改善すればよいかオープンに検討するといった方法が有効となります。
シンプリシティ
ユーザビリティの最後の要素はシンプリシティ(簡潔性) です。
Webサイトのコンセプ卜、テザイン、テクニック、コンテンツすべてにいえることですが、シンプルであることはそのままサイトの価値を高めることにつながります。
「明確なコンセプト」
「簡素なテザイン」
「簡易なテクニック」
「平易なコンテンツ(文章)」
のすべてがそろっていればユーザーにとって非常に使いやすく、わかりやすいサイトである…ということになります。
また、Webサイトの複数人管理という点から考えても、ソースやデザインがシンプルであれば作業の手間が減り、ケアレスミスが少なくなるというメリッ卜があります。
Webサイトのシンプリシティに不可欠なのは、まず技術面ではウェブページの構造と見栄えを分離する…つまりHTMLでは構造のみを指定し、見栄えはCSSで指定するというルールを守ることです。
文章デザインの観点からいえば、構造とは「テキス卜の意味」であり、たとえばその文章が見出しなのか通常のパラグラフなのかをきちんと定義することです。
一方、見栄えとは「テキス卜の装飾」であり、たとえば視覚効果のためにテキストを太字にしたり、下線を引くことです。
「構造」と「見栄え」を明確に分離することで、Webページをシンプルにできると同時にデザインの自由度を広げ、アクセシビリティの高い画面作成が可能となります(「ふるまい」としてJavaScriptの分離も同様)。
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このようなことは、昨今のWebサイト構築を手掛ける企業であれば常識なことかもしれませんが、業務システム作成を生業とするSIerやITベンダーではおろそかにされていることは珍しくありません。
また、文章コンテンツについても、
「重要な情報のみを前面に出し、詳しい情報は詳細ページで公開する」
「重要なポイン卜は最初に書く」
「文章をリスト化してコンパクトにする」
など、ユーザーにとってわかりやすいシンプルな表現にすることが求められます。
しかし、特に技術面についてはシンプルさが行き過ぎると、単なる「保守」に終わる可能性があります。「シンプル・イズ・ザ・ベスト」はひとつの価値ある至言ですが、Webサイトの方向性はそれに限定されるわけではありません。
たとえば、テクニカルなサイトやグラフィカルなサイトなど、新たな技術や視覚効果の可能性を追求するためにあえてシンプルという枠から逸脱することが必要な場合もあります。
大切なのは、
『そのコンセプ卜をユーザーに明確に伝え、納得してもらう』
ことです。これができていない限り、どんなに高度な技術を駆使しても、どんなにもの珍しいデザインを用いても、ただただ奇抜なだけで目的を達成するための使い勝手からは遠ざかっていくだけです。
これは取りも直さずアカウンタビリティの役割で、かつ私たちB2B向けの開発をするエンジニアすべての役割であり責任でなくてはなりません。
そして、アクセシビリティやナビゲーションがしっかりとしていなければ、
ユーザーにそのコンセプトが伝わらない恐れがあります。つまりユーザビリティの4要素はそれぞれ相互補完的な意昧を持っており、ユーザビリティという胴体を動かす4つの車輪のようなものだといえるでしょう。
こうした概念を取り込んだ設計手法を、
「人間中心設計」
「ユーザー中心設計」
と言います。
国際規格では ISO 9241-210 で定義されている概念ですが、こうした着想と勉強がなければそもそも論的にUIやUXをただの小手先の技術ではなく、本質的なものとして身につけることは難しく、ただの自己満足的な設計しかできなくなってしまいかねません。
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