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コンプライアンスを正しく理解しよう

本来、上場したかどうか(金商法に準ずるかどうか)に関わらず、社会的に独立した組織である以上はコンプライアンスを徹底することが至極当然のことではあるのですが、

 「コンプライアンスとはなんぞや?」

と聞かれて正しく答えられる経営側(管理職も含む)の人間…というのは案外少ないものです。

最も理解していない人は「???」となります。
形骸化した情報しか知ろうとしない三流は「法令順守」と訳します。
一応なんとなくでも理解している二流であれば「ルール全般」というかもしれません。

ですが、それだけでしょうか?

せっかくですのであらためて『コンプライアンス』について見直してみましょう。

働き方改革を誘引した様々な事故・事件にあるように、近年企業モラルの低下が著しく、あらためて

 コンプライアンス

という概念が日本のビジネス界でも定着しつつあります。

これは直訳すると、確かに法律や倫理などに従うこと…即ち『法令遵守』という意味を指しますが、文脈に応じて従うべきルールが変動するという混乱を招いています。

もう一度言いますが、ビジネスで用いられるコンプライアンスは直訳すると「法令遵守」のことではあるのですが、そもそも法が遵守すべき対象となる背景を正しく理解していれば、「法」だけ守ればいいというわけではないことが嫌でもわかります。

厳密にいうと

 「企業活動において社会規範に反することなく、
  公正・公平に業務遂行すること」

をいうのです。そのなかの最もわかりやすい例として法令を指しているにすぎません。この守るべき"法"と"令"に揺らぎがあり、『法律を守る』という他に『(社内規定を含む)ルールを守る』『社会倫理を守る』そして『社会貢献の遵守』という意味などが含まれることを意味するわけです。

そして法も、ルールも、倫理においても、それらを遵守することを徹底する姿勢はすなわち

 「約束を守る」

ということに他なりません。特に日本のビジネス界において求められているコンプライアンスは、法律のみならず顧客や社会に対して信頼を構築し、誠実な仕事を行うということと言われています。「法に反しなければいい」というわけではありません。

もし、法に反しなくていいだけなのであれば、いくつかのハラスメントは許されることになります。いまだすべてのハラスメントに対して法律が整備されているわけではないからです。

このことからも、

 "法令順守" ≠ 法を守りさえすれば何をしても許される

ということがわかります。

冒頭にコンプライアンスの概念図があったのを覚えていますでしょうか。
そもそも、この図がすべてです。

これは、本来一人ひとりに「倫理」があればそれで問題がないはずなのに、その倫理を持たない者がいるから仕方なく「規範」という形で明文化し、わざわざあるベクトルを示す必要が生じるわけです。しかし「規範」すら守ろうとしない人が出てくるからこそ、そうした人たちが問題を起こす前に「法令」によって強力な予防線を張らざるを得なくなったのです。

みなさんは覚えていますか?

「あおり運転」が法によって厳罰化された背景にあった痛ましいニュースを。

「倫理」を無視し、「規範」を軽視した結果、宮崎被告はあおり運転や殴打などを含む3つの事件で、強要と傷害の罪に問われました。

つまり、法令にして強制力を発揮しなければまともに倫理や規範も守れない一部の大人たちのせいで

 「法令によって厳格化したんだから、お前らこの程度のこと、普段から守れよな」

と呆れ顔で言われているのがコンプライアンスの正体です。先述のあおり運転についても、もしも1.3億人の日本人の中で、宮崎被告だけが異質でほかの人はだれもやらないようなことなら、おそらく厳罰化はされなかったでしょう。そうではなく、今後も多発する恐れがあったからこそあえて厳罰化が行われたのです。

ちょっとまともな人間なら「規範」で守れます。
もっとまともな人間なら「倫理」で守れます。

法令にまで昇格されたコンプライアンスというのは、いわばその程度のことも守れない大人が一定数存在するがゆえの人間の「恥」なのです。

このことが理解できない企業は、たとえば記憶に新しいところで

と言ったことを引き起こします。

いくら弁護士を呼んで「法的には問題ありません」と叫んだところで、世の中の大多数を占める『社会』がそれを許さないケースってありますよね。法的に問題がないとするだけで、ルール、倫理、約束、etc.…多角的な意味でのコンプライアンスは何一つ解決していません。

法律は確かに必ず遵守すべきものではありますが、法律に抜け穴が無いわけではありません。社会的な信用、および信頼を得ていくためには法律"だけ"ではすべてをフォローしきれないのです。

