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再発防止に努める「U・ボート」

子どもの頃の記憶はなぜか月日が経っても鮮やかなものだ。一人で留守番をすることの多かった僕は、いつもテレビの下に積んであったビデオテープ(VHS)の映画を鑑賞していた。その中でも特に印象に残っている一作が「U・ボート」だ。
この映画の舞台は、第二次世界大戦の海の中。ドイツ海軍の一隻の潜水艦の物語だ。ドイツ語で潜水艦のことを Unterseeboot (海の下の船) 略して U-boot という。この映画はタイトルの通り、ある潜水艦の出撃から沈没までの物語をただひたすら撮り続けた。1981年にドイツで公開されて以降、ヨーロッパをはじめアメリカでもヒットした戦争映画の名作のひとつだ。
索敵の時の緊張感が静かな艦内によって際立ち、子どもの僕は乗組員たちの気迫にただ圧倒されていた。テーマ曲の旋律をはっきり記憶しているのも、あの張り詰めた空気からひとときでも解放されたシーンの高揚感ゆえだろう。ちなみに「U・ボート」の音楽を担当した人物は「ネバーエンディング・ストーリー」も手がけたジャズ・ミュージシャンである。
さて、こうした映画は人間の愚かさ (Heart of Darkness) を大人に再確認させるとともに、子どもには「こんなことが本当にあったんだ」と考えさせる。Netflixでアニメばかり子どもに与える暇があるなら、戦争映画を見せるべきだ。大日本帝国海軍の潜水艦は、出撃したうちの八割以上が沈没である。映画より悲惨な結末を迎えた若者たちが山ほどいるのだ。
こうした戦地での状況に追い込まれる原因は、この列島では召集令状が多かった。つまり政府によってシチュエーション・スリラーに放り込まれたようなものだ。最近、映画界で流行りの”シチュエーションもの”は犯人によって困難な立場に置かれるのだが、無謀な作戦シチュエーションに若者を放り込んで200万人以上を犠牲にした我が国の行政は、自らを”犯人”だと今日の教科書で自白しているか。
映画において、ナチスはこれでもかというほど題材にされている。ところが、ミッドウェイも硫黄島も沖縄戦も、映画にしたのはかつての連合国だ。我々は失敗の本質を見ずして、どうやって得意の”再発防止”に努めるのだろう。

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