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【短編ホラー小説】短夜怪談「柵から手」

Rさんはかつて九階建てのマンションに住んでいた。
「海から手が伸びてくる心霊写真ってよくあるじゃないですか」
「よくあるかはともかく、話は聞くね」
「それ、建物でもありますよ」
「はぁ?」
聞くと、かつて住んでいたそのマンションの屋上で心霊写真が撮れたらしい。
「友人が遊びに来て、出入り自由の屋上で写真撮ったんです。柵を背にして」
撮れた写真は、何もない柵の向こうから伸びた無数の白い手が、友人を抱きこむものだった。
気味が悪い、と凍りついたが、特に何もせず二人は解散した。
「一週間後くらいかなあ、そいつ、急に飛び降りて死んだんです」
その友人が飛び降りたのは、本人の自宅マンションだった。
「こう言うのもなんですけど、この場合、俺のマンションから飛び降りません?」
Rさんの住んでいたマンションでは、飛び降り自殺や転落事故が起きた過去はないそうだ。
「写真見ます?まだありますよ」
見せたい、と声音から伝わって来るものを感じる。

考えるまでもなく、丁重に御断りした。


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