コンプライアンスという言葉の使い方としては、次のようなものがあります。

「当社でもそろそろコンプライアンス体制を整える必要がある」
「グループ企業との不透明な取引はコンプライアンス上問題となる」
「現代の企業はコンプライアンスを常に意識した行動が求められている」
「杓子定規なコンプライアンス対策は社員に混乱を生むこともあるので、詳細なルール説明と納得のいくルールの設定が不可欠だ」

またコンプライアンスは「法令を遵守する」という意味であって「法令」と言う言葉ではありませんので、「コンプライアンスを遵守する」という言葉は存在しません。「頭痛が痛い」と同レベルの国語レベルと思われてしまいかねません。

コンプライアンスの意味だけでなく、正しい使い方も理解しておいて特に部下や後輩などのコンプライアンスに対する意識がまだ十分でない可能性のある従業員にしっかり伝えてあげるといいでしょう。

コンプライアンスが重視される理由

「質」への転換が求められている

日本はバブル期までに急速な経済成長を経験し、豊かな国のうちの一つに仲間入りをしました。そのような国の場合、一定の経済的余裕が担保されるとビジネス倫理や顧客満足などの「質」への転換を求められます。

実際、経済成長を第一義にする企業は軒並みブラック企業化する傾向がありました。そうした倫理観の欠如した社会に対するアンチテーゼとして出てきたのが「コンプライアンス」という概念です。また企業活動の質を向上させることで既存の顧客の定着度が上がり、社会的信頼を構築することができます。これは新規顧客の獲得を容易にするとも言えます。

逆に「ブラック体質」の企業や組織においてその体質の原因を作っている存在は、まずまちがいなくコンプライアンスを軽視・無視しています。もちろん倫理や規範だけではありません。ブラック体質=法令すら軽視しているはずです。

世界共通ルールを遂行する必要がある

企業活動のグローバル化によって海外の企業との取引が多くなると、共通尺度として世界のビジネスルールを守る必要性が出てきます。自社だけのエゴを通すことはできません。

それは多くの場合、アメリカ的な意味でのローコードを守るということと重なっています。そこにおけるコミュニケーションは「ローコンテクスト」と呼ばれるもので、

 クライアントと共有されている文脈が少ない

という前提のもとで納得のいく説明および説明能力が求められます。
これを遂行することが信頼につながります。

またそのビジネスやプロダクトは

 「社会的意義があるもので」
 「社会的倫理を守りながら」
 「公正・公平に」

取引をする必要があります。これらの抽象的概念は、人によって認識が異なることがあるので社内での議論や熟考が必要とも言えます。

多少なりともモラルがあれば、こうしたことは「何を当たり前な…」と思うかもしれませんが、数字ばかり追いかけるようになるとこうした常識すらもまともに施行することができなくなってしまう経営者は多いものです。だからこそ、業界全体がブラック化するような時代があったのです。

現代においても40台後半以降のビジネスパーソンは「ブラック」が当たり前の環境で育ってきた人もいるでしょう。その文化を継承し、今のご時世においてもまだそうしたやり方を強制するような人は数えきれないほど存在しています。

また、経済的成長至上主義的な考え方の人あるいは部署や企業などではかならずこのコンプライアンスの抽象的概念と反発します。ですから、より多く、より高くと言った「売上」「利益」ばかりを目指していると確実に社会および社内の人心を失っていくことになるのです。


コンプライアンス違反の例

クレーム対応

クレーム対応を含む企業活動というのは基本的には個人の対応ではなく、会社としての対応としてなされるべきです。そこで業務に従事する社員一人ひとりがそれぞれ異なった対応を行うようでは、企業に対する信用を失ってしまいます。

そのため個人的な判断をしたり、統一性のない顧客対応はコンプライアンス違反となる可能性があります。

特に、

 ・相手によってコロコロ態度を変える人
 ・その時々によって言ってることや行ってることが違う人
 ・主観的な判断ばかりで客観視できない人

は要注意です。一人ひとりが「企業の信頼を背負っている」という意識のもとでクレーム対応をするように心がけましょう。

また、問題が起きた際、問題を起こしたのは「人」であっても、問題自体の根本的な原因はその人が行った「やり方」にこそあります。そして、問題の解決と改善は「やり方」そのものを変えることでしか達成できません。

にもかかわらず、「人」にばかり責任を求める企業は、

 "企業自身の責任も果たそうとせずに、社員に責任を押し付けるような会社"

という評価を社会的に受けることになります。

無理なコストダウン/見積りアップ

「自社さえ利益を出せば取引先はどうなっても構わない」

という意識はコンプライアンス違反になる可能性が高くなります。

たとえば、独占企業が下請け会社に対して無理なコストダウンを要求したり、権力による脅迫などをしてしまうとコンプライアンス規定に違反する可能性が高いと言えるでしょう。

ここではどうすれば社会的に最適になるか、どうすれば取引先と自社の双方にとって最適になるか、ということを念頭に置いて仕事をしましょう。

Win-Winという関係構築は「夢想にも近い理想」とも言われていますが、志自体を持たなくなってしまうとただの守銭奴に陥ります。客を金づるとしか思わなくなってしまうのです。みなさんはお客さまの立場に立った時、そのような企業に仕事を依頼したいと思いますか?

