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「The House in the Cerulean Sea」by T.J. Klune / レビュー

 The House in the Cerulean Sea / T.J. Klune

The House in the Cerulean Sea

by T.J. Klune

【作品情報】

ジャンル:ファンタジー、フィクション、LGBTQ+
出版:2020年(Tor Books)
受賞:アレックス賞、他
ISBN:9781250217318

キーワード:孤児、児童養護施設、ケースワーカー、魔法、島、LGBTQ+

【あらすじ】

主人公は魔法関連の業務を担当する中年男性のケースワーカー。お役所仕事が天職のような、ルールに従うことを良しとする性格で、なんでも真面目にきっちりこなす。その技量が認められ、とある児童養護施設を存続させるかどうかを評価するための調査に行くという大きな仕事を任された。その海に囲まれた島にある施設に暮らすのは、一風変わった孤児の子どもたちと謎めいた施設長だった。

【感想】


主人公は雨が多く灰色の空が続く内陸の町に暮らしながら、毎日家と職場を往復してルーチン仕事を繰り返す、ルール主義のお堅い独身40歳男性です。突然マネージメントからの大抜擢を受け、極秘任務の施設調査に送られます。その施設があるのは青い海と空に囲まれた島。主人公はそこでマジカルで奔放な子どもたちと出会い、変わっていきます。グレーだった主人公の世界に、少しずつ色が付いていくのが手に取るように感じられる物語でした。

雰囲気的にはレモニー・スニケットのような印象も受けたのですが、個人的に印象に残ったのは施設長の言葉選び。興奮したり怒ったりハメを外しすぎた子どもたちをなだめる時の言い回しが、すごく子どもに寄り添っているなあと思いました。抑圧も否定も持ち上げもせず、認める感じで諭していくので子どもたちも素直に聞き入れているような気がしました。そういうふうにしゃべれたらいいだろうなと思いながらも、そう簡単にできることではないですよね。

最初は彼らの「普通じゃなさ」を怖がっていた主人公も、彼らを少しずつ知っていくことによってフィルターを外していきます。変わった特徴があったり外見が違う人を仲間外れにしたり除外したりしようとするのは人間の性だけれども、ちゃんと相手の本当の姿を見て向き合おうとすることで、偏った先入観や接し方は変えられるんだよというようなメッセージを感じました。

途中にLGBTQ要素が少し出てきますが、著者のKlune氏は自身がクィアであることを公表しており、(この作品に限らず)物語の中でクィアの正しい姿を前向きに描写することに配慮している方です(公式HP参照)。本作は、そういう点も含めてのアレックス賞(※)なのかもと感じました。ご都合主義なところが多少なりともあったように感じましたが(町の人の態度の変化とか)、それを踏まえても、とても前向きで心温まるお話です。

※アレックス賞:「12歳から18歳のヤングアダルトに特に薦めたい大人向けの本10冊」に1年に1度送られる賞(Wikiより)

※5/2、一部加筆修正しました。


【訳書情報】

邦題:「セルリアンブルー 海が見える家」
著者:T.J.クルーン
翻訳:金井真弓
出版:2022年(オークラ出版)
ISBN:978-4775529973


#洋書

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