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【短編ホラー小説】短夜怪談「菊という人形」

とある旅館に宿泊した。
同行の友人と、御札とかあったりして、とふざけ半分で掛け軸の裏を見たら、あった。真ん中に“菊”と書かれた紙の人形が貼り付けられている。女の子を模しているようで、赤い着物、おかっぱ頭に黄色い菊の花が付いていた。
「本当に何かあったよ……何これどうする?」
「どうするって……そのままにしとけ。触るなよ」
一気にクールダウンしたが、その後は何事もなく温泉に浸かり、旅館の夕食も楽しんだ。
夜中。
友人に叩き起こされ、ロビーに引っ張り出された。何事かと聞いても朝まで知らなくていい、の一点張り。訳も分からず半分寝ぼけたまま朝を迎えた。
「何だったの?」
「……寝てたらさ、掛け軸の方から“菊ちゃんは寂しい女の子。どっちと遊ぼうかな”って女の子の歌ってる声が繰り返し聞こえてきたから、こりゃヤバいなって」
「ヤバいな」
二人で恐恐部屋に戻ると、掛け軸の前に、昨日の紙人形と菊の生花が落ちていた。俺も友人も見つけて以降触っていない。菊の花も、この部屋には飾られていないし、持ち込んでもいない。無言で顔を見合わせた後、荷物を引っ掴んで俺たちは部屋を飛び出したのだ。
後で調べたら、この旅館に掛け軸のある部屋はそもそも無かった。以降、宿泊先で物の裏を調べる行為は控えている。

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