私たちITサービス産業は、モノづくりを主体としながらも製造業ではなく、あくまでサービス業の1種ですので、その点を忘れず『顧客満足』が最優先になって、その顧客満足度の結果から副次的に収益につながるようなビジネスモデルになっていなければ長続きしません。

粉飾決算

近年特に厳しく、会社の倒産にまで及んでしまうコンプライアンス違反の例は粉飾決算・不適切会計です。

会社が意図的に不正な会計処理を行う粉飾決算の問題は、社会的責任の強い上場企業において特に取り上げられることが多いのですが、上場企業に限らず一般企業においても取引先や消費者の信頼を大きく損なう行為となるため特に気をつける必要があります。

機密情報の漏洩

社内で行き交う機密情報や取引先などの個人情報を、第三者など社外の人に流すこともコンプライアンス違反になります。

また未公開情報を家族や友人・取引先等に流すとインサイダーとなり、それらに株価に影響を与えかねない情報が含まれていた場合には、情報を利用して証券取引を行うとインサイダー取引となって犯罪行為となってしまいます。

もちろん情報を与えた側…つまり漏洩させた人、および漏洩に対して対策を打たなかった部署、企業に対してもその意思があったか無かったかに関係なく、犯罪加担行為としての責任が問われることになります。

私たちが在籍するIT業界では、システムを構築するうえで既存システムのデータを取り扱うことがありますが、お客さまの資産である「データ」には大小さまざまな機密情報が含まれています。会計情報もあれば、企画情報などもあるでしょう。またログインユーザーの情報などは個人情報として相当厳しい取り扱いをしなければなりません。

案外、個人情報保護法に詳しくないエンジニアも多いため、「マスキングすればいいんでしょ?」みたいな軽いノリでお客さまさえも騙して個人情報を適当に抜き出そうとすることがあります。

マスキングしたものを正式には「匿名加工情報」といいますが、そう判定するには適切な条件を満たさなければなりませんし、そもそもそのマスキングをデータを渡した後にするのか、加工した後に渡すのかでも第三者提供のルールが大きく変わってきます。

モノづくりだけ知っていればシステム開発ができる…なんて、軽々しく考えるべきでありません。自分たちが取り扱っているモノがなんなのか、すべて正確に把握しておく必要があります。

業務に必要な情報、顧客に提供すべき情報の不足

たとえば営業などで仕事をする際に、業務や取引に必要となる情報を持っていない場合にコンプライアンス違反となるという例です。

また「不完全情報ゲーム」と言われるような、自社利益の優先のために顧客に必要な情報を知っていたにもかかわらず流さないということもコンプライアンス違反となります。

特に金融機関では投資商品を販売するにあたり、契約前の事前説明をしっかり行うなど
「知らなかった」というケースを未然に防ぐ対策も立てられています。
「知らなかった」からと言うのは言い訳にもなりません。

「知るためのプロセスが確立されていなかった」
「知らなければ契約完了する計画も立たないのに、知ろうとしなかった」
「知る努力が不足していた」

これらはすべて社会的信用を受けるべき企業の姿勢ではないものとして、コンプライアンス違反となる場合があります。営業員自体が勉強不足で伝え漏れがあった場合にもコンプライアンス違反となり、同時に顧客からの信頼が得られず取引が成立しない可能性も高いでしょう。

コンプライアンスに従って仕事をするのは、企業を存続するために売上を確保すること以上に重くのしかかっている企業責任です。

言い換えれば、コンプライアンスを軽視し、国に、社会に、社会を構成する従業員に対して誠実でない企業に存続する資格はないと言うことです。

そして、企業とは「社員」という一人ひとりの人間の集まりでできています。

すなわち、社員一人ひとりがそのことを理解し、”健全な企業活動”を行うことが必要とされているのです。これができないのであればその人は社会人不適合者であり、ビジネスを取り扱う資格がないということになるでしょう。

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