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【短編ホラー小説】短夜怪談「『天』の部屋」

同じクラスの同級生の家に遊びに行った時。
「トイレ行く途中に、襖に『天』て書いた和紙が貼ってある部屋あるけど、そこは絶対開けないでほしい」
と真剣な口調で頼まれた。
「分かった」
よく分からないが、そういうルールなのかと承諾する。トイレに立った時、確かに和紙が貼ってある部屋を見た。書き初めみたいに『天』と書かれた和紙が、ただ貼ってある。戻る時、ちらっと襖を見て、ぎょっとした。襖は薄く開かれ、真っ白な指先が襖に掛かっている。目線を上げて行くと、般若の面と目が合った。般若の面を被った誰かが、この部屋にいる。どれくらい見つめ合ってしまったか分からないが、やがて襖は音も無く閉まった。中からは、何の音も気配もしない。開けてないからセーフだよな?と思いつつ、部屋に戻る。話すことが出来ないまま、帰る時間になった。帰り際。
「お前が開けないやつで良かったよ。今まで来たやつ、結構大変だったから」
にこりと笑われ、いよいよ聞けなくなってしまった。
「また来いよ」
笑顔で言われた言葉に、何も返さず別れる。何故か帰り道で、最近クラスの欠席者が増えていることを思い出した。関係あるのかないのかは、分からない。

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