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【短編ホラー小説】短夜怪談「緋の邂逅」


「ごめんね。全然会えなくて」
「いいよ、そんなの。元気だった?」
地元を離れて数年。私は街中でばったり地元の友人Iに会った。白いマスク姿だけど、目は前会った時のまま、優しい色。盛り上がって、二人で公園で駄弁った。夕方まで喋り、立ち上がる。
「このままご飯食べに行こうよ」
「ううん。私、行かなくちゃ」
「飲み物も飲んでないじゃん。自販機で買うのも遠慮して」
友人は寂しそうに笑って私を見ている。電話が鳴った。断って出れば、実家の母。
「どうしたの、今ねーー」
“Iちゃんていたでしょ。あんたの友達。今日電車に飛び込んで……亡くなったって”
「ええ?嘘でしょ?だって」
私はIを見る。Iは笑っていた。母の声が耳に流し込まれる。
“その。身体、酷い状態らしくて……”
Iが、白いマスクに手を掛け、片側のひもを外した。いつの間に夕日以上の赤に染まったそれから、目が離せない。
“ーー顎だけ、見つかって無いんだって”
「ごめんね。ご飯行けなくて」
Iは首を振り、思い直したようにひもを耳に掛ける。身体中、どこもかしこも赤くなった友人。「早く会いにくれば良かったなあ」
目を逸したら、もう二度と会えなくなる気がして。私は真っ赤な目の友人を見つめ続ける。母の声は遠ざかって行った。





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