【創作小説】佐和商店怪異集め「雛祭りの宴」
在庫取りで倉庫のドアを開けた瞬間、私・芽吹菫は結構な声量で叫んでしまい、榊さんが飛んで来た。
「どうした」
「あの、倉庫が桃源郷です」
「はぁ?」
人生でこの先きっと言わないであろうワードを口走ってしまったくらいには、動揺している。ドアの向こうには、晴れやかで明るい場所が広がっていた。桃の木が延々と植えられた野原。満開の桃の花が、空を隠すほどに広がる。心地よい風が吹いていて、酔いそうなほどの花の香りを運んで来る。他にも様々な美しい花が咲き乱れていた。これ、幻覚とかじゃないの?