見出し画像

コピーライターによる言語化と「言葉を使った整理」について

言語化について言語化してみるよ。

「言葉を使った整理・企画・表現各種」

コピーライターとして独立開業する際、スコピーのタグラインとして「言葉を使った整理・企画・表現各種」というのを使うことに決めた。このフレーズはもともと独立より少し前、コロナが始まった頃にTwitterのプロフィールに書いたもの。

ほら、コロナの初期ってたくさんの人が自分の仕事の本質なんかを見直しがちだったでしょう。で、おれもまだ勤め人ではあったけれど「コピーライター、定義が仕事のくせに自分の職能を定義できていない問題」というのを常々思っていて、じゃあ何なのよって考えて、こう書いたのだった。ところで何かを定義づけるコピーのことをタグラインと呼びます。まあ、このフレーズは定義づけというか、業務内容の説明のようなものだけれど。

で、このタグラインは名刺にも入れているのだが、おかげさまでわりと評判がいい。特に同業者に褒められることが多い。

ウケるポイントはみんな同じ。「整理」だ。

語られることが今まであまり多くなかった、でも大事だよねと多くの人が感じていた、ということなのだろう。整理のプロセスは制作の前にあって当たり前の下ごしらえで、たとえば料理人が「毎日、たくさんのジャガイモの皮を剥くところからが私の仕事です!」とことさらにアピールしないのと同じ感覚だったのかもしれない。けれど実は、そこの品質が時と場合と人によって大きく違うということ、そして整理の品質はその後の制作物の品質に大きく影響するということ、つまりは、整理は商品になる、ということをおれは思っていたのだった。

ありがたいことに、この「整理」が気になってお声がけいただいたケースもある。あー、自分のコピー、ちゃんと作っといてよかった。紺屋の白袴にしなくてよかった。


言語化と整理

ところで、コピーライターの仕事って何だと思われているのか。

よく知らない人に対して手っ取り早く説明するときは「広告の言葉部分を担当する」という言い方になる。テレビCMや新聞広告、ポスターみたいなものがわかりやすい。キャッチフレーズが目立つし代表的だけれど、その後に続く長めの文(ボディコピー)もだし、それ以外の商品説明文なんかも書くし、場合によっては商品自体の名前(ネーミング)を考えることもあるよ、みたいなところだろうか。出版物の記事を書くライターとの違いも、だいたい同じように説明することが多い。そういう意味で、この言い方は普通に有効である。

ところが実際には、コピーライターは広告以外の言葉も担当する。それは例えば、企業のスローガンや企業理念というものだったり、商品やブランドのコンセプトだったりする。ステートメントと呼ばれる、お手紙のようなメッセージも書く。さらにいえば、企画書や打ち合わせ資料の中だけで使われて世の中には姿を見せない言葉というのもある。事業に関わる言葉づくりを幅広く担うのが、コピーライターなのである(と、おれは思っている)。その求めは近年、ますます高まっているように感じられる。

特に広告以外の領域においては、コピーライターの仕事をまとめて「言語化」と呼べるかもしれない。「そうそう、そういうことが言いたかったのだ!」というのは、コピーライターに対する最上級の褒め言葉のひとつだ。コピーライター自身が表現したいことではなく、素材はあくまで相手の中にある。相手の中にあったけどまだ言葉にされていなかったこと。議論や思考の混沌の中に目印となる旗を立てるようなこと。

コピーライターの仕事のひとつは、クライアントの課題解決に貢献する言語化。

じゃあ、言語化ってどういうことなんだっけ?


言語化のプロセスを分解すると

こうなる。

「言語化」というと(2)だけ、または(4)だけのイメージが強い気がする。「言葉のプロにおまかせして…」といった言われ方をするのはこの領域だ。けれどその前後も含めて、クライアントのモヤモヤがクリアになるまでのプロセスあるいはテクニックを詳しく見ていくとこんな感じだ。

ひとつずつ説明していく。


(1)情報を収集する

言葉にできないといっても、ひとことも言葉になっていないということはまずない。むしろ、多すぎる言葉に埋もれてしまっているようなケースも少なくない。いずれにせよ、まずはじっくりその言葉に耳を傾ける。資料を読む。モヤモヤの中に分け入って、情報を仕入れ、相手が意識している事柄と、見逃されている事柄を等価に拾い上げていく。外部からの関与者としての視点が問われる。


(2)適切な語句に置き換える

目の前にある言葉の山、そのひとつひとつに対して、より適切な語句を当てていく。その過程で、違う言い方をしてはいるが実は同じことを言っているようなことをまとめたり、逆に同じ言葉を使ってはいるが違うことを言おうとしていることを切り分けたりする必要も出てくる。文章になることもあれば、ズバリ一単語で当てはまることもある。語彙力はもちろんだが、抽象化の力が問われる。


(3)関係を見極めて筋道を立てる

ひととおり適切な語句に置き換わった言葉たちを、どう並べ直していくかを考える。それは原因なのか結果なのか。それは目的なのか手段なのか。関係あるのかないのか、あるならどんな関係なのか。フラットに洗い出したうえで、さらに踏み込むのであればクライアントの課題解決というひとつの「目的」に向かって自然と思われる流れをつくる。論理的な思考力、構造化の力が問われる。


(4)イメージしやすく表現する

「それはコピーじゃなくて説明だ」というダメ出しがコピーライターにはある(つらい)。説明でも機能するならそのままでもよいのだが、より伝わりやすくなるように工夫を施す。その言葉を聞いた人が、そしてその言葉を発する人が、豊かなイメージを抱けるように。短文にまとめるのか、長文にしたためるのか、箇条書きにするのか。どこまで削ぎ落とし、どこまで飛躍させるのか。語呂や比喩の活用、言葉のたたずまいの調整、物語化などを行う。詩の力、ストーリーテリングの力、つまりは芸術的な力が問われる。


言語化にもいろいろ

ここであらためてスコピーのタグライン「言葉を使った整理・企画・表現各種」に立ち戻るなら

(1)〜(3)が「整理」で(4)が「企画・表現」になる。

(1)〜(4)すべてを行うこともありえるが、(1)と(2)だけで完了ということも、(1)と(3)だけとか、(2)〜(4)とかも、組み合わせはケースバイケースだ。もちろん(2)だけや(4)だけということもありえる。コピーライターが相談・依頼をうけた時点で、どこまで「整理」が進んでいるかによって大きく変わる。

と、ざっくり分類しつつ書いてはみたものの、実際はここまでキレイには進まない。行ったり来たりしながら、境界線はとけあい混ざりながら、情報と言葉と取っ組み合いながら泥臭く進む。そういうものです。

言葉にならないモヤモヤを抱えている企業の皆様。アートディレクター、デザイナーの皆様。ぜひコピーライターにお声がけください。言葉を使った整理・企画・表現で、きっとあなたのお役に立ちます。

https://sucopy.jp/

ということで、お声がけお待ちしております。


おわりに:この記事は何だったのか・言語化の先へ

スコピーの仕事の「言語化」や「整理」についての言語化を、このたび主に【(3)関係を見極めて筋道を立てる】のプロセスで行った結果がこの記事である。

そして、言語化によって議論や思考をスッキリさせて、現在地の見晴らしがよくなったところで、さらにまだ見ぬ地へと歩を進めていこうとするとき。そこでもまた、言葉が、コピーライターが、きっと力になれることを付言しておく。

見たこともない風景には言葉が真っ先にたどり着く

細田高広『未来は言葉でつくられる』


おまけに:『佐藤可士和の超整理術』の衝撃

2007年、既にイケイケのクリエイティブディレクター、アートディレクターとして、メディアに多数出演し業界外にも名を馳せていた佐藤可士和が、作品集以外で初めての単著として上梓したのが『佐藤可士和の超整理術』。デザイン論とか広告論とかブランド論とかじゃなくて、整理論。もちろん読めばそれが氏の仕事哲学と密接に結びついていることはわかるのだが、やっぱり当時はすげえびっくりしたし、むちゃくちゃクールなセルフブランディングですよねこれ。整理の価値、整理とクリエイティブの関係を前に出して世に知らしめた重要な本のひとつだし(外山滋比古『思考の整理学』もあるけど)、おそらくおれも本記事も多分に影響を受けているはずです。いい本。